職員10人未満でもできる!小規模介護事業所のためのキャリアパス制度のつくり方
杉山 晃浩
「うちは職員が9人しかいないから、キャリアパス制度なんて無理だよね……」
そんな声を、小規模な介護事業所の経営者さんからよく耳にします。
でも実は、職員10人未満の小規模介護事業所でも、自社に合ったキャリアパス制度をつくることは十分可能です。
むしろ小規模だからこそ、一人ひとりの職員が納得し、やる気を持って働ける制度設計が現場を変える力になるのです。
近年、処遇改善加算や特定処遇改善加算を取得するために、キャリアパス要件の整備がますます重要視されています。
しかしながら、現場ではこうした悩みも多く聞かれます。
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「何から手をつけて良いか分からない」
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「文書を作るのが苦手で、厚労省の資料を読むのも一苦労」
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「たった1人の管理者が何でも抱えてしまっている」
このブログでは、そんな零細〜小規模の介護事業所向けに、キャリアパス制度を“自力で”“シンプルに”作る方法をわかりやすく解説します。
さらに、**制度づくりを支援する外部サポート(社労士事務所による支援)**についてもご紹介しますので、ぜひ最後までお読みください。
第1章:なぜ今、小規模事業所でもキャリアパス制度が必要なのか
「うちは小規模だから、キャリアパスなんて大げさなものは要らない」
「10人未満の職員で“制度”なんて作る暇もないし、意味があるとも思えない」
そんな声をよく耳にします。実際に、職員数が5~9人ほどの介護事業所では、業務に追われる日々の中で、制度設計にまで手が回らないのが現実です。
しかし今、その“小規模”だからこそ、キャリアパス制度が必要だと言われています。なぜでしょうか?
◆ 理由①:処遇改善加算の要件になっているから
最も分かりやすい理由は、処遇改善加算(Ⅰ)や特定処遇改善加算を取得するための「キャリアパス要件」が必須条件になっているという点です。
加算は介護職員の処遇改善(給与アップ)のために重要な財源です。
そして加算を取得するには、次のような3つの要件を満たすことが求められています。
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職位・職責・役割に応じた任用制度の整備
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職位に応じた賃金体系の整備
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資質向上のための研修の計画的な実施
つまり「キャリアパス制度を整備しなければ、加算が取れず、職員への還元もできない」構図になっているのです。
◆ 理由②:人材定着のために“見える道”が必要だから
人材が定着しにくい最大の理由の1つは、**「自分がこの先どう成長していけるのか、先が見えないこと」**です。
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「いつまでたっても同じ給料、同じ役割…」
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「がんばっても評価されてるかわからない…」
こうした状態では、特に若手や中堅職員のモチベーションが低下しやすく、退職の引き金になりかねません。
小規模であっても、「あなたはここまでできたら次はこういう役割にステップアップできる」という**“成長の道筋”を見える化すること**が、実はとても重要なのです。
◆ 理由③:限られた人材を活かすには「役割分担」がカギ
10人未満の組織では、1人の退職が与える影響がとても大きくなります。
そのため、職員一人ひとりが「自分の役割」を自覚し、自立的に動ける組織づくりが求められます。
キャリアパス制度を活用すれば、役割の明確化やリーダー候補の育成が可能になります。
特に「指導役」「シフト調整役」「情報伝達役」などの**“非管理職リーダー”の育成**は、小規模事業所にこそ適したマネジメント方法です。
◆ “制度”は会社のためではなく、現場の安心のために
キャリアパスと聞くと、「会社の都合で作る堅苦しい制度」と思われがちですが、本質は違います。
それは、現場で働くスタッフにとっての**「安心」と「期待」を生む仕組み**です。
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今の自分に期待されている役割がわかる
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次の目標が見える
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何を頑張れば評価されるかが明確になる
このような状態をつくることが、小規模事業所の安定と成長に直結しているのです。
第2章:小規模事業所が制度づくりでつまずく3つのポイント
「キャリアパス制度が大切なのはわかる。けれど、うちにはそんな余裕はないんです……」
そう感じている小規模介護事業所の経営者や管理者は少なくありません。
とくに職員数が10人未満、事務員を置く余裕もない零細事業所では、「制度づくり」に取り組もうとしても、以下のような“つまずきポイント”が壁となります。
◆ つまずき①:職位(ポジション)が少なすぎて制度が作れない
大規模法人のように「初任者→中堅→主任→副主任→係長→課長」といった階層がそもそも存在しない――
これは小規模事業所にとってごく自然な状態です。
しかし、それでもキャリアパス制度は作れます。
なぜなら、「職位」ではなく「役割」で分ける」という発想に切り替えることで制度設計が可能になるからです。
🔸 例:
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「介護職員(現場担当)」
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「OJT補佐係(後輩指導役)」
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「業務調整係(シフトや記録管理)」
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「現場リーダー(カンファレンスの進行や苦情対応)」
このように、形式的な“職位名”がなくても、役割や貢献の段階を示すことでキャリアパスは十分に機能します。
◆ つまずき②:評価や昇格の仕組みが存在しない
「誰が何をどこまでできるのか」を言語化していない事業所では、評価基準や昇格のルールが曖昧です。
これは「キャリアパスを作ろうにも、土台がない」という状態です。
ここで大切なのは、完璧な評価制度を目指さないこと。
最初はシンプルで構いません。
🔸 例:
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勤務年数(例:1年・3年・5年)
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資格(例:初任者研修・実務者研修・介護福祉士)
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経験(例:OJT経験・苦情対応・会議参加)
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面談(例:施設長とのキャリア確認)
評価項目を5~6個に絞り、昇格の目安として活用することで、制度としての体裁が整います。
◆ つまずき③:「制度を文書化」することが苦手
最後に大きな障壁となるのが「文書の作成と整理」です。
キャリアパス制度を加算の根拠として提出するためには、一定の文書整備が必須になります。
しかし、
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WordやExcelを使い慣れていない
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どこまで書けばいいのかわからない
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厚労省の通知文は難しくて読めない
という声は少なくありません。
この課題を解消するには、
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既存のテンプレートを活用する
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外部専門家(社労士等)の支援を受ける
という“力の借り方”も視野に入れて構いません。
「自力で全部やらなきゃ」と思い詰めず、経営資源をうまく使うことも経営判断のひとつです。
第3章:キャリアパス制度はこう作る!5ステップでできる導入法
「制度を作るのは大変そう」「専門家じゃないと無理でしょ?」
そんな印象を持たれがちなキャリアパス制度ですが、実はたった5つのステップで、小規模事業所でも現場にフィットする制度をつくることができます。
ここでは、ゼロから始めても安心して取り組める、シンプルな構築手順をご紹介します。
◆ STEP1:現場の“役割”を棚卸しする
最初に行うべきは、「うちの職場にはどんな役割があるか?」を洗い出すことです。
ここでのポイントは、肩書きではなく実際の“役割”に着目することです。
🔸 例:
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身体介助や生活支援を行う「現場担当」
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新人さんの面倒を見てくれる「指導係」
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シフトや申し送りを調整する「業務調整係」
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苦情を受け止めたり、会議を進行する「リーダー役」
このように、すでに存在している仕事の“かたち”を制度の素にするのがコツです。
◆ STEP2:役割ごとに「期待されること」を言語化する
次に、それぞれの役割において「どんな働きをしてくれると嬉しいか(期待する行動)」を言葉にします。
🔸 例:
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指導係 → 「新人への声かけや記録の確認を丁寧に行う」
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業務調整係 → 「ミスや抜けが出ないように前日の業務をチェックする」
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リーダー役 → 「利用者やご家族への報告・相談をまとめる」
こうした期待を言語化することで、「何ができれば次のステップに進めるのか」が見えてきます。
◆ STEP3:昇格の目安を設定する(シンプルでOK)
キャリアアップの道筋を作るためには、「次の役割に進むための基準」を簡単に決めておく必要があります。
🔸 昇格基準の例:
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勤務年数(例:現場担当から指導係へ → 1年以上)
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資格(例:リーダー役には介護福祉士が望ましい)
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経験(例:OJTの実施回数、ミスゼロ記録など)
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面談(例:施設長との定期面談で意欲確認)
完璧な評価表は不要です。「この人なら任せられるな」と思える目安を文書で残せれば十分です。
◆ STEP4:評価とフィードバックの流れをつくる
制度が形になったら、評価とフィードバックのタイミングを決めておくことで、実効性が生まれます。
🔸 実施のタイミング例:
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半年に1回のキャリア面談
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年1回の昇格チャンス(評価見直し)
日々の会話の中で済ませてしまうより、“節目”を設けることで、職員が目標を意識しやすくなります。
◆ STEP5:制度を紙1枚にまとめて職員に伝える
最後は、作成した制度を紙1枚でわかりやすくまとめ、職員に共有することです。
🔸 ポイントは以下の3つだけでOK:
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自分の役割とその内容
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次に目指す役割とその目安
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ステップアップのチャンスの時期
「え?これだけでいいの?」と思うかもしれませんが、小規模事業所ではシンプルで運用しやすい仕組みこそが成功のカギです。
キャリアパス制度とは、「がんばりがいのある職場」をつくる道具です。
この5ステップで、あなたの事業所にも**“未来が見える職場づくり”**が可能になります。
第4章:事業所の規模別・実例テンプレート(Excel・Word)
ここまで読んでいただいた方の中には、
「やる気はあるけど、いざ書こうとすると手が止まる」
「制度の“見える化”って、やっぱり難しいかも…」
そんな不安を感じた方もいらっしゃるかもしれません。
そこで、この章では、**小規模介護事業所でもすぐに使える“実例テンプレート”**をご紹介します。
WordやExcelで編集できる形式で、制度づくりの第一歩をサポートします。
◆ テンプレート①:職務基準書(役割ごとの仕事と求められる力)
職務基準書は、各役割において**「何をするのか」「どんなスキルや姿勢が求められるか」**を明文化したシートです。
職位 | 主な業務内容 | 必要スキル | 求められる態度 |
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介護職員(初任者) | 利用者の生活支援、身体介護、記録の記入 | 基本的な介護技術、報連相 | 協調性、丁寧さ |
サブリーダー | 新人指導の補助、記録チェック、フォローアップ | 判断力、報告スキル | 模範行動、後輩への配慮 |
リーダー | シフト作成、カンファレンス主導、苦情対応など | 調整力、リーダーシップ、説明力 | 組織視点での責任感、主体性 |
管理職 | 職員マネジメント、行政対応、事業計画作成など | 経営視点、制度理解、対応力 | 公的責任意識、ビジョン共有 |
👉 現場で実際に「あるある」な仕事から出発しているため、導入しやすく、書類も説得力のあるものになります。
◆ テンプレート②:昇格基準表(ステップアップの目安)
昇格基準表は、「次の役割に進むためには何が必要か?」を見える化するためのツールです。
昇格対象職位 | 必要資格 | 必要年数 | 求められる実績 | 面談・評価要件 |
---|---|---|---|---|
サブリーダー | 初任者研修修了 | 1年以上 | OJT補佐経験、利用者との良好な関係 | 管理者との面談、推薦あり |
リーダー | 介護福祉士 | 3年以上 | シフト作成補助、チーム内での指導経験 | 簡易評価シートで80点以上 |
管理職 | 介護福祉士+リーダー経験 | 5年以上 | 運営会議参加、記録・労務管理への参画経験 | 管理職推薦+最終面接 |
👉 これを使えば、「誰をどう昇格させるべきか」が一目でわかります。主観や感覚ではなく、基準に基づいた判断ができるようになります。
◆ 利用方法とカスタマイズのコツ
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必要なところだけ書き換えて使うだけでOK!
例:リーダーの呼び方を「チームリーダー」「サービスリーダー」に変更など -
人数が少ない場合は、職位を減らしてもOK!
たとえば「初任者 → 指導係 → リーダー」の3ステップでも十分成立します -
使いやすくなるコツ:
✔ Wordで印刷して掲示 ✔ Excelで評価欄を作って面談時に活用 ✔ PDF化して職員に配布
第5章:とはいえ、作るのが難しい…そんなときはプロに頼るという選択肢も
ここまで読んでくださった皆さまは、
「キャリアパス制度って、なんとか作れそうだな」
「うちもやってみたい」
そんな前向きな気持ちを抱かれているかもしれません。
でも一方で、次のような声も実際によく耳にします。
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「パソコンが苦手で、ExcelやWordを開くのもしんどい…」
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「制度を作っても、ちゃんと運用できるか不安」
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「一人事務で日々回すのが精一杯。とても時間が取れない…」
そう、やる気はあっても“マンパワー不足”という現実的な壁は、小規模介護事業所にとって非常に大きいのです。
◆ 自社で作れない=経営者として失格、ではない
まずお伝えしたいのは、
「キャリアパス制度を自分で作れないからといって、経営者として未熟だというわけではない」
ということです。
中小・零細事業所においては、経営者=管理者=現場の何でも屋というケースも多く、制度設計にまで手が回らないのは当然ともいえます。
そんなときは、プロの力を借りること自体が、賢い経営判断です。
◆ オフィススギヤマのキャリアパス作成支援サービス
私たちオフィススギヤマでは、介護・福祉事業所の皆さまに向けて、令和7年度対応のキャリアパス制度構築支援を行っています。
✅ 現場の実情に合った「職務基準書」や「昇格基準表」の作成
✅ 処遇改善加算に必要なキャリアパス要件の文書整備サポート
✅ 面談制度や評価制度との連動提案
✅ 監査や実地指導への対応アドバイス
など、単なる「書類作成代行」ではなく、制度が“現場で生きる”ことを目指した実践的支援を行っております。
◆ こんな事業所におすすめです
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職員数が5〜10人前後で、管理者が兼務している
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加算は取っているが、キャリアパス文書は最低限に留まっている
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職員の定着や育成に課題を感じている
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これから制度化を検討したいが、最初の一歩が踏み出せない
「制度を整えて、もっと良い職場にしたい」
その想いがある事業所であれば、どんなに小規模でも全力で伴走します。
◆ まずはご相談だけでもOKです
作成支援は、スポット支援も定額支援も可能です。
まずはご相談だけでも構いませんので、お気軽にお声かけください。
最終章:キャリアパスは“書類”ではなく“職場の成長戦略”です
キャリアパス制度というと、「処遇改善加算のために作る書類」「お役所向けの帳面仕事」といったイメージを持たれることも少なくありません。
ですが、ここまで読み進めてくださった方にはもうお分かりいただけたのではないでしょうか。
本来のキャリアパス制度の目的は、職員一人ひとりの成長と、事業所全体の持続的な発展のための“しくみ”をつくることにあります。
◆ 小さな組織こそ「人」で成り立っている
小規模介護事業所では、1人の職員が退職するだけで、業務や雰囲気、職場全体の流れが大きく変わります。
つまり、「人」がすべての事業資源なのです。
だからこそ、職員にこんなメッセージを伝えられる制度が必要です。
「あなたにはここまで期待している」
「がんばり次第で、もっと上を目指せる」
「あなたの存在が、この職場にとって本当に大切なんだ」
キャリアパス制度は、そうした**“見えにくい想い”を、形にして伝える手段**でもあるのです。
◆ キャリアパスは“評価”ではなく“応援”
評価制度と聞くと、「できていないところを指摘する」「点数で裁く」といったネガティブな印象を持たれがちです。
しかし、キャリアパス制度の本質はむしろ逆です。
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今の自分の強みを再認識できる
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自分に何が求められているかがわかる
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「次に目指す目標」が明確になる
つまりこれは、職員を評価する制度ではなく、**職員の可能性を信じて“応援する制度”**なのです。
◆ 小さくても、本気で育てる組織は選ばれる
職員10人未満でも、キャリアパスを整え、日々の声かけや面談で活用している事業所には、共通した空気感があります。
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新人が「ここで働いてよかった」と思える
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ベテランが「この職場だからこそがんばれる」と感じる
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管理者が「人が育ってきた実感」を持てる
それが結果的に、離職率の低下、応募者の増加、処遇改善加算の安定取得にもつながっていきます。
◆ 最後に:今だからこそ、制度を「自分たちのもの」にしよう
制度づくりに完璧を求める必要はありません。
大事なのは、「うちの事業所にはどんな未来が必要か?」を考えることです。
その答えが、“小さなキャリアパス制度”という形で現場に根づけば、
きっと、職員の意識も変わり、組織の風向きも変わっていくはずです。
私たちオフィススギヤマは、そんな小さな変化を“カタチ”にするお手伝いをしています。
この情報が、あなたの事業所にとっての一歩になることを願っています。