「研修しても職場が変わらない」──人が育たない会社に欠けている“実践の場”

杉山 晃浩

■ はじめに:研修をやっても成果が出ない…なぜ?

「管理職研修をやったけど、現場が変わらない」
「新人教育に時間とお金をかけたのに、すぐ辞めてしまう」
「リーダー研修を受けても、行動が変わらない」

社労士として企業支援をしていると、こんな悩みをよく耳にします。
研修は“人材育成の王道”と思われがちですが、現実には多くの会社が研修効果を実感できていません。

なぜでしょうか?
答えはシンプルです。
学んだことを「職場で実践する仕組み」がないからです。


■ “学ぶ”と“変わる”の間にある大きなギャップ

研修を受けて知識を得ても、職場に戻った瞬間に元に戻る──
そんな経験、経営者の方なら一度はあるのではないでしょうか。

たとえば、管理職研修で「傾聴の大切さ」を学んでも、
翌日から部下への指導に追われ、気づけばいつも通りの“指示型マネジメント”に戻っている。

つまり、知識が行動に変わる“橋渡し”がないのです。

「知っている」と「できる」の間には、仕組みの差がある。

社労士としての視点では、この「仕組み」が欠けている会社ほど、
ハラスメント・メンタル不調・離職といった問題が連鎖しています。


■ 研修効果が出ない会社に共通する3つの特徴

数多くの企業を支援してきた中で、
「研修しても変わらない会社」には、明確な共通点があります。


① 目的が“研修そのもの”になっている

「何のために研修を行うのか」が曖昧なケースが非常に多いです。

  • 研修をやること自体が目的化している

  • 外部講師に任せきりで、社内に目的が共有されていない

  • 研修後のフォローアップが存在しない

研修は“スタート”であって“ゴール”ではありません。
にもかかわらず、多くの企業では「研修=完結型イベント」として扱われています。


② 管理職が「学ぶ側」でなく「育てる側」になっていない

研修を受けるのは社員だけ。
しかし、実際に現場を変えるのは上司です。

管理職が「育成の当事者」にならなければ、
どれだけ研修しても現場の行動は変わりません。

「部下が育たない」のではなく、
「上司が育っていない」会社が多いのです。

社労士として見ると、ハラスメント相談の裏側には、
“上司が部下を理解していない”という構造が必ずあります。


③ 実践の場がない

研修の内容を現場で試せる仕組みがなければ、行動は定着しません。
スポーツ選手が試合なしで成長しないように、
社員も「実践の場」を通じてしか変化しません。

研修と日常が断絶している限り、
社員は「いい話を聞いた」で終わり、組織は変わらないのです。


■ 社労士が見た「学びが止まる職場」の実態

ある医療法人では、毎年管理職研修を実施していました。
テーマは「コミュニケーション力」「リーダーシップ」「ハラスメント防止」。
ところが、職場の雰囲気は変わらず、離職率も横ばい。

ヒアリングをすると、研修後に何のフォローもなく、
「学んだことを共有する場」も「次につなげる仕組み」もないことが判明しました。

つまり、“点”で学んで“線”でつながっていない。
この状態では、どれだけ優れた講師を呼んでも、成果は出ません。


■ 人が育つ会社に共通する「仕組みの特徴」

反対に、研修を活かして人が育っている会社には共通点があります。
それは、“学びを実践に変える場”があること。


① 面談・会議で「学び」を振り返る

研修の後に、上司と部下が1on1で
「何を学び、どう職場で活かしたいか」を共有する。
この時間があるだけで、研修内容は一気に定着します。

実際、研修よりもこの“振り返り面談”の方が効果的だと感じるケースも多いです。


② 部下の行動変化を観察・記録する

学びが定着するかどうかは、「観察とフィードバック」で決まります。
上司が部下の小さな変化を見逃さず、
「前回よりも説明が丁寧になったね」と声をかける。

こうした“ミニフィードバック”の積み重ねが、行動変化を生みます。
評価制度よりも前に、「観察の仕組み」を整えることが大切です。


③ 社内で共有・発表する仕組みをつくる

研修後の共有会やミニ発表会を設けると、
社員は「自分の学びを言語化」するようになります。
この“アウトプットの場”が、学びの定着に直結します。

特に中小企業では、「報告の場」を「成長共有の場」に変えるだけでも、
職場の雰囲気が前向きに変わります。


■ 社労士が考える「人材育成の本質」

社労士というと、労務管理や規則整備の専門家という印象が強いかもしれません。
しかし、私は次のように考えています。

労務安定とは、“人が育ち、辞めない状態”をつくること。

だからこそ、制度や規程よりも先に、
「人を育てる仕組み」づくりを支援することが、
これからの社労士の大事な役割だと思っています。

その要になるのが、経営人財会議のような「実践型の会議」です。


■ 「経営人財会議」という“育成の仕組み”

経営人財会議では、管理職が自部署の人材について共有・議論します。
たとえば、次のような内容を話し合います。

  • それぞれの社員が何を得意とし、どんな志向を持っているか

  • 最近の成長エピソードや、課題となっている行動

  • 次の半年で何を経験させるか

このプロセスを通じて、管理職自身が“部下を観察する目”を養い、
「育成の当事者」へと変わっていきます。

さらに、こうした会議を定期的に行うことで、
学びが現場に戻る仕組みが自然と形成されます。


■ 研修を“イベント”から“習慣”に変える

本当に人が育つ会社は、
「研修=単発イベント」ではなく、「学び=日常の一部」になっています。

そのためには、以下の3つを意識することがポイントです。

  1. 研修の目的を“行動変化”に設定する

  2. 学びを共有する“場”を設ける

  3. 管理職が“学びの伝道者”になる

これらを継続すれば、研修は“知識のインプット”から“職場の行動変革”へと進化します。


■ まとめ:人が育たないのは、研修が悪いのではない

研修で人が育たない理由は、内容の問題ではありません。
それは、「実践の仕組み」がないからです。

  • 研修をしても行動が変わらない

  • 管理職が部下を理解していない

  • 学びを共有する文化がない

これらを解消するのが、“仕組み化された対話”です。
経営人財会議のような定例の人材対話を通じて、
理念・制度・育成が一本の線でつながります。

研修を“知識提供”から“職場変革の第一歩”へ。
それが、これからの人材育成のあるべき形です。

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