労働時間が減っても人は育つ──1万時間の法則を超える“質の教育”とは
杉山 晃浩
第1章 「1万時間の法則」が通用しなくなった時代
「一流になるには1万時間の練習が必要だ」
この言葉を一度は聞いたことがある方も多いでしょう。
マルコム・グラッドウェルが紹介した1万時間の法則は、
努力と継続が成果を生むという、まさに「成長の方程式」でした。
しかし現代の企業では、
その“1万時間”を積み重ねること自体が難しくなっています。
働き方改革によって残業は削減され、
副業やリスキリングで時間の使い方も多様化。
「長く働けば育つ」「経験を積めば伸びる」という時代ではなくなりました。
一方で、企業には「人を育てて戦力化する」責任が残っています。
限られた労働時間の中で、どうやって人を成長させるのか――。
その問いに答えるカギが、「時間の質を高める」という発想です。
第2章 1万時間の法則とは何か──量よりも「意図された練習」
1万時間の法則は「量」ではなく、「意図された練習(Deliberate Practice)」が前提です。
ただ時間を過ごすだけでは、スキルは伸びません。
たとえば、同じ3年間働いても、
・与えられた仕事を淡々とこなした人
・目的を意識し、改善を重ねた人
では、成長速度に圧倒的な差が出ます。
つまり、1万時間とは「何時間働いたか」ではなく、
“どんな時間を過ごしたか”を問う法則なのです。
現代の働き方では、
「長く働く」よりも「濃く学ぶ」が求められています。
それは、研修を増やすことではなく、
日常の仕事そのものを成長の場に変えることを意味します。
第3章 時間を減らしても「質」で勝てる育成の考え方
社員教育というと、研修・座学・マニュアルづくり――
どうしても“教育時間を確保すること”に目が向きがちです。
しかし、限られた勤務時間の中で、
もっとも大きな成長を生むのは「経験をデザインすること」です。
仕事を“作業”ではなく“学びの素材”として捉える。
新人に任せる業務を、意図的に「考える時間」「決断する時間」を含める。
このような仕掛けが、短時間でも人を成長させます。
ロミンガーの法則(70:20:10の法則)で言えば、
成長の70%は経験から生まれます。
つまり、時間をかけずとも、
「経験の質」を上げれば、成長スピードは上げられるということです。
第4章 “量ではなく密度”で育てる実践ステップ
① 目的を明確にして仕事を任せる
「何のためにやるのか」がわからない仕事は、ただの作業になります。
仕事を任せるときは、ゴールと狙いを共有すること。
目的が明確であれば、たとえ短い時間でも深く考えられるようになります。
② 短時間フィードバックを習慣化する
1on1面談を月1回にまとめるより、
日常の3分間フィードバックを増やす方が効果的です。
「今日の対応、どう思った?」
「ここをもう少し工夫できそうだね」
この小さな対話の積み重ねが、質の高い経験を育てます。
③ 成長を可視化してモチベーションを維持
どれだけ成長しているかを本人が実感できなければ、
学びは続きません。
チェックシートやコメント欄などで、
「見える成長」を意識的に設計することが大切です。
第5章 働く時間が減っても“学びの時間”は増やせる
「学び=時間を取ること」ではありません。
むしろ、日々の業務の中に“気づきの仕掛け”を入れることで、
学びは自然に増やせます。
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同僚とペアで業務を振り返る「シェアレビュー」
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1on1を「評価」ではなく「学びの対話」にする
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社内チャットで“成功体験”を共有する
こうした取り組みなら、追加の教育コストはほとんどかかりません。
時間を増やさず、関わりを増やすことが人を伸ばします。
第6章 1万時間を「企業文化」で置き換える
個人が1万時間を積むのは難しくても、
組織全体で1万時間を共有することは可能です。
つまり、“経験の共有”を企業文化にすることです。
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失敗談を隠さず共有する
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新しい挑戦を応援する
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誰かの成長を「自分ごと」として喜ぶ
このような文化がある会社では、
個人の経験がチームの経験となり、
チームの経験が会社の知恵となります。
一人では届かない1万時間も、
組織として積み上げれば到達できるのです。
第7章 社労士が支援できる“経験のデザイン”
社労士の役割は、就業規則や制度設計だけではありません。
「人をどう育てるか」「どんな経験を積ませるか」を、
企業の仕組みとして整えることも重要です。
杉山事務所では、次のようなサポートを行っています。
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OJT設計と評価制度の連動
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管理職教育(教えずに育てるリーダー研修)
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キャリア面談制度・ES調査の設計支援
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時間削減と人材育成を両立させる労務設計
“残業を減らす=教育が減る”ではありません。
「成長の仕組み」を設計すれば、働く時間を短くしても人は育ちます。
第8章 結論:時間をかけなくても、成長はつくれる
1万時間の法則が示すのは、「努力の量」ではなく「継続の質」です。
限られた時間の中でも、
“目的を持って働く”“振り返る”“共有する”――
その積み重ねこそが、今の時代の“1万時間”なのです。
成長は、時間の長さではなく関わりの深さで決まります。
そして、それを支えるのは仕組みと文化。
杉山事務所では、
「短時間でも人が育つ職場」をつくるための制度づくりを支援しています。
もし、あなたの会社で
「最近、育成が停滞している」「人が伸びない」と感じるなら、
時間ではなく“質”を見直すチャンスかもしれません。
📣 覚悟ある経営者に贈る一言:
1万時間がなくても、成長は設計できる。
会社が“学びの場”になるかどうかは、あなたの意思次第です。