副業はやってもいいの?──労働法から見る「副業の可否」と会社との関係性

杉山 晃浩

第1章|「副業って自由にやっていいんじゃないの?」という誤解

近年、「副業解禁」がキーワードとなり、多くのメディアが「これからは副業の時代だ」と報じています。たしかに、政府の方針としても副業・兼業を促進する動きが強まっており、働き方改革の一環として、副業を容認する企業も増えてきました。

しかし、実際に会社員が副業を始めようとすると、「本当にやっていいの?」「会社にバレたらまずい?」という不安がつきまといます。

結論から言えば、副業は法律上“原則自由”ですが、実際には“自由にできるとは限らない”のが現実です。その理由を、法律と企業慣行の観点から見ていきましょう。


第2章|労働法では副業は“原則自由”──でも落とし穴がある

労働基準法や職業安定法など、主要な労働法において「副業禁止」と明記されている条文はありません。つまり、副業をすること自体は違法ではありません。

一方で、実際の企業では「副業禁止」や「事前許可制」を就業規則で定めていることが多く、この規定に反した場合、懲戒処分の対象となるリスクがあります。たとえば、「競業避止義務違反」や「企業イメージを損なう行為」として問題視されることもあります。

ポイント:副業をする際は、まず就業規則を確認することが鉄則です。

また、「働き方改革実行計画」に基づいて厚生労働省が出した『副業・兼業の促進に関するガイドライン』においても、企業に対して就業規則への副業ルール明記を推奨しています。


第3章|副業で8時間以上働くと…残業代の問題が出てくる

副業に関してもうひとつ見落としがちなのが「労働時間の通算」の問題です。

労働基準法第38条では、事業主が異なる場合でも、労働時間は通算して取り扱うと定められています。つまり、本業で8時間働いたあとに副業でさらに3時間働けば、合計11時間となり、**法定労働時間(1日8時間)を超えた3時間分については“時間外労働”**とみなされます。

このとき、誰が割増賃金(いわゆる残業代)を支払うのかというと、“後から雇った副業先の事業主”が支払い義務を負うというのが原則です(厚労省Q&Aより)。

副業先としては、本業の労働状況を把握しておく必要がありますし、場合によっては36協定の締結も求められます。副業だからといって残業代の支払いを免れるわけではないのです。


第4章|健康リスクと会社の配慮義務

副業をするということは、単純に労働時間が長くなるということです。これは労働者の健康リスクにも直結します。

過労や睡眠不足によってミスが増えたり、集中力が続かなくなったりするのはもちろん、長期的にはメンタルヘルスへの悪影響も懸念されます。

副業を推奨または許可している企業にとっては、労働者の健康状態への配慮も求められます。たとえば、定期健康診断の実施や労働時間の把握、過重労働にならないような制度設計が必要です。

特に「所定労働時間の3/4以下」のパート・アルバイトなどでも、副業によって合算すると3/4を超える場合は、健康診断の対象になる可能性があると厚労省資料でも明記されています。


第5章|会社にバレたらどうなる?バレない副業の注意点

「副業禁止」としている会社に内緒で副業をする人も少なくありません。よくあるのが「住民税からバレる」というパターンです。

副業先の所得が住民税に反映され、それが本業の給与担当者に通知されることで、発覚するという仕組みです。このリスクを避けるには、確定申告時に“住民税は自分で納付する(普通徴収)”を選択することが有効です。

ただし、どんなに税務上隠していても、SNSでの発信や知人経由の情報漏れ、あるいは副業先が同業他社だった場合など、「競業避止義務違反」等で懲戒の対象となることもあるため注意が必要です。


第6章|まとめ|副業は「OK」でも、「自由」じゃない

副業は時代の流れとして確実に広がってきていますし、法的にも“禁止”ではありません。ですが、実務面ではさまざまな制約やリスクが存在します。

特に就業規則の確認、労働時間の通算管理、残業代の責任、健康管理、懲戒リスクなど、「知らなかった」では済まされない要素が多いのが副業の現実です。

これから副業を始めようと考えている方は、まずはご自身の勤務先の就業規則をよく読み、必要に応じて社労士などの専門家に相談することをおすすめします。

副業は“自由”と“責任”が表裏一体であることを理解したうえで、前向きに取り組んでいきましょう。

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