「気づいていなかった“職場の沈黙”」 ~ESチェックが導いた、ある地方クリニックの変革ストーリー~
杉山 晃浩
◆ 「なんとなく、元気がない」――それは“始まり”だった
「最近、スタッフの元気がない気がするんだよね」
そうつぶやいたのは、ある地方都市(人口5万人)にある創業15年の内科クリニックの院長・佐藤先生(仮名)でした。
診察室ではいつも笑顔で患者さんを迎える彼ですが、ここ最近はスタッフの表情がどこか曇って見える。
明るい声が飛び交っていたはずのバックヤードが、妙に静かに感じることが増えていたのです。
「何か変わったのか?」そう思いながらも、目立ったトラブルがあるわけではない。
辞める人もいれば、入ってくる人もいる。いつものことだ。
そう自分に言い聞かせながら、日々の診療を続けていました。
しかし、院内では確実に“何か”が起きていたのです。
◆ 成長できない職場で、若手は離れていく
佐藤先生のクリニックは、正規スタッフ10名、パートスタッフ10名という中規模。
年齢層は20代から60代まで幅広く、医療事務、看護師、検査技師、受付スタッフが在籍しています。
一見、バランスの取れた組織。
ですが、そこにはいくつもの“隠れた問題”が横たわっていました。
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給与・賞与が院長の印象で決まる
制度や基準がないため、スタッフの間では「何を頑張れば評価されるのかわからない」という声が続出。納得感に欠ける運用が、不信感を招いていました。 -
OJTが形骸化
「見て覚えて」と言われた新人スタッフは、業務を細切れで渡されるだけで、体系だった指導はほぼなし。結果、スキルが育たず、“なんとなく”でこなす癖がついてしまうのです。 -
ベテランスタッフのネガティブ影響
長く勤務しているパートの1人が、何かと「無理」「それは昔からやってない」で話を終わらせてしまうタイプ。周囲も次第にその雰囲気に流され、前向きな提案や工夫が出なくなっていきました。 -
若手が定着しない
数年前から20~30代の若手を採用しても、「思ったより学べない」「成長実感がない」と早期退職が続出。
特に20代女性スタッフが3ヶ月で辞めたとき、佐藤先生は「さすがにこれはマズいかもしれない」と感じ始めたのです。
◆ 「何を変えればいいのかわからない」院長の悩み
佐藤先生は決して無関心な院長ではありません。
現場での会話も多く、困っていそうなスタッフがいれば声もかけていました。
「人間関係は悪くないはず」「自分は結構頑張ってる方じゃないか?」
…しかし、状況は明らかに悪化している。
採用しても続かない、教育が機能しない、空気が重い。
それでも、**“何から手をつけていいのかがわからない”**というのが本音でした。
◆ 顧問社労士の提案「ESチェック、やってみませんか?」
そんなある日、顧問の社会保険労務士から提案されたのが、**モチベーションサーベイ(ESチェック)**でした。
「院内の見えない不満や期待、沈黙している声を可視化するツールです。
今の状態が“良いのか悪いのか”を客観的に知ることができますよ」
正直、最初はピンときませんでした。
「アンケートでそんなに変わるのか?」
「どうせ、みんな無難なことしか書かないのでは?」
しかし、「不満を口にする人よりも、“何も言わなくなる人”のほうが危険です」という一言が心に刺さり、導入を決めました。
◆ ESチェックが暴いた、“沈黙の職場”の真実
75項目にわたるESチェックを実施し、重要度と緊急度で分析されたマトリクスが完成。
そこには、想像以上に深刻な現場の声が詰まっていました。
特に「重要×緊急」ゾーンに集中していたのは以下の項目:
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評価への納得感がない
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OJTや教育体制が整っていない
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やりがいを感じられない
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職場に共通の価値観や目標がない
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情報共有が不足している
スタッフのコメントには、こんなものが並んでいました:
「何をどう頑張れば評価されるのかわからない」
「結局、声が大きい人の意見だけが通る」
「ネガティブな人が影響力を持っていて、改善提案が通らない」
「新しいことをやろうとすると“前例がない”で終わる」
「患者さんには笑顔で接するけど、裏では疲弊している人が多い」
「ここまでとは思っていなかった…」
佐藤先生は、ESチェックの結果を見て言葉を失いました。
“問題がない”のではなく、問題が“表に出てこない職場”だったのです。
◆ 少しずつ、“変わる”ことを決めた
すぐに制度を整えるのは難しくても、「できること」から始めよう。
佐藤先生は、社労士の伴走のもと、以下のような取り組みを始めました。
✅ 【共通言語の設定】~クリニックの理念を言葉に~
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「丁寧な医療」「安心できる空間」「支え合うチーム」といったキーワードをスタッフと共有。
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毎週の朝礼で、その週の“行動テーマ”を設け、成功例・失敗例をスタッフ全員で振り返る仕組みを導入。
✅ 【教育係制度の導入】~OJTをマニュアル化~
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既存の“なんとなくOJT”をやめ、教育担当者を明確に任命。
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業務ごとの「教える項目」「確認ポイント」を一覧表にし、チェックリスト形式で運用。
✅ 【小さな評価制度のスタート】~評価される行動を明示~
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まだ本格的な人事制度ではないが、「評価される5つの行動指針」を掲示。
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院長が月1で“ありがとうメッセージカード”を手書きで配布。
→「見てくれている」とスタッフからの反応が◎
✅ 【若手スタッフとの面談】~辞める前に、話を聞く~
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20~30代スタッフに定期面談を実施。
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不満・不安だけでなく「どんな風に働きたいか」「どんな役割を担いたいか」にもフォーカス。
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面談内容は本人の同意を得て職場改善にも反映。
◆ 半年後、変化は小さく、でも確実に…
半年後、職場に目に見える変化が現れました。
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朝礼でスタッフが自分の意見を言うようになった
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面談を経て、若手が「もう少し頑張ってみようかな」と前向きに
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ベテランスタッフが「私の伝え方が悪かったかもね」と自省する場面も
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「昔に比べて、居心地が良くなった」と言うスタッフが増加
スタッフの表情も明るくなり、**「新人が辞めない職場」**へと少しずつ変化していったのです。
◆ ESチェックは、組織を“見直すスイッチ”
このクリニックのように、「特に問題は起きていない」ように見える職場ほど、
実は**“声なき課題”が潜んでいます。**
モチベーションサーベイ(ESチェック)は、それをデータと図で見せてくれるツールです。
けれど、調査しただけでは何も変わりません。
大事なのは、その結果に向き合う勇気と、小さな変化から始める行動です。
📩 あなたの職場は、どんな“沈黙”を抱えていますか?
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スタッフが言いたいことを飲み込んでいませんか?
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評価や教育に不安を感じていませんか?
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若手が育たず、辞めていくことが当たり前になっていませんか?
「何かおかしい気がするけれど、何から始めれば…」
そんなときこそ、ESチェックの出番です。
不健全な職場を改善するため、お悩みの整理・ヒアリングは無料で対応しています。
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