就業規則の教科書:新米経営者と人事担当者のためのトラブルなしマニュアル 第3回: 「解雇・退職の際の手続きとハラスメント対策をしっかり整える」

杉山 晃浩

はじめに

就業規則を作成する際、給与や労働時間、休暇に関する取り決めは非常に重要です。しかし、解雇退職に関する規定や、職場でのハラスメントに対する対策も、同じくらい重要です。これらの事項が不明確なままだと、従業員との間でトラブルが生じる可能性があります。特に解雇や退職に関する手続きは、法的な規定に則っていないと、企業が法的リスクを負うことになりかねません。

今回は、解雇・退職の際の手続きハラスメント対策について、どのように就業規則に盛り込むべきかを解説します。初心者の経営者や人事担当者の方でも理解できるよう、わかりやすく説明していきます。


1. 解雇の基本ルール

1-1. 解雇の理由と手続きを明確にする

解雇は、企業にとって非常にセンシティブな問題です。不当な理由で従業員を解雇してしまうと、労働基準法労働契約法に違反することになります。そのため、解雇に関するルールは明確に定めておく必要があります。

就業規則には、解雇事由(理由)や解雇の手続きを明確に記載しましょう。例えば、「業務に重大な支障をきたす場合」や「業務態度が著しく不良である場合」など、具体的な解雇理由を示すことが大切です。また、解雇をする際には事前の警告改善のためのチャンスを与えるなど、適切な手続きを踏むことが求められます。

1-2. 解雇の種類を定める

解雇には大きく分けて以下の2種類があります。

  • 普通解雇(自己都合退職以外での解雇)

  • 懲戒解雇(規則違反などがあった場合に行う解雇)

就業規則では、これらの解雇の違いを明確にし、それぞれの条件や手続きについて記載しておくことが重要です。例えば、懲戒解雇は通常、従業員が重大な規則違反を犯した場合に限られますが、その具体的な基準を就業規則に定めておけば、解雇時のトラブルを防ぐことができます。

1-3. 解雇予告と予告手当

解雇を行う場合、解雇予告の規定も必要です。労働基準法において、解雇予告期間は最低でも30日間と定められており、それを守らない場合は、解雇予告手当を支払う必要があります。

解雇予告手当は、解雇の30日前に予告をしない場合に支払う賃金のことです。就業規則には、この予告手当の支払い方法や条件を明記しておきましょう。


2. 退職の基本ルール

2-1. 退職届と退職手続き

従業員が退職する際には、退職届を提出してもらうことが一般的です。退職届は、退職の意思を明確に伝えるための書類であり、その内容についても就業規則で定めておくと良いでしょう。たとえば、退職届の提出期限や、退職手続きの流れを明示することが重要です。

退職後の手続きについても、就業規則で整理しておきます。例えば、退職金の支払い有給休暇の消化など、退職後に必要な手続きについて、従業員が理解できるように記載しておくとトラブルを防げます。

2-2. 退職金の取り決め

退職金に関する規定も、就業規則に盛り込むべき重要な項目です。退職金は企業によって支給基準が異なるため、事前にその取り決めを就業規則に記載しておくことで、従業員と企業側双方の誤解を防ぐことができます。

退職金を支給する場合、支給額や支給タイミング、支給条件などを明確に記載しておきましょう。例えば、勤続年数に応じて支給額が増えるなどのルールを設けることが考えられます。


3. ハラスメント対策の基本ルール

3-1. ハラスメントとは?

ハラスメントとは、セクシャルハラスメントパワーハラスメントなど、職場内での不適切な行為を指します。ハラスメントは従業員の心身に深刻な影響を及ぼし、企業にとっても大きなリスクとなるため、事前に予防策を講じておくことが非常に重要です。

ハラスメントには、性的な言動や態度暴言や不当な命令などが含まれます。これらを防ぐためには、企業として明確な規定を設け、従業員全員にそのルールを周知徹底させる必要があります。

3-2. ハラスメント防止のための取り組み

就業規則には、ハラスメントに対する禁止事項苦情処理の方法を定めておきましょう。例えば、以下のような項目を明記することが考えられます。

  • ハラスメント行為の具体例

  • ハラスメントの通報窓口

  • 通報後の対応方法

  • ハラスメント行為を行った場合の処罰

従業員がハラスメントの被害にあった場合、被害者の安全を守るために、迅速に対応できる体制を整備することが重要です。就業規則にこれらのルールを明確に記載しておくことで、職場でのトラブルを予防することができます。

3-3. 研修や教育の実施

ハラスメントを防止するためには、従業員への教育や研修も欠かせません。定期的にハラスメント防止研修を実施し、全従業員に対してハラスメントに対する意識を高めることが大切です。研修内容には、ハラスメントの定義や具体例、通報方法などを含め、従業員が実際にどのように対応すべきかを理解できるようにします。


まとめ

解雇や退職に関するルール、そしてハラスメント対策は、従業員の安心感と企業の安定した運営に直結する非常に重要な要素です。これらの取り決めが曖昧だと、後々のトラブルに発展することが考えられます。しっかりとした規定を就業規則に盛り込み、企業としての責任を果たすことが、長期的な成功に繋がります。

次回は、就業規則の更新方法や、法改正への対応について解説します。

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