中小企業でもここまでできる!成果・業績・固定制…賞与制度設計の基本形とは(後編)

杉山 晃浩

──「制度を回す」ための実践運用と評価連動のすべて

前編では、賞与制度の基本類型(固定・評価・業績)や、自社に合った制度選びのヒント、そして中小企業でも実践可能なハイブリッド型の設計事例をご紹介しました。

後編では、制度を「形だけ」で終わらせないための【実務運用】【評価制度との連動】【社内説明とフィードバック】など、実践面にフォーカスして解説していきます。


第1章|賞与制度が“うまくいかない会社”の共通点とは?

「賞与制度はあるけれど、うまく機能していない気がする…」
中小企業の現場でよく聞く声です。実は、制度そのものよりも【運用】でつまずいているケースが多くあります。

●よくある失敗パターン

  1. 評価制度と賞与が連動していない
     → 評価されても金額に反映されない。社員から「頑張っても意味がない」という声が出る。

  2. 制度を社員に説明していない
     → 社員はルールを知らない。金額だけ渡され、「なぜこうなったか」が分からず不信感に。

  3. 毎年バラバラなルール
     → 昨年は業績連動、今年は固定給的な支給…。運用に一貫性がなく、社員の納得感が得られない。

このように、「制度設計はしたが、運用が場当たり的」という状態は、むしろ制度がないより混乱を招きます。


第2章|評価制度とどう連動させるか?──シンプルで機能する設計術

評価制度と賞与を“どう結びつけるか”は、設計の要です。
難解なロジックや計算式は不要。大切なのは、社員に分かりやすく、現実的に運用できる設計です。

●基本設計の考え方

以下のような方法が、多くの中小企業で実際に取り入れられています。

1.等級ごとの基準額 × 評価係数

  • 例)主任クラスの基準賞与額 30万円 × A評価(係数1.2)=36万円

  • B評価(1.0)なら30万円、C評価(0.8)なら24万円と明確な差が出ます。

2.業績賞与を評価で配分する方式

  • 総額100万円を部門に割り当て、部門内で評価によって「持ち点方式」で配分する。

●相対評価と絶対評価、どちらが良いか?

  • **相対評価(グループ内で順位づけ)**は、「評価のバラつき防止」に効果的。

  • **絶対評価(基準達成度で判断)**は、目標管理や個人の成長促進に向いています。

どちらを選ぶかは、評価者の力量と社内文化によります。
中小企業では、まずは絶対評価+評価者のすり合わせ会議がおすすめです。


第3章|「伝え方」も制度の一部──納得とやる気を引き出す運用の工夫

制度は「透明に、分かりやすく、納得できる」ことがカギ。
そのためには、制度そのものだけでなく、“伝え方”に配慮することが重要です。

●社員説明会で「制度の目的」を伝える

制度導入時や見直し時には、必ず社員向けの説明会を行いましょう。
その際、ただルールを説明するのではなく、

  • 「なぜこの制度にしたのか」

  • 「どんな想いで設計したのか」

を丁寧に伝えることで、社員の理解と納得が大きく変わります。

●「賞与通知書」は“経営からの手紙”でもある

支給額や評価結果だけでなく、メッセージ欄に社長や上司からの一言を添えることで、社員の心に届く制度となります。

  • 「今回の業績に貢献してくれてありがとう」

  • 「来期は○○に期待しています」など

形式的な数字以上に、こうした言葉が「やってよかった」「次も頑張ろう」というモチベーションに直結します。

●もらって終わりにしないフィードバック文化

賞与の支給後には、個人面談や部門ごとの振り返りなどを実施し、
「評価→賞与→次の目標設定」のサイクルをつくることで、制度は一過性で終わらず“組織文化”として根付きます。


第4章|社長の“さじ加減”が活きるのは「制度の外」である

中小企業では「社長の思い」が組織運営に強く影響します。
賞与も「気持ちだから」という理由で、ルールより社長裁量で動くことも少なくありません。

しかし、制度の信頼性と公平性を保つには、“ルールと例外”を分けておくことが重要です。

●制度の内側=ルールとして公平に

  • 基本賞与や評価連動賞与は、全社員に同じ基準で適用。

  • 社員は「頑張れば報われる」と思えるよう、透明性を確保。

●制度の外側=社長の裁量で“報奨”を演出

  • プロジェクト達成報奨や個人の快挙に対する特別賞与

  • サプライズ手当(年末の寸志や家族手当など)

このような「別枠報酬」は、制度の堅さを補完する役割を果たします。
社員にとっては、「会社は見てくれている」という信頼感にもつながります。


第5章|まとめ:「制度をつくる→伝える→回す」が中小企業の人事改革の第一歩

賞与制度は、作って終わりではありません。
むしろ、制度を「回し続ける」ことにこそ価値があります。

●制度づくりの3ステップ

  1. つくる
     → 自社に合った型を選び、シンプルに設計。

  2. 伝える
     → 社員にルールや目的を説明し、納得感を得る。

  3. 回す
     → 毎年、見直し・振り返り・調整を行い、制度を育てていく。

●賞与制度は「経営と人材育成」をつなぐ架け橋

賞与制度は、単なる金銭の分配ではなく、「会社の価値観を社員に伝える仕組み」です。
たとえば、「売上だけでなくプロセスも大事にする」という文化を反映させたり、「チームで成果を出す」ことを評価したり。
それが賞与に現れると、社員は自然と会社の方針に沿った行動を取りやすくなります。

おわりに

賞与制度は、どんなに小さな会社でも「導入可能」であり、かつ経営と社員をつなぐ大きな武器になります。

制度を見直すことは、給与や賞与を増やすことではありません。
【納得と信頼】を生み出すこと。そしてそれが、採用力・定着率・生産性アップという形で、会社に戻ってきます。

さあ、今こそ「制度があるだけ」から一歩踏み出して、
「制度が社員を動かす」会社へ変えていきましょう。

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