退職金制度の見直しが未来を守る ― 社労士が語る、インフレ時代の賢い選択3
杉山 晃浩
【第3回】確定給付型から確定拠出型へ!退職金制度見直しのすすめ
はじめに:退職金制度に求められる「新しい当たり前」
第1回・第2回でお伝えした通り、
物価高、賃金上昇、そして従業員の価値観の変化により、
従来の退職金制度をそのままにしておくことは極めてリスキーになっています。
特に、
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将来いくら支払うかが読めない確定給付型(DB)
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物価上昇に追いつかない中小企業退職金共済(中退共)
は、今後さらに経営リスクを高める要素になりかねません。
そこで今回は、
「どうやってこのリスクを回避するか」
具体的な見直し方法として、
確定拠出型(DC型)への移行をご提案します。
確定給付型と確定拠出型 ― 仕組みの違いを整理
まず、改めて両者の違いを簡単に整理しておきましょう。
項目 | 確定給付型(DB) | 確定拠出型(DC) |
---|---|---|
支払責任 | 会社が将来の支給額を保証 | 会社は毎月の拠出のみ責任 |
将来のリスク | 給与上昇・在籍年数増加で負担拡大 | 負担は拠出時点で確定 |
従業員のメリット | 安定した支給が前提 | 自分で運用する自由がある |
企業のメリット | 制度維持で「安心感」 | 財務負担が読みやすく、リスク小 |
確定給付型は「会社が未来の約束をする」制度。
確定拠出型は「会社は拠出だけ、運用は本人責任」の制度です。
なぜ今、確定拠出型(DC型)なのか?
時代が変わり、退職金に求められる要素も大きく変化しました。
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【時代背景】物価・賃金上昇リスク
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【働き方】長期雇用が当たり前ではない
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【人材】自己資産形成に関心が高まる若手世代の台頭
この流れの中で、
企業にとっても、社員にとっても、確定拠出型がフィットする時代に入っているのです。
【具体例】確定拠出型に移行した中小企業の声
宮崎市内でサービス業を営むC社(従業員45名)は、
10年以上前から確定給付型の退職金制度を運用してきました。
しかし、ここ数年の急激な初任給アップ・賃上げ競争の中で、
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将来の退職金支払い額が試算不能
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経営者自身が「不安で夜も眠れない」
という状態に。
思い切って制度を見直し、
「企業型確定拠出年金(企業型DC)」を導入。
会社が毎月定額を拠出する方式に切り替えました。
結果、
✅ 毎月の会社負担額が明確になった
✅ 財務の見通しが劇的に改善
✅ 社員からも「自分で運用できる楽しみがある」と好評
という、三方良しの結果に。
経営者は
「もっと早くやっておけば良かった」
と振り返っています。
企業側のメリット(リスクヘッジ・財務の健全化)
確定拠出型にすることで、企業側には次のメリットがあります。
✅ 支払責任が拠出時点で完了
未来の不確定な債務から解放されます。
✅ 財務諸表がスッキリする
退職給付債務の計上が不要になり、企業価値向上にもつながります。
✅ 経営判断の自由度が上がる
退職金債務に怯えることなく、M&Aや設備投資に踏み切りやすくなります。
従業員側のメリット(資産形成支援・納得感向上)
社員にとっても、DC型には大きなメリットがあります。
✅ 「自分のお金」という実感
拠出額や運用状況が見えるため、資産形成の意識が高まります。
✅ 税制メリット
企業拠出分は所得税非課税、運用益も非課税。
退職時には退職所得控除の対象にもなり、有利に受け取れます。
✅ 多様なライフプランに対応できる
転職・独立・セカンドキャリアなど、時代に合わせた柔軟な資産形成が可能です。
事例紹介:Aのみプランで小規模企業でも導入しやすい!
特に注目されているのが、
**「Aのみプラン(会社拠出のみ)」**という設計です。
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毎月3000円~55000円の範囲で会社が拠出
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従業員負担なし
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シンプルで分かりやすい
中小企業でも無理なく導入でき、社員にも喜ばれるプランです。
最近では、
「うちは中退共の代わりにAのみプランを採用した」
という企業も増えています。
【まとめ】経営者と社員の未来を守るために
✅ 物価・賃金上昇に怯えない退職金設計
✅ 社員にも企業にもメリットのある仕組み
✅ 財務リスクを減らし、成長戦略に集中できる環境
それが、確定拠出型退職金制度への見直しの最大のメリットです。
「退職金制度は、会社の将来設計の一部」
これからは、そう考えて制度を選び、育てていく時代です。
次回は、いよいよ
**退職金制度を見直す際の「社員説明のコツ」と「不利益変更対策」**について、
社労士ならではの視点で、実務的にアドバイスしていきます!