社労士が年末にあえて言います 「もったいない経営」は、会社を静かに弱らせます
杉山 晃浩
12月31日。
一年の終わりを迎え、経営者としてこの一年を振り返っている方も多いのではないでしょうか。
売上、利益、採用、離職、人間関係。
思い通りにいったこともあれば、正直「うまくいかなかった」と感じていることもあるはずです。
年末は、反省と同時に
「来年はもっと良くしたい」
という前向きな気持ちが芽生える時期でもあります。
そんな今だからこそ、あえてお伝えしたいテーマがあります。
それが、サンクコスト効果です。
「もったいない」が判断を鈍らせる
サンクコスト効果とは、心理学・行動経済学で知られる法則です。
すでに支払ってしまった時間・お金・労力(=取り戻せないコスト)に引きずられ、
本来ならやめる、変えるべき判断ができなくなる心理現象
重要なのは、
過去にかけたコストは、どんな決断をしても一切戻らない
という事実です。
しかし人は、理屈では分かっていても、感情がそれを許しません。
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ここまで育てたのだから
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これだけ投資したのだから
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今さらやめたら、全部無駄になる
こうした「もったいない」という感情が、
冷静な経営判断を少しずつ狂わせていきます。
年末は、サンクコスト効果が最も強く働く
実は、年末という時期は、サンクコスト効果が非常に強く出やすいタイミングです。
なぜなら、年末は自然と「総決算モード」になるからです。
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今年の努力を意味あるものにしたい
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失敗だったと認めるのはつらい
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来年に希望をつなげたい
こうした感情が重なることで、
「やめる判断」よりも「続ける理由」を探し始めてしまうのです。
しかし、ここで流されてしまうと、
その判断はそのまま来年へ持ち越されます。
社労士としてよく見る「やめられない経営」
社労士として多くの企業と関わる中で、
年末になると特に多いのが、次のようなケースです。
ケース① 明らかに合っていない社員
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何度指導しても改善が見られない
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周囲との摩擦が絶えない
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本人もつらそうにしている
それでも経営者は言います。
「ここまで育ててきたから」
「本人は悪い人じゃないから」
気持ちはよく分かります。
しかし、その判断が組織全体に与える影響を、見落としてはいないでしょうか。
ケース② 機能していない制度・仕組み
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形だけ残っている評価制度
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誰も活用していない研修
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実態に合わなくなったルール
「作るのに時間とお金をかけたから」
という理由で、見直すこと自体が先送りされているケースは少なくありません。
ケース③ 昔から続く取引や慣習
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条件が悪くなっても切れない取引先
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非効率だと分かっている業務フロー
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誰も疑問を持たなくなった社内慣行
「昔からそうだから」
という言葉の裏にも、サンクコスト効果が潜んでいます。
サンクコストは「未来の判断材料」にならない
ここで、経営者としてぜひ押さえておいていただきたいことがあります。
過去に使ったコストは、未来の判断材料にはなりません。
にもかかわらず、人は無意識に
「これまでの判断は間違っていなかった」
と証明するための未来を選んでしまいます。
その結果、
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問題を先送りする
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損失を拡大させる
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組織が疲弊していく
という状態に、静かに陥っていきます。
だから私は、これを
「静かに会社を弱らせる経営」
と呼んでいます。
「やめる決断」は、経営の失敗ではない
多くの経営者が、
「やめる=失敗」
と感じています。
しかし、現実は違います。
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間違いに気づけた
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修正できる体力が残っている
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学びを次に活かせる
これらはすべて、健全な経営判断です。
本当の失敗は、
「誤りだと気づいていながら、やめられないこと」
です。
年末にこそ問いかけてほしい、たった一つの基準
12月31日、ぜひ自分にこう問いかけてみてください。
「これは、これから先も続ける合理性があるだろうか?」
この問いには、
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これまでの苦労
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個人的な感情
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世間体
を入れてはいけません。
見るべきは、これから先の未来だけです。
社労士として、年末にお伝えしたいこと
私は社労士として、
人・制度・組織に関わる「やめ時」「見直し時」を、数多く見てきました。
その中で確信していることがあります。
会社を強くするのは、完璧な判断ではありません。
修正できる判断です。
年末は、反省会をする時期ではありません。
整理をする時期です。
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来年も続けるもの
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見直すもの
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思い切って手放すもの
これを分けるだけで、
来年の経営は確実に軽くなります。
「もったいない」という感情を否定する必要はありません。
ただ、その感情に経営のハンドルを握らせないこと。
それが、来年の会社を守る、最初の一歩になります。