健康経営の具体例|無農薬の事務所農園で得られた3つの効果
杉山 晃浩
「健康経営に取り組んでいますか?」
そう聞かれると、多くの中小企業経営者は少し身構えます。
健康診断の受診率、ストレスチェック、運動促進、食生活改善、認証制度……。
どれも正しいのですが、「結局、何から手をつければいいのか分からない」というのが本音ではないでしょうか。
私たちの事務所では、少し変わった形で健康経営に取り組んでいます。
それが事務所農園です。
無農薬で野菜を育て、スタッフ全員で畑をつくり、収穫した野菜を所長が料理して一緒に食べる。
制度でもイベントでもなく、「日常の延長線上」にある取り組みです。
今回は、この事務所農園を通じて実感した3つの効果を、具体的にお伝えします。
12月26日、大掃除の途中で始まった畑づくり
今年の植え付けは、12月26日。
年末の大掃除の真っ最中でした。
掃除がひと段落したタイミングで、肥料を入れ、鍬を入れ、土を耕す。
植えたのは、ブロッコリー、カリフラワー、しゅんぎく。
防虫ネットを張り、無農薬で育てる準備を整えました。
特別な号令があったわけではありません。
「せっかくだから、みんなでやろうか」
そんな一言から、自然とスタッフが集まり、役割分担が始まりました。
この「自然に人が動く」という感覚は、後ほど触れる健康経営の本質と深く関係しています。
効果① 数値では測れない「心の健康」が整う
健康経営というと、どうしても身体的な健康に目が向きがちです。
しかし、実際の職場で問題になるのは、むしろ心の疲労です。
畑仕事には、不思議な力があります。
-
土を触る
-
無心で鍬を動かす
-
植物の成長を目で確認する
これだけで、頭の中が一度リセットされます。
パソコンやスマートフォンから離れ、「今ここ」に集中する時間が生まれるのです。
スタッフからは、こんな声が出ました。
「気分転換になる」
「頭がすっきりする」
「普段話さない人と自然に話せた」
ストレスチェックの数値では見えませんが、確実に空気がやわらぎます。
これは、メンタルヘルス対策としても非常に大きな効果です。
効果② 「チームワーク」は研修より畑で育つ
チームビルディング研修を否定するつもりはありません。
しかし、短時間の研修よりも、畑のほうがよほどチームをつくると感じています。
畑では、上下関係がほとんど意味を持ちません。
-
鍬が得意な人
-
段取りが上手な人
-
ネット張りが器用な人
それぞれの得意分野が自然に活かされます。
誰かが指示しなくても、「じゃあ私はこっちやりますね」という動きが生まれます。
これは、強制された協力ではなく、自発的な協力です。
職場で理想とされる「主体性」「助け合い」「空気を読む力」は、
実はこうした非日常の共同作業の中で、いちばん育ちやすいのです。
効果③ 「食」がつなぐ、経営者とスタッフの距離
収穫した野菜は、所長が料理します。
プロの料理人ではありませんが、「ちゃんと手をかけた料理」です。
ここで大切なのは、料理の腕前ではありません。
誰が作ったかです。
経営者が野菜を育て、料理し、同じものを一緒に食べる。
この体験が、言葉以上に多くのことを伝えます。
-
大切にされているという感覚
-
同じ立場で食卓を囲む安心感
-
「この会社で働いていてよかった」という実感
これらは、給与や制度だけでは生まれにくいものです。
しかし、定着率やエンゲージメントには確実に影響します。
健康経営は「特別なこと」をやらなくていい
ここまで読んで、「うちは畑なんて無理だ」と思われた方もいるかもしれません。
しかし、大切なのは農園そのものではありません。
本質は、次の3点です。
-
身体と心の両方を整える時間をつくること
-
上下関係を超えた共同作業を経験すること
-
食を通じて、人としての距離を縮めること
畑でなくても構いません。
小さな菜園、プランター、ハーブでもいい。
要は、「一緒につくり、一緒に味わう」ことです。
健康経営は「文化」として根づかせる
健康経営を成功させている企業には共通点があります。
それは、制度を文化に落とし込んでいることです。
事務所農園は、認証を取るための取り組みではありません。
補助金をもらうためでもありません。
日常の中に、健康につながる行動を埋め込んでいるだけです。
だからこそ、無理なく続きます。
まとめ|まずは、できる一歩から
健康経営に正解はありません。
しかし、「やっている感」だけの取り組みは、いずれ形骸化します。
無農薬の事務所農園は、
・特別な費用をかけず
・スタッフの負担も少なく
・確実に職場の空気を変える
非常に再現性の高い取り組みです。
もし、健康経営に悩んでいるなら、
まずは土に触れる一歩から始めてみてはいかがでしょうか。
数字では測れない効果が、きっと職場に芽吹きます。
