事務担当者泣かせの年末調整改正──選挙のたびに増える“面倒ごと”
杉山 晃浩
1. はじめに
毎年11月から12月にかけて、事務担当者の頭を悩ませる大仕事といえば「年末調整」です。給与計算と並んで正確性が求められ、しかも期限は絶対に守らなければならない。年末調整は「会社の信用」と「従業員の信頼」に直結する業務です。
ところが今年(令和7年分)は、例年以上にややこしい改正が相次いでおり、現場では「また負担が増えるのか…」と嘆きの声が聞こえてきます。
今回は、今年の年末調整で変わるポイント、事務担当者が陥りやすいミス、そしてその背景にある政治的な事情までを整理し、最後に筆者の私見をお伝えします。
令和7年分年末調整のお知らせ
2. 今年の年末調整で変わるポイント
まずは今年の年末調整における主な変更点です。事務担当者が特に注意すべきは以下の通りです。
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控除制度の改正
基礎控除、配偶者控除、所得金額調整控除などの控除額が見直されました。給与システムに旧年度のテーブルを残したまま計算してしまうと、誤課税が発生します。 -
定額減税の導入
所得税と住民税にわたって控除が行われます。控除上限の判定や、給与支給時点での処理順序を誤ると混乱必至です。 -
申告書様式の変更・電子化対応
扶養控除等申告書や基礎控除申告書が新様式になり、電子データ対応が求められています。古い様式のまま従業員に配布すると、回収後に差し戻し作業が必要になります。 -
住宅ローン控除の電子証明書対応
残高証明書の電子データを処理できるように準備しておかないと、紙と電子の二重計上・未計上といったミスが生じます。 -
納付書の様式変更
源泉所得税の納付書が新しいフォーマットに変わります。旧様式をそのまま使ってしまうと、金融機関や税務署で受け付けてもらえないケースも想定されます。
3. 現場で起こりやすいミスとトラブル
こうした改正を踏まえると、現場で発生しやすいミスは次のようなものです。
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控除額テーブルの更新漏れ → 計算誤り
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旧様式の申告書利用 → システムで読み込めない
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電子証明書取り込み忘れ/二重計上 → 過大控除・過少控除
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副業者や短時間労働者の対象判定ミス → 誤って年調してしまう/漏らしてしまう
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還付・不足の処理遅延 → 翌月給与に反映できず従業員からクレーム
事務担当者にとって「例年通り」の感覚で作業を進めると、今年は特に落とし穴にはまりやすい年といえるでしょう。
4. 事務担当者の負担が増える背景
では、なぜ年末調整はここまで複雑になってしまうのでしょうか。背景には以下のような要因があります。
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法改正の頻度が高すぎる
控除額や申告書様式が頻繁に変わるため、毎年マニュアルを作り直さざるを得ません。 -
従業員からの問い合わせ増
「今年はなぜ控除額が違うの?」「減税で手取りは増えるの?」といった質問に答えるのも事務担当者の役割です。 -
システム更新の負担
ソフトのアップデートやパッチ対応が追いつかないと、計算誤りにつながります。 -
書類回収業務の煩雑化
紙と電子が混在する過渡期にあり、従業員ごとに処理がバラバラになるケースも増えています。
5. 選挙と年末調整改正の関係性
ここで、少し視点を変えてみましょう。なぜ「毎年のように」制度改正が起きるのか。その裏には政治的な事情が見え隠れします。
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選挙のたびに「減税」「手取り増」が公約として打ち出される
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その結果、税制改正が小刻みに行われる
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しかし、実際の処理を担うのは事務担当者であり、現場は疲弊していく
つまり、「国民に見せるためのアピール」が、そのまま「現場の混乱」として跳ね返っているのです。
6. 事務担当者が取れる対策
制度改正を止めることはできません。だからこそ、事務担当者としては以下の対策を講じておくことが重要です。
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チェックリストの活用
抜け漏れを防ぐため、今年対応すべき10項目をリスト化して管理する。 -
システム更新の事前確認
税理士や社労士、ソフトベンダーと連携して改正内容を反映させる。 -
従業員への周知
事前に「今年の変更点」を伝えることで、問い合わせの集中を防ぐ。 -
電子化の積極活用
保険料控除証明書や住宅ローン残高証明の電子化を推進し、回収・入力業務を減らす。
7. まとめ──私見
今年の年末調整は、控除制度の改正や定額減税の導入などで、例年よりも一層複雑さを増しています。事務担当者にとっては「またか」という気持ちを通り越し、「どうしてこうも毎年面倒になるのか」と思わずにはいられません。
ここで筆者の私見を述べさせていただきます。
選挙のたびに、政府は“手取り増”をアピールするために新しい制度を打ち出します。そのたびに現場の事務担当者は追加の負担を背負わされる。もういい加減にしてほしい。
減税や控除の拡充は一見「国民に優しい施策」に見えます。しかし、その裏で汗をかき、時間を削られているのは企業の事務担当者です。制度改正を進めるなら、せめて現場の負担が増えない仕組みづくりを同時に整備してほしい──それが多くの事務担当者の本音ではないでしょうか。
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