会社の信用を守る!社員が逮捕されたときの正しい対応とリスク管理
杉山 晃浩
1. はじめに
企業経営において「まさか」という出来事は避けられません。
その中でも特にインパクトが大きいのが、社員が逮捕されるという事態です。
逮捕されたのが勤務中の出来事であっても、プライベートでのトラブルであっても、ニュースやSNSで会社名が広まれば、社会的信用は一気に揺らぎます。
取引先からの問い合わせ、社内の動揺、近隣や地域社会からのイメージ低下……。経営者にとっては想像したくない出来事ですが、現実には中小企業でも起こり得るリスクです。
そこで本記事では、「社員が逮捕されたときに会社はどう対応すべきか」、そして**「事前に準備しておくべき対策」**を整理します。
2. 社員が逮捕されたときに会社に責任はあるのか
まず気になるのは「会社に法的責任があるのかどうか」でしょう。
使用者責任の有無
民法715条に定められる「使用者責任」は、社員が業務を遂行する過程で他人に損害を与えた場合に、会社が賠償責任を負うものです。
したがって、業務外の私生活で起きた傷害事件や飲酒トラブルなどは、原則として会社の法的責任は及びません。
会社に求められるのは「社会的説明責任」
ただし、「法的責任がない=会社に影響がない」というわけではありません。
報道で会社名が出れば「社員教育はどうなっているのか」「コンプライアンス意識が低い会社ではないか」といった社会的批判を浴びることもあります。
つまり、会社が向き合うべきは法律上の責任ではなく、社会的信用という無形資産のリスク管理です。
3. 逮捕直後に会社が取るべき初動対応
実際に社員が逮捕された場合、会社はどのような行動を取るべきでしょうか。
(1)社員の勤務扱い
逮捕・勾留されている間は出勤できません。原則として「欠勤扱い」となります。
ただし、就業規則で「逮捕・勾留時は休職扱いとする」といった規定を設けておくと、より明確に対応できます。
(2)取引先や顧客への対応
報道や口コミで事件が知られると、取引先から問い合わせが入る可能性があります。
その際の回答は一貫して「私生活上のトラブルであり、会社業務とは無関係です」と説明することが重要です。
無用な憶測を避けるため、社内で統一コメントを準備しておくことが有効です。
(3)社内への説明
社員間で噂が広がれば職場の士気も低下します。
しかし詳細をオープンにする必要はありません。
「本人の私的事情により当面出勤できない」といった最小限の情報で済ませる方が望ましいです。
4. 処分を検討する際の判断基準
逮捕された社員に対して会社はどのような処分を下すべきでしょうか。
懲戒解雇は慎重に
「逮捕=即解雇」とはなりません。裁判例でも、懲戒解雇を有効とするためには
犯罪の内容が社会的に重大か
会社の信用を著しく毀損したか
業務に直接影響を与えたか
など、厳しい基準が求められています。
例えば横領や背任、会社の看板を使った詐欺など、業務に密接に関わる犯罪であれば懲戒解雇も認められやすいですが、私生活上の口論・傷害事件などでは「懲戒解雇は無効」と判断される可能性が高いです。
段階的処分の選択肢
出勤停止
減給
戒告・譴責
など、段階的な懲戒処分で対応する方が現実的です。
この判断を誤ると、逆に不当解雇トラブルに発展しかねません。顧問社労士や弁護士への相談が不可欠です。
5. 事前にしておくべきリスク管理
社員が逮捕されること自体を完全に防ぐのは難しいですが、事前の準備で会社を守ることは可能です。
就業規則の整備
「逮捕・起訴・有罪判決を受けた場合は懲戒の対象とする」
「長期間の勾留で出勤できない場合は休職または自然退職の対象とする」
こうした条文を明記しておくことで、対応に一貫性を持たせることができます。
コンプライアンス研修
飲酒トラブル防止
SNS利用の注意点
公私混同を避けるリスク意識
中小企業では軽視されがちですが、年1回の研修でも予防効果は大きいです。
危機管理マニュアル
逮捕だけでなく、事故・不祥事・ハラスメントなど「会社名が報じられるリスク」に備え、初動フローや社外対応コメントを定めておくと安心です。
6. まとめ
社員の逮捕は、会社に直接の法的責任をもたらすケースは少ないものの、企業の信用リスクとしては極めて大きなダメージを与えます。
経営者としては、
初動で冷静に対応すること
社内外への説明を統一すること
処分は就業規則に基づき慎重に行うこと
事前にルール整備と教育を行うこと
が求められます。
「想定外」を「想定内」に変えて備えておくことこそ、会社を守り、経営者自身の安心にもつながります。