社労士があえて言います 評価制度より先に“関係の質”を整えない会社は、必ずつまずきます
杉山 晃浩
「社員のやる気を引き出したい」
「頑張っている人が正当に評価される会社にしたい」
「感情ではなく、仕組みで人を育てたい」
こうした思いから、評価制度の導入を検討される経営者は少なくありません。
実際、評価制度そのものは決して悪いものではありません。むしろ、正しく使えば経営を安定させる強力な道具です。
しかし、社労士として数多くの現場を見てきた立場から、あえて申し上げます。
評価制度を「最初の一手」にすると、組織は高い確率でつまずきます。
それは、制度設計の問題ではありません。
順番の問題です。
評価制度を入れたのに、なぜか空気が悪くなる会社
評価制度導入後、こんな変化は起きていないでしょうか。
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社員同士が協力しなくなった
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会議で本音が出なくなった
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上司の顔色をうかがう社員が増えた
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数字は管理されているのに成果が出ない
経営者としては「おかしい」と感じるはずです。
制度は整えた。基準も示した。説明もした。
それでも、職場がギスギスしていく。
この現象は、決して珍しいものではありません。
成功循環モデルが教える「経営の原理原則」
ここで紹介したいのが、組織開発の世界で広く知られている成功循環モデルです。
成功循環モデルでは、組織の成果は次の順番で生まれるとされています。
関係の質 → 思考の質 → 行動の質 → 結果の質
多くの経営者は、
「結果を出したい」
「行動を変えたい」
という思いから、評価制度という“行動管理の仕組み”を先に入れます。
しかし成功循環モデルの視点では、
行動の前に、必ず「思考」があり、思考の前に「関係」がある
と考えます。
関係の質が低い組織で、評価制度が起こす副作用
関係の質とは、簡単に言えば次のような状態です。
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安心して意見が言える
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失敗を責められない
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上司が敵ではない
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話を聞いてもらえる
この土台がない組織に評価制度を入れると、何が起こるか。
社員はこう考え始めます。
「どう評価されるか」
「減点されないためにはどうするか」
「余計なことは言わない方が安全だ」
つまり、考える力が守りに入るのです。
その結果、思考の質は下がり、
・挑戦しない
・提案しない
・責任を取らない
という行動が増えます。
評価制度は「人を育てる仕組み」のはずが、
人を黙らせる仕組みになってしまうのです。
経営者の善意が、裏目に出てしまう理由
ここで強調しておきたいのは、
この問題の原因は、経営者の人格や姿勢ではない、ということです。
むしろ逆です。
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社員を大切にしたい
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公平に評価したい
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感覚的なマネジメントから脱却したい
そう考える、誠実な経営者ほど、評価制度を早く導入しがちです。
しかし、成功循環モデルの視点では、
「誠実さ」と「成果」は、必ずしも一致しません。
正しい順番で行動しなければ、正しい結果にはつながらない。
これが経営の難しさです。
「関係の質」を整えるとは、仲良くすることではない
誤解されがちですが、
関係の質を整えることは、
「仲良くする」「甘くする」という意味ではありません。
ポイントは、次の3つです。
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意見を言っても不利益が生じない
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ミスを共有しても人格否定されない
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上司が評価者である前に“対話者”である
この状態があって初めて、社員は
「どうすれば会社が良くなるか」
を本気で考え始めます。
評価制度は「最後」に近いほど、効果を発揮する
成功循環モデルに沿った導入順は、こうなります。
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関係の質を整える
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共通言語・考え方を揃える
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行動基準を言語化する
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その上で評価制度を導入する
この順番で導入された評価制度は、
・納得感が高く
・不満が出にくく
・行動変容につながりやすい
という特徴を持ちます。
評価制度が「管理」ではなく、
成長のための道具として機能し始めるのです。
社労士として、経営者にお伝えしたいこと
私は社労士として、
制度設計だけでなく、経営伴走を行っています。
その中で確信していることがあります。
制度で会社は変わりません。
順番を守ったときにだけ、制度は力を発揮します。
評価制度を入れること自体は、決して間違いではありません。
しかし、もし今、
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職場の空気に違和感がある
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社員の本音が見えない
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制度導入に不安を感じている
のであれば、一度立ち止まって考えてみてください。
「今、整えるべきは制度なのか。
それとも、関係の質なのか。」
その問いから始める経営こそが、
結果的に、強い組織をつくる最短ルートになります。