派遣社員の労働時間・有給休暇・残業管理、派遣先企業が知っておくべき基礎知識
杉山 晃浩
第1章|派遣社員の勤怠管理って、誰が責任を持つの?
「派遣社員の勤怠管理って、派遣会社がやるんじゃないの?」
そんな声をよく耳にします。たしかに、派遣社員の“雇用主”は派遣元(派遣会社)ですが、実際の勤怠管理の責任は派遣先にあります。つまり、始業・終業の時間、休憩のタイミング、出勤・退勤の確認など、日々の労働時間の把握は、指揮命令を行っている派遣先企業が担うべき役割です。
派遣先が「放置」してしまうと、残業の見落としや不適切な労働時間が発生し、最終的には労働基準法違反になることもあります。
派遣社員だからこそ、“誰がどこまで責任を持つのか”を明確にしておくことが、トラブルを未然に防ぐ第一歩です。
第2章|派遣社員にも“有給休暇”があるって知ってますか?
「派遣社員に有給休暇ってあるんですか?」
この質問も非常によくあります。結論から言うと、あります。しかも法律上の義務です。
ただし、有給休暇を付与するのは派遣元の役割です。派遣先ではありません。
しかし、実際に有給を取得する際の調整や業務引き継ぎ、同僚への連携など、現場で起こる調整業務は派遣先の中で対応することが多くなるのが実情です。
派遣先として重要なのは、
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有給取得を拒否しない
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派遣元と連携し、業務調整をスムーズに行う
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派遣社員が「取りづらい」と感じないような雰囲気づくりをする といった、適正な運用への配慮です。
第3章|残業・休日出勤のルールと注意点
「繁忙期なので、今日はちょっと残業してもらって…」
こんな時、ついやってしまいがちなのが、派遣元への確認なしで残業を指示することです。これ、原則としてNGです。
派遣社員に残業や休日出勤を依頼する場合は、
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派遣元に事前に連絡し、了承を得る
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残業・休日出勤の記録を正確に取り、派遣元にも報告する
これが基本のルールです。
なぜかというと、派遣元には労働時間の総量(例えば36協定)や安全配慮義務があるからです。派遣先が勝手に指示してしまうと、派遣元が労基法違反になる可能性が出てきます。
そして、もちろん派遣先も“指揮命令者”としての責任を問われることになります。
第4章|勤怠・休暇・残業に関する“よくある誤解”5選
ここでは、実務でよくある「派遣社員に関する誤解」を5つ紹介します。
① 「有給は派遣元のことなので、うちは関係ない」
→ ×:実際には派遣先の協力が不可欠。無関心ではトラブルのもと。
② 「黙認している残業だから問題ない」
→ ×:黙認も指示とみなされ、未払い残業代のリスクがあります。
③ 「遅刻や早退に注意できない」
→ ×:業務上のルール違反には、派遣元と連携して指導が可能。
④ 「派遣社員には繁忙期に毎日残業してもらうのが当然」
→ ×:残業は合意と手続きが必要。使い放題ではありません。
⑤ 「週40時間を超えた勤務は派遣元が見るべきもの」
→ ×:派遣先も責任があります。特に月60時間超の残業には割増義務も。
第5章|派遣社員の勤怠・休暇管理、派遣先としての“適正対応フロー”
最後に、派遣先企業が押さえておくべき「実務フロー」をまとめます。
✅ 契約時に明確にする
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勤怠管理の方法(タイムカード、ICなど)
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有給休暇取得の申請フロー
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残業・休日出勤時の連絡ルート
✅ 派遣先責任者を明確にする
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労務管理の窓口として、責任者を選任し、講習も受けておく
✅ 派遣元と連携を取る
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月1回の定例報告・打ち合わせを設けるのがおすすめ
✅ ルールを見える化する
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派遣社員向けの「受入れガイド」や社内マニュアルの整備
終章|「実は知らなかった」が通用しない時代へ──人事が備えておくべき姿勢とは
派遣社員の勤怠管理、有給休暇、残業――これらはすべて、“派遣先も当事者”であることを忘れてはなりません。
「派遣元がやること」「うちは関係ない」という態度では、知らず知らずのうちに違法行為につながる可能性があります。
逆に言えば、基本を押さえ、派遣元と協力して適正な運用ができていれば、信頼される派遣先企業となり、良い人材を確保しやすくなるのです。
まずは、派遣社員の勤怠・休暇・残業に関するルールを、社内でもう一度確認してみてください。あなたの企業の信頼度は、こうした「見えない管理力」によって高まっていくのです。