【第2回】会社を守る!健康診断義務と健康経営のすべて:非正規雇用対応まで徹底解説(全5回シリーズ)

杉山 晃浩

健康診断をしないとどうなるの?実施しないリスクと現場対応策


はじめに

「健康診断なんて形式的なもの」「正直コストが重い」――そう考える経営者や人事担当者は少なくありません。
しかし、健康診断を怠ったことによる企業側のリスクは予想以上に深刻で、最悪の場合、会社の存続すら危うくなることがあります。

今回は、健康診断未実施によるリスクとその具体的な事例、さらに健康診断を拒否する従業員への対応策を詳しく解説します。


1. 健康診断をしない場合の法的リスク

まず、会社が法的に負うリスクを整理します。

リスク項目 内容
法令違反 労働安全衛生法第66条違反。労基署の是正勧告、違反確認で50万円以下の罰金(安衛法第120条)。
安全配慮義務違反 労働契約法第5条違反。従業員の健康維持に必要な措置を怠った場合、民事責任(損害賠償)が発生する可能性。
業務上過失致死の刑事責任 健康診断未実施や就業措置未実施が直接原因で従業員が死亡した場合、業務上過失致死(刑法211条)に問われ、役員・経営層が個人的責任を負うリスク。
社会的信用の失墜 労災や過労死問題が発生した場合、行政処分・マスコミ報道により企業の社会的信用が大きく低下。採用・営業活動に深刻な影響を及ぼす。

2. 実際に起きた事例・判例

✅ 事例1:飲食チェーンの未実施指摘と是正勧告

全国展開する飲食チェーンで、アルバイトスタッフ(週40時間勤務)に対する健康診断未実施が労基署に指摘され、是正勧告。
改善報告を提出したが、一部店舗で再発し、最終的に書類送検。ブランドイメージに深刻なダメージ。

✅ 事例2:中小運送業者での死亡事故

運送業者のドライバーが心疾患で死亡。
調査の結果、5年以上健康診断未実施と判明。
遺族から安全配慮義務違反で損害賠償請求、会社は約5000万円を支払うことに。

✅ 事例3:健診未実施による労災認定拒否

工場勤務者が脳出血で倒れるも、会社が定期健診を10年間実施しておらず、労災の一部が認められず。
遺族側・会社側双方に後味の悪い結末となり、地域の評判が悪化。


3. 健康診断を拒否する従業員への対応策

一方、「社員が健診を受けたがらない」という悩みも現場ではよくあります。
以下に対応策をまとめます。

対策カテゴリ 具体的対応例
周知・説明 健康診断は労働契約の一環であり、業務命令としての性格を持つことを説明する。
社内ルール化 就業規則や社内規程に「健康診断受診義務」を明記。受診拒否は業務命令違反と位置づける。
柔軟な対応 勤務シフトや場所の調整、個別相談の実施。健康診断が苦手な理由(過去のトラウマなど)をヒアリングし、必要なら医師・産業医と連携。
文書指導 口頭指導で改善しない場合、文書による指導。最終的には人事評価や懲戒対象とすることも検討(ただし慎重に)。

4. 労基署調査のポイント

労基署が健康診断を確認する際、主に以下の点を見ます。

チェック項目 確認内容
健診実施記録 健診を実施した日付・対象者・内容が記録されているか。健診結果は5年間保存義務あり。
対象者の妥当性 パート・アルバイト、特定業務従事者、非正規雇用者を含め、対象者に漏れがないか。
健診後の対応 異常所見者への結果通知、医師の意見聴取、就業措置の履歴が整備されているか。
就業規則・規程整備 就業規則や衛生管理体制が整っており、健康診断受診義務が明文化されているか。

5. 実務のまとめと提案

健診の対象者を全員リスト化する
アルバイト・契約社員を含め、雇用形態に基づいて全員をリスト化。

健診実施記録を残す
結果通知書・受診者リスト・産業医の意見聴取記録をまとめ、5年間保管。

健診拒否者には段階的に対応する
説明 → 書面指導 → 必要なら産業医介入と段階を踏む。

定期的に産業医・健診機関と連携する
健診後のフォロー体制を含めた相談・改善策を立てる。


6. 健診の“投資”としての考え方

最後に強調したいのは、健康診断を「単なるコスト」ではなく「将来への投資」と捉える視点です。

コストとしての視点 投資としての視点
1人あたり1万円前後の健診費用 生活習慣病・労災・休職リスクの回避
年1回の手間 従業員のモチベーション・信頼感の向上、採用競争力の強化
法令順守対応だけ 健康経営優良法人・ホワイト企業のアピール材料

まとめ

健康診断を実施しないことのリスクは、想像以上に大きい――
法的リスクだけでなく、経営や企業イメージにも深刻なダメージを与える可能性があります。

健診拒否社員への対応も、法的根拠と段階的な対応を理解していれば冷静に対処できます。

次回の第3回では、「健診結果の取扱い」「二次健診と医師意見聴取の違い」を解説し、特に50人未満の事業所が抱える課題と対策を深掘りします。
どうぞご期待ください!

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