社員の命を守るために、会社が整えるべき「相談の仕組み」
杉山 晃浩
社員の命に関わる出来事が起きたとき、
多くの経営者はこう思います。
「なぜ、もっと早く相談してくれなかったのか」
「誰か一人でも気づいていれば、結果は違ったのではないか」
しかし現実には、
社員が追い込まれるまで声を上げられなかった構造が、
職場の中に存在しているケースが少なくありません。
本稿では、社員個人の問題に矮小化せず、
会社として整えるべき「相談の仕組み」について整理します。
第1章 「相談できなかった」現実から目を背けない
社員の自死や深刻なメンタル不調の事例を振り返ると、
多くの場合、共通する事実があります。
それは、
「誰にも相談していなかった」「相談できなかった」
という現実です。
上司も、人事も、同僚も、
後になって初めて異変を知る。
これは、本人の意思の問題だけではありません。
相談できない職場構造が存在していた可能性を、
企業として直視する必要があります。
第2章 なぜ社員は追い込まれるまで声を上げられないのか
社員が声を上げられない理由は、決して単純ではありません。
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弱音を吐いたら評価が下がるのではないか
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「迷惑をかける人間」だと思われたくない
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上司との関係が悪化するのが怖い
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相談しても変わらないのではないか
こうした不安は、
本人にとっては現実的なリスクです。
特に中小企業では、
人間関係の距離が近いこと自体が相談のハードルになることもあります。
第3章 社内相談窓口が抱える構造的な限界
近年、多くの企業で
ハラスメント相談窓口や内部相談窓口が設けられています。
これは重要な一歩です。
しかし、設置しただけで機能するとは限りません。
社内窓口には、構造的な限界があります。
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相談相手が「会社の中の人」である
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守秘が本当に守られるか不安
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人事評価や配置転換への影響が怖い
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誰に相談内容が伝わるのか分からない
制度として存在していても、
「使われない窓口」になっている会社は少なくありません。
第4章 ハラスメントとメンタル不調は切り離せない
メンタル不調の背景には、
明確なハラスメントが存在する場合もあれば、
本人ですら言語化できない「違和感」の積み重ねがある場合もあります。
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厳しい指導
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無視や排除
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過度な期待
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曖昧な役割や責任
これらは、
ハラスメントとして表面化する前段階であることも多く、
相談の入り口がなければ見過ごされてしまいます。
だからこそ、
「問題が起きてから」ではなく、
小さな違和感の段階で声を出せる仕組みが必要なのです。
第5章 外部相談窓口という「もう一つの逃げ道」
そこで重要になるのが、
ハラスメント外部相談窓口という選択肢です。
社外の第三者だからこそ、
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利害関係を気にせず話せる
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社内の人間関係を意識せずに済む
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匿名で相談できる安心感がある
というメリットがあります。
外部相談窓口は、
「会社を告発する場所」ではありません。
社員が自分を守るために使える“逃げ道”
それが本来の役割です。
第6章 外部相談窓口は「社員のため」だけではない
外部相談窓口は、
社員を守る仕組みであると同時に、
会社を守る仕組みでもあります。
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早期にリスクの兆候を把握できる
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客観的な記録が残る
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初動対応の判断材料になる
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「何もしていなかった」と言われにくくなる
万が一、企業責任が問われる場面でも、
事前に相談体制を整えていたかどうかは、
重要な判断材料になります。
第7章 相談の仕組みは人事施策ではなく「経営インフラ」
相談窓口は、
一時的な対策や形式的な制度では意味がありません。
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採用・定着
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リスク管理
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組織の健全性
これらを支える、
経営インフラの一部として位置づける必要があります。
「何かあったら使える」ではなく、
「常にそこにある」
それ自体が、社員へのメッセージになります。
まとめ
社員の命を守るために、会社ができる最初の一歩
完璧な会社は存在しません。
問題が起きない職場も存在しません。
だからこそ、
社員が一人で抱え込まないための仕組みを、
会社が用意することに意味があります。
外部相談窓口の設置は、
万能薬ではありません。
しかし、
「相談できる逃げ道がある」という事実は、
社員の命を守り、
同時に会社を守る力になります。
社員の命を守るために。
そして、経営者自身を孤立させないために。
今、会社として
整えるべき「相談の仕組み」が問われています。