これなら迷わない!最低賃金に含めていい賃金・ダメな賃金
杉山 晃浩
1. はじめに
2025年10月から最低賃金が大きく引き上げられ、全国平均で時給1000円を超えることになりました。
経営者や人事労務担当者からは、
「うちは最低賃金をクリアしているはずだけど…どの賃金を含めて計算すればいいの?」
といった疑問の声が毎年のように寄せられます。
最低賃金法に違反すると、**罰則(50万円以下の罰金)**が科される可能性があり、決して軽視できません。
しかし一方で、「この手当は含めてもいいの?」「ボーナスも足していいの?」など、境界線がわかりづらいのも事実です。
この記事では、最低賃金の計算対象となる賃金を白黒はっきり整理して、人事担当者や経営者が安心してチェックできるように解説します。
2. 最低賃金の基礎知識
まずは最低賃金法の基本を押さえておきましょう。
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比較するのは時給
最低賃金は「時間額」で定められているため、月給制や日給制であっても、最終的には1時間あたりの賃金に換算して比較します。 -
対象は“実際に支払われる賃金”
「雇用契約で定められた額」ではなく、「実際に毎月支払われている賃金」が基準になります。 -
違反すれば刑事罰の対象
支払いが最低賃金を下回ると、労働基準監督署の是正指導や罰則の対象になる可能性があります。
つまり「うちは基本給20万円だから大丈夫」と思っていても、換算方法や対象外の手当の扱い次第では、実は違反していたということもあり得るのです。
3. 含めていい賃金(プラスしてカウントできるもの)
最低賃金の計算に含めてよいのは、次のような毎月決まって支払われる賃金です。
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基本給
→ 一番の基礎となる部分。固定的に支払われる金額です。 -
職務手当や技能手当など
→ 仕事の内容やスキルに応じて、毎月一定額支給されるものは対象になります。 -
役職手当や資格手当
→ 毎月必ず支払われる形なら対象に含めます。
つまり、「毎月、労働に対する対価として支払われる固定的な賃金」は基本的にカウントできます。
4. 含めてはいけない賃金(除外されるもの)
一方で、最低賃金の計算に含めてはいけないものもはっきり決まっています。
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時間外手当(残業代)、休日手当、深夜割増手当
→ 「割増分」は対象外です。通常労働の部分は含めますが、増えた分はカウントできません。 -
通勤手当
→ 交通費の実費補助なので、最低賃金の対象外です。 -
精皆勤手当
→ 労働そのものが対象ではなく、支給の有無が変動するから、これも対象外。 -
家族手当
→ 扶養家族がいるかどうかによる支給は、労働そのものの対価ではないため除外。 -
賞与(ボーナス)、臨時の手当
→ 毎月固定ではないため、最低賃金計算には含められません。
ここを勘違いすると、**「最低賃金を満たしているつもりが実は違反していた」**というリスクが高くなります。
5. よくある勘違いと実務での注意点
勘違い① 通勤手当を含めていいと思っていた
「基本給は950円だけど、通勤手当があるから大丈夫」と考えるケース。
→ NG。通勤手当は最低賃金の計算から外れます。
勘違い② 精皆勤手当込みなら超えていると思っていた
「精皆勤手当込みで時給1000円を超えているから安心」
→ これもNG。精皆勤手当は対象外です。
勘違い③ 残業代を足して計算してしまう
「残業をすればトータルでは最低賃金を超えるから問題ない」
→ 大きな間違い。最低賃金は所定労働時間の賃金で比較します。残業代はカウントできません。
6. 計算のステップをわかりやすく整理
最低賃金をチェックする流れを3ステップで整理します。
ステップ1:対象となる賃金を抽出
給与明細から「基本給+対象となる手当」をピックアップし、それ以外(通勤手当、家族手当、残業代など)は除外します。
ステップ2:時給に換算
月給制なら、**月給 ÷ 所定労働時間(1か月の総労働時間)**で割って、1時間あたりの金額を算出します。
例:月給18万円、所定労働時間160時間の場合
→ 180,000 ÷ 160 = 1,125円
ステップ3:最低賃金と比較
地域ごとの最低賃金額と比較して、クリアしているかを確認します。
不足している場合は、基本給の引き上げや手当の見直しが必要です。
7. まとめ──白黒はっきり!実務に活かそう
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最低賃金に含められるのは、基本給など「毎月固定的に支払われる賃金」だけ
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通勤手当・精皆勤手当・家族手当・残業代・賞与などは対象外
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勘違いしやすい項目をしっかり切り分けることが、リスク回避につながります。
最低賃金は毎年のように上昇しており、2025年は特に負担感が大きい年です。
だからこそ、「うちは大丈夫」と思い込むのではなく、毎年10月に最低賃金チェックをルーティン化することが重要です。
不安が残る場合は、オフィススギヤマグループなどの専門家に相談しながら制度設計を見直していきましょう。