“そのとき”は突然やってくる!中小企業社長にこそ必要な任意後見制度の話
杉山 晃浩
第1章:ある日突然、社長が倒れたら――経営が止まるという現実
社長が病気や事故で突然倒れた。その瞬間、会社が止まる——。中小企業では珍しくありません。特に、家族経営やワンマン経営の会社では、社長の判断がすべてを動かしているケースが多くあります。ところが、判断能力を失った瞬間から、
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銀行口座が凍結される
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契約書にサインできない
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株主としての議決権も行使できない
というように、会社の日常的な経営すら立ち行かなくなります。社員は動けず、取引先も不安に。まさに“経営空白”が始まります。
第2章:「まだ元気だから大丈夫」…そう思っていたあの社長も
「自分は元気だから大丈夫」「倒れたとしても、家族が何とかしてくれる」そう思っている経営者は多いものです。
しかし、現実には、家族でも勝手に社長の財産を動かすことはできません。判断能力を失えば、家庭裁判所が法定後見人を選任します。そして、その後見人が、経営や財産の判断に介入してくるのです。家族ですらお金を引き出せず、会社のための支払いも滞ります。現場を知らない専門職が後見人になり、経営のスピード感は失われてしまいます。
第3章:“そのとき”の備えが、任意後見契約という選択肢
そこで注目されているのが「任意後見制度」です。これは、社長がまだ元気なうちに、信頼できる人(たとえば家族や後継者)に「もしもの時の判断」を任せておく仕組みです。公正証書で契約を交わしておき、いざという時に家庭裁判所の監督のもとで効力を発揮します。
任意後見は、会社の意思決定を止めない「保険」のような存在です。そして、この制度を使うには「誰に任せるか」を事前に決めておく必要があります。それこそが、事業承継への第一歩でもあるのです。
第4章:任意後見契約だけで終わらせない——人事制度と後継者対策へ
任意後見契約で「誰に任せるか」を決めたら、次はその人が将来的に経営者として動けるように、組織的な準備を整えることが大切です。具体的には、
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後継者候補の選定と育成
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人事評価制度の設計
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責任と権限の明文化
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チーム運営の仕組み化
などです。任意後見は、将来の経営権委譲のトリガーになります。だからこそ、個人に任せっきりにせず、組織として動けるよう整備していくことが、経営の継続性につながります。
第5章:制度も仕組みも「作って終わり」にしないために
任意後見契約や評価制度を導入しても、実際に運用されなければ意味がありません。日常の業務のなかで、後継者が小さな決裁を積み重ね、組織が徐々に自走できる体制になってこそ、仕組みが活きてきます。
また、制度を整えるうえで重要なのが「経営者の価値観や判断基準の共有」です。マニュアルだけでは伝わらない“社長の想い”を、仕組みとセットで引き継いでいく必要があります。そのためには、社労士による支援が非常に有効です。
第6章:まずは一歩。「社長がいなくても動ける会社か?」を一緒にチェック
会社の未来は、社長一人の健康や判断能力に依存すべきではありません。
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任意後見契約を使って、信頼できる人に備えを託す
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後継者とともに、人事制度や責任体制を整備する
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組織としての「自立力」を高めていく
これらの準備が、会社の“もしも”を乗り越える力になります。
杉山事務所では、後見業務自体は行っておりませんが、事業継続の仕組みづくり、人事制度の設計、後継者育成の支援などを通じて、経営者と企業の未来づくりをお手伝いしています。