【第1回】男性と女性でこんなに違う!?育児休業制度の基本と実務上の注意点 ~育児休業制度を比較して、現場の混乱を防ごう~
杉山 晃浩
■ 導入:育児休業は“誰が取るか”で制度が変わる?
「育児休業って、男女でそんなに違うの?」
この質問、実はよく受けます。2025年4月の法改正で育児休業制度がさらに複雑になり、「男性育休」への関心が高まる一方で、人事担当者が制度を混同してしまう場面も少なくありません。
特に中小企業では、「制度が整っていても現場が回らない」「申出のタイミングが直前すぎて混乱する」といった声が現実にあります。
今回は、社労士としての視点から、男性と女性で異なる育児休業の制度内容や実務上の違いをわかりやすく整理し、現場での対応に役立つポイントをお伝えします。
■ 共通している部分【基礎知識のおさらい】
まず、男女ともに共通している育児休業の基本から押さえておきましょう。
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育児休業は、原則として「子が1歳になるまで」取得できる。
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保育所に入れない等の理由があれば、1歳6か月 → 2歳まで延長可能。
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雇用保険の被保険者であれば、育児休業給付金の支給対象。
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「分割取得」も可能(通常の育児休業は2回まで)。
ここまでは男女共通です。しかし、実務で問題になるのは、**この先にある「違い」**です。
■ 男性と女性で異なる制度上のポイント
以下のような違いを押さえておくことで、現場対応の正確さがグッと上がります。
比較項目 | 男性 | 女性 |
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育児休業の開始時期 | 出生後すぐから取得可能だが、本人の出産がないため調整が必要 | 出産翌日から産後休業(8週間)があり、その後育児休業へ |
産後パパ育休(出生時育児休業) | あり(出生後8週以内に最大4週間、分割可) | なし(母は産後休業中で取得対象外) |
分割取得 | 「産後パパ育休」2回+「通常育休」2回 → 最大4回可 | 「通常育休」2回まで |
職場での取得ハードル | 「取りづらい雰囲気」や「前例がない」ことが多い | 取得が当然とされている職場が多い |
社内フロー | 後出しになりやすく、事前調整が難しい | 産前からスケジュールが立てやすい |
実際の取得率(R5年度) | 約30.1% | 約84.1% |
このように、同じ“育児休業”でも、運用の難しさは男性の方が上です。特に、「産後パパ育休」と「通常の育休」をどう切り分けるかで、企業側の手続きが煩雑になるケースも多くあります。
■ 制度を“誤解”している現場も多い
たとえば…
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「男性も産後休業があると思っていた」
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「育児休業って1回だけじゃないの?」
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「パパママプラスって、名前がかわいいけど制度内容が全然わからない」
こんな声が人事の方からも上がっています。
制度が難しいのではなく、制度の「名前」が似すぎていることも、混乱を招いている要因です。
■ 社労士としてのアドバイス:どう整理すべきか?
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制度比較表を社内に設ける
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男女別に「取得タイミング」「申出期限」「申請書類」などを可視化。
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「取得申出のフロー」を明文化する
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特に「産後パパ育休」は2週間前申出が基本。社内調整の余地を持たせる工夫が必要。
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「育児休業Q&A集」を用意する
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現場のリーダーや管理職にFAQを共有しておくと、問い合わせ対応がスムーズになります。
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■ まとめ:制度の違いを理解することで、混乱は防げる
男性育休は、今後ますます“普通の選択肢”になります。
しかし、その制度設計が“柔軟すぎる”がゆえに、企業側の対応力が問われる時代でもあります。
まずは、男性と女性で異なるポイントを正しく整理し、伝えやすくしておくことが、円滑な制度運用の第一歩です。
次回は、ややこしいと評判(!?)の「産後パパ育休」と「パパ・ママ育休プラス」について、図解つきで徹底解説します。どうぞお楽しみに!