自己都合なのに優遇される?人事が知っておきたい「特定理由離職者」の仕組みとリスク

杉山 晃浩

1.はじめに──「特定理由離職者」って聞いたことありますか?

人事担当者や経営者の皆さん、「特定理由離職者」という言葉を聞いたことはありますか?
「特定受給資格者(会社都合退職)」ならよく耳にしますが、「特定理由離職者」は意外となじみがない用語です。

しかし、雇用保険の制度上は自己都合退職と会社都合退職の“中間”に位置づけられ、失業給付の取り扱いが通常の自己都合とは大きく異なります。
この仕組みを知らないまま離職票に記載をしてしまうと、後々トラブルになることも少なくありません。

本記事では、人事担当者にとって重要な「特定理由離職者」の基礎知識と、知っておくべきリスク、そして実務上の対応ポイントを解説します。


2.特定理由離職者とは?厚労省が定める基準

特定理由離職者とは、雇用保険制度において「自己都合退職の一種」とされながら、やむを得ない事情によって離職したと認められる人を指します。

厚生労働省が定める主な該当ケースは次の通りです。

  • 契約期間満了:更新が期待されていない契約社員・パートが契約終了で離職した場合

  • 健康上の理由:病気やケガにより勤務継続が困難となった場合(診断書等の提出が必要)

  • 妊娠・出産・育児・介護:本人や家族の事情でやむを得ず離職する場合

  • 配偶者の転勤:転居を伴う配偶者の転勤により通勤できなくなった場合

  • 通勤困難:転居や交通事情の変化で通勤が困難になった場合

これらはいずれも「本人の意思で辞めた」とは言えるものの、社会的にやむを得ない事情があると判断されます。


3.特定受給資格者との違いを整理

混同されやすいのが「特定受給資格者」との違いです。

  • 特定受給資格者(会社都合退職)
     倒産や解雇、雇止め(更新が期待できたのに契約終了)など、会社の都合で退職を余儀なくされた人。

  • 特定理由離職者(やむを得ない自己都合退職)
     本人の健康・家庭・転居など、会社責任ではないがやむを得ない事情で退職した人。

雇用保険の失業給付では、両者ともに「7日の待機後すぐに支給開始」となる点は共通ですが、給付日数に違いがあります。

  • 特定受給資格者:自己都合より長く(90日~330日)

  • 特定理由離職者:通常の自己都合と同じ(90日~150日程度)

つまり、特定理由離職者は「給付制限が免除されるが、給付日数は自己都合と同じ」という中間的な位置づけになります。


4.自己都合なのに優遇される仕組み

通常の自己都合退職の場合、7日間の待機後に2か月の給付制限が課されます(2027年3月までは3か月→2か月に短縮)。

しかし、特定理由離職者に該当すると、この給付制限が免除されます。
つまり、自己都合なのに、会社都合退職と同じように7日後から給付開始となるのです。

なぜ優遇されるのかというと、健康問題や育児・介護、配偶者の転勤などは本人に責任があるとは言えず、社会的にも保護が必要と考えられているからです。


5.人事が知っておくべきリスク

ここで人事担当者に特に意識してほしいのは、「特定理由離職者の扱いを誤ると会社に不利益が生じる」ということです。

離職票の記載ミスは大問題

「これは自己都合だから…」と安易に記載してしまうと、後からハローワークで本人の申告により訂正されることがあります。
その場合、会社の信頼性に傷がつくだけでなく、助成金審査でも「適正に処理していない会社」と見られる可能性があります。

実は会社責任が隠れているケース

例えば「健康上の理由」として退職した社員が、実際には長時間労働やハラスメントが原因で体調を崩していたとすれば、それは「会社都合退職(特定受給資格者)」と判断されかねません。
この場合は、助成金要件の「解雇等」に該当し、申請ができなくなったり返還を求められるリスクも出てきます。

多発すると経営上のリスクシグナルに

配偶者転勤や育児・介護といった理由は一見会社責任ではありませんが、もし特定理由離職者が多数発生すれば「働き続けられる仕組みを整えていない会社」と評価されかねません。
柔軟な働き方や両立支援策を導入しない限り、採用面でもマイナス評価につながります。


6.人事担当者が取るべき対応

人事担当者は次の点を実務に落とし込むことが求められます。

  1. 退職理由の正確なヒアリング
    → 本人の申告内容をきちんと聞き取り、記録を残す。

  2. 裏付け資料の確認
    → 病気なら診断書、転勤なら辞令コピーなど。

  3. 離職票の正しい記載
    → 「体裁」ではなく「真実性」を優先する。

  4. 会社責任の有無を冷静に判断
    → 長時間労働や職場環境の悪化が背景にないかをチェック。

  5. 専門家のサポートを受ける
    → 社労士に相談すれば、助成金リスクや労務トラブルを最小化できる。


7.まとめ──正しい理解が会社を守る

特定理由離職者は、人事担当者にとって耳慣れない用語かもしれません。
しかし、実務では「自己都合なのに優遇される」という特例であり、離職票の扱いを誤れば大きなトラブルに発展しかねない要注意ポイントです。

会社に責任があるのか、本人のやむを得ない事情なのか、その線引きは非常に複雑です。
一見「自己都合」に見えても、実態が会社都合に分類されれば助成金がストップしたり、法的責任を問われる可能性すらあります。


8.アウトソーシングという選択肢

ややこしい基準を会社が自力で判断しようとすると、かえってリスクが高まります。
離職票の記載ひとつで助成金が止まったり、不正受給とみなされることもあるからです。

そんな時こそ、オフィススギヤマグループに労働社会保険事務をアウトソーシングしてください。
専門家が最新の基準に基づき、正確かつ安心の対応を行うことで、会社に余計なトラブルを起こさせません。
「複雑な判断は専門家に任せる」ことが、経営リスクを防ぎ、助成金も守る最善の方法です。

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