教育コストを減らして成長を加速──ロミンガーの法則で見直すOJTの本質

杉山 晃浩

第1章 OJTが形骸化している職場の現実

「OJTやってます」と言う企業は多いですが、実際に中身を見てみると、
“先輩が横で教えるだけ”というケースがほとんどです。

新人が入社したら、とりあえず誰かをOJT担当にして、
「現場で覚えて」「ついていって」――。
これが多くの企業で行われている“なんとなくOJT”。

しかし、その現場任せが、教育コストをむしろ膨らませていることに気づいている企業は少ないでしょう。

なぜなら、教える人によって質がバラバラで、育つスピードも成果も安定しないからです。
OJT担当者が抱える業務負担は大きく、教える側も「自分の仕事が進まない」と疲弊します。
結果的に、「研修も中途半端、OJTも中途半端」という悪循環に陥るのです。

OJTを“教え方”ではなく“仕組み”として再設計する。
そのために使えるのが、ロミンガーの法則です。


第2章 ロミンガーの法則とは?──成長の“70:20:10”モデル

ロミンガーの法則は、人の成長を次の3つの割合で説明しています。

  • 70%:仕事や経験から学ぶ(On the Job)

  • 20%:他者との関わりから学ぶ(Feedback・Mentor)

  • 10%:研修や学習から学ぶ(Education)

つまり、学びの9割は“現場”と“人”によって生まれるということです。

企業の多くは、教育=研修と思い込み、「10」にばかり力を入れがちです。
しかし、研修で知識を詰め込んでも、現場で実践しなければ人は育ちません。

重要なのは、「研修を減らせ」という話ではありません。
“経験を設計する”ことがOJTの本質なのです。


第3章 “経験”を設計できるOJTこそ最強の教育法

多くの企業では、「現場で学ばせる=放任」となっています。
しかし、ロミンガーの法則に基づくOJTは違います。

OJTとは、“偶然の経験”ではなく、“意図された経験”。
社員を成長させたい方向に導く「設計された仕事体験」です。

たとえば、営業職の新人に「同行して学ばせる」だけでなく、
途中で「自分で提案してみる」機会を与える。
その後、上司が「良かった点・課題点」をその場で伝える。

このサイクルを繰り返すことで、
本人は成功体験と失敗体験の両方を得ながら、
自分の考えで行動できるようになります。

つまり、経験を与え、支援し、振り返らせる――それが“設計されたOJT”です。


第4章 教育コストを削減する3つの視点

OJTを仕組み化すれば、研修コストをかけずに成長を加速できます。
そのための3つの視点を紹介します。

① 教える時間を減らし、学ぶ仕掛けを増やす

たとえば、マニュアル動画やチェックリストを活用すれば、
同じ説明を何度もしなくて済みます。
OJT担当者の時間は“個別指導”ではなく、“個別支援”に使うべきです。

② “教える人”の属人化を防ぐ

一人の担当者が抱え込むのではなく、ローテーションで複数の先輩が関わる。
教える側にとっても学びの機会になります。
「教えることが学びになる」――これがOJT文化の土台です。

③ “1on1”より“1toN”で育てる

OJTを「上司と部下の1対1」だけでやると限界があります。
チーム全体で新人を支える仕組み――たとえば、
朝礼やグループチャットで学びを共有するなど、
「チームOJT」を意識しましょう。


第5章 ロミンガーの法則をOJTに活かす実践ステップ

では、具体的にどのように落とし込めばよいのでしょうか?
ロミンガーの法則に沿った実践ステップは次の通りです。

Step 1:挑戦できるタスクを設計する(70%)

新人が「やらされる」のではなく「任される」経験を積むこと。
最初から難しい仕事を丸投げするのではなく、
“小さな成功体験”を積ませるように段階設計します。

Step 2:支援者を設定する(20%)

経験だけでは成長しません。
「どうだった?」と声をかける上司や先輩の存在が必要です。
定期的なフィードバック面談やメンター制度を取り入れましょう。

Step 3:学びを振り返る仕組みをつくる(10%)

日報や週報に「学び欄」を設け、OJT担当者と共有。
研修を「学んだ内容」ではなく「現場で活かせた内容」で評価する。
この循環が、現場と教育を結びつけます。


第6章 OJTを“教育制度”として整備するポイント

OJTを単なる「教える手法」ではなく、「育成制度」に昇華させることが重要です。

  • 任せることと放置の違いを明確にする
     失敗を想定したフォロー体制を整える。

  • 成長を“偶然”ではなく“設計”で生む
     どの経験を積ませるかを明文化し、人事評価と連動させる。

  • 教える人のモチベーションも設計する
     OJT担当者へのインセンティブや評価を取り入れると、教える文化が定着します。

つまり、OJTとは「現場教育」ではなく「戦略的人材育成」。
会社全体で仕組みとして支えることが、教育コスト削減の第一歩です。


第7章 社労士が支援できるOJT改革

社労士として、OJTを再設計する支援には次のようなものがあります。

  • OJT運用ルール・マニュアルの策定
     誰が、いつ、何を教えるかを明確に。

  • OJT担当者研修の実施
     教える技術(フィードバック・承認・傾聴)を育てる。

  • 成長記録・面談シートの設計
     「何を学び、どう成長したか」を見える化。

  • OJTと人事評価制度の接続
     「教える」「支援する」行動を評価指標に組み込み、教育文化を根づかせる。

こうした仕組みを整えることで、
OJTは“属人的教育”から“企業の資産”へと変わります。


第8章 結論:研修費を減らしても、社員は育つ

ロミンガーの法則が示すのは、
人は「現場」と「人」と「少しの理論」で育つというシンプルな真理です。

つまり、
研修を減らしても、経験をデザインすれば成長は止まりません。
むしろ、現場での学びを支援する仕組みを整えれば、
教育コストは下がり、社員の自律性とスピードは上がります。

“教えるより、任せる。”
“制度より、経験を設計する。”

杉山事務所では、企業のOJTを「教育コスト」ではなく「成長投資」に変えるお手伝いをしています。
もし、
「OJTが形骸化している」「人が育たない」と感じているなら――
それは仕組みではなく、“考え方”を見直すタイミングです。


📣 覚悟ある経営者へ。

研修をやめてもいい。
その代わり、“経験を設計する”ことを始めよう。

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