年次有給休暇の“前借り”って違法?正しい運用とリスク解説
杉山 晃浩
第1章:そもそも「年次有給休暇」とは?
年次有給休暇(通称:年休・有休)は、働く人が心身のリフレッシュや私生活のために、給与を減らされずに休める労働者の権利です。これは労働基準法第39条に明記されており、以下の条件を満たすことで自動的に発生します。
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継続勤務6か月以上
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全労働日の8割以上出勤
たとえば、2025年4月1日に入社した新卒社員の場合、最初の年休は2025年10月1日に10日間付与されます。これは法定のルールであり、企業側が任意でずらすことはできません。
第2章:「前借り有休」ってアリなの?ナシなの?
夏季休暇や年末年始の前になると、こんな声を聞くことがあります。
「8月13日〜15日は会社は一斉に休み。でも年休扱いだよ」
「新卒の〇〇くんはまだ有休ないから“前借り”にしてるよ」
この「前借り」という言葉、耳障りは良いのですが、実は非常にグレー、というよりブラックな対応です。
労働基準法では「将来発生する予定の年休」を使うことは制度として用意されていません。つまり、
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年休は“まだ持っていない人”には使えない
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“前借り”という制度は法律上存在しない
ということになります。
第3章:年休の“前借り”が違法になる理由
1. 「付与されていない権利」を勝手に使わせている
そもそも年次有給休暇は、会社が与えるものではなく法律によって“自動的に”発生する権利です。その発生前に「与えたことにする」というのは法の趣旨に反します。
2. 退職時の精算問題とトラブルになりやすい
仮に前借りした状態で退職した場合、
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未取得分の給与から差し引く
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前借りを帳消しにする
などの対応が取られることもありますが、これらの処理は法的根拠があいまいで、労使トラブルの火種になりやすいのです。
3. 使用者の一方的な判断は違法
年休は本来、労働者の申請によって取得するものです。「会社が一方的に“年休扱いにする”」というのは、時季指定権の侵害に当たる可能性があります。
第4章:実は多い?知らずに違法状態にある企業
多くの企業が、悪気なく以下のような慣行を続けています。
✅ 要注意なケース
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「夏季休暇」や「盆休み」が実質的に年休消化になっている
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「まだ年休がないから前借りしよう」が当然になっている
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「この日は年休扱いだから出勤しなくていいよ」と指示される
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就業規則に年休の運用ルールが明記されていない
これらは、いずれも法的に問題のある可能性が高い行為です。とくに新卒社員や若年層は、知識が乏しく、泣き寝入りしていることも少なくありません。
第5章:トラブルを防ぐ“正しい”運用方法とは?
✅ 対策①:年休の代わりに「特別休暇」を設ける
たとえば、入社後6か月以内の社員にも夏季休暇を与えたい場合は、「会社独自の特別休暇」として与えるのが適切です。これは年休とは別枠で、就業規則に明記すれば合法に運用できます。
✅ 対策②:一斉休業日は「休業」として取り扱う
会社都合で休業する場合、それを無理に年休扱いにするのではなく、**賃金を支払って休業とする(休業手当)**という選択肢もあります。
✅ 対策③:年休の取得意志を文書で確認
たとえば、「希望があれば年休取得も可能です」という体裁にし、本人の申請(申出)を取得することで、法的リスクを下げられます。
第6章:まとめ──年休の取り扱いは“信頼”の問題
社員にとって、有休は単なる「制度」ではなく、会社との信頼関係の象徴です。
特に新卒社員にとって、最初に出会う「会社の姿勢」は今後の定着やエンゲージメントにも大きな影響を与えます。だからこそ、年休の運用においては、
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法律を守る
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規定を整備する
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運用を明確にする
という3つを実現し、社員の信頼を積み重ねていくことが大切です。
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