若い人って公的年金で損するって聞いたけど、本当?
杉山 晃浩
近年、「若い世代は公的年金で損をする」という声をよく耳にします。少子高齢化が進む日本において、現役世代が納める保険料が将来の年金受給額に見合わないのではないかという不安は、多くの若者が抱えているのではないでしょうか。
実際に、公的年金制度の現状を見ると、若者が抱く不安には根拠があるように思えます。しかし、公的年金制度は複雑であり、単純な損得勘定で判断することは適切ではありません。本コラムでは、公的年金制度の仕組みや現状、そして若い世代が抱える不安について掘り下げ、多角的な視点から考察していきます。
公的年金制度の基本的な仕組み:賦課方式とは?
日本の公的年金制度は、基本的に「賦課方式」という仕組みで運営されています。賦課方式とは、現役世代が納める保険料を、その時の年金受給者の給付に充てる方式です。つまり、私たちが今納めている保険料は、将来の自分の年金のために積み立てられているのではなく、現在の高齢者の年金給付に使われているのです。
この仕組みは、高度経済成長期のような人口増加と経済成長が見込める時代には有効に機能しました。しかし、少子高齢化が進む現代においては、現役世代の負担が増大し、将来の給付水準が低下する懸念があります。
厚生年金と国民年金の「ねじれ」
公的年金制度は、「国民年金(基礎年金)」と「厚生年金」の2階建て構造となっています。国民年金は、日本に住む20歳以上60歳未満の全ての人が加入するもので、自営業者やフリーランス、学生などが該当します。一方、厚生年金は、会社員や公務員が加入するもので、国民年金に上乗せして給付が行われます。
ここで問題となるのが、厚生年金の保険料を国民年金の給付に充てるという「ねじれ」現象です。本来、厚生年金は、加入者が将来受け取る年金を増やすための上乗せ部分であるはずですが、現状では国民年金の財源不足を補填するために使われているのです。
この状況は、厚生年金に加入している現役世代にとっては、将来の給付に見合わない負担を強いられていると感じさせる要因の一つとなっています。
積立方式という選択肢と確定拠出年金(DC)
賦課方式の課題を解決する手段として、「積立方式」という選択肢が挙げられます。積立方式とは、現役世代が納める保険料を個人のために積み立て、将来の年金給付に充てる方式です。
積立方式は、少子高齢化の影響を受けにくく、個人の納付額と給付額が明確になるというメリットがあります。しかし、インフレに弱い、運用リスクがある、制度移行に多大なコストがかかるなどのデメリットも存在します。
この積立方式に近い制度として、確定拠出年金(DC)が注目されています。特に、企業が導入する「選択制確定拠出年金(選択制DC)」は、社員が給与の一部を掛金として拠出し、その掛金を自身で運用することで老後資産を形成する制度です。
選択制DCの最大のメリットは、掛金が社会保険料の対象とならない点です。これにより、社員は税制優遇を受けながら効率的に老後資金を積み立てることができます。
世代間格差と制度への信頼
若い世代が公的年金制度に対して不信感を抱く背景には、世代間の給付水準の差、いわゆる「世代間格差」の問題があります。高度経済成長期に社会を支えた世代と、少子高齢化の時代を生きる世代とでは、年金制度から得られる恩恵が異なるのは当然です。
しかし、その格差があまりにも大きい場合、若い世代は「自分たちは損をするだけだ」と感じてしまうでしょう。制度への信頼を回復するためには、世代間の公平性を確保する改革が不可欠です。
公的年金制度の将来と若い世代の役割
公的年金制度は、私たち国民一人ひとりの老後の生活を支える重要な社会保障制度です。しかし、現状のままでは、将来世代に過度な負担を強いることになりかねません。
制度の持続可能性を確保するためには、給付と負担のバランスを見直し、世代間の公平性を考慮した改革が求められます。そして、その改革には、若い世代の声が不可欠です。
私たち若い世代は、公的年金制度の問題点を正確に理解し、積極的に議論に参加することで、より良い制度を次世代に引き継ぐ責任があります。
結論:選択制確定拠出年金の活用を
公的年金制度の将来に不安を感じる若い世代にとって、選択制確定拠出年金(選択制DC)は、自らの手で老後資産を形成するための有効な手段となります。
選択制DCを活用することで、社員は税制優遇を受けながら効率的に老後資金を積み立てることができます。企業にとっても、社員の福利厚生を充実させ、優秀な人材を確保する上で大きなメリットがあります。
公的年金制度の改革と並行して、選択制DCのような制度を積極的に活用することで、若い世代は将来への不安を軽減し、安心して豊かな老後を送ることができるでしょう。