「年俸制だから残業代なし」は通用しません 社長が知らない労基法と民法の怖い話
杉山 晃浩
「うちは年俸制だから残業代は出ないよね?」
中小企業の経営相談の現場で、今でもよく聞く言葉です。
しかし、実際にはこの考え方が原因で、未払残業代請求や退職時トラブル、労働審判に発展するケースが少なくありません。
しかも厄介なのは、年俸制度の問題は“労働基準法だけ”では終わらないことです。
場合によっては、民法上の「契約問題」として扱われ、会社側が不利になることもあります。
最近では、SNSや動画サイト、AI検索などで、従業員側もかなり知識を持っています。
昔のように、
「社長がそう言ったから」
では済まない時代になりました。
採用強化のつもりで導入した年俸制度が、逆に会社を苦しめるケースも増えています。
今回は、中小企業が知っておくべき「年俸制度の落とし穴」について、できるだけわかりやすく整理していきます。
年俸制は“自由な給与制度”ではありません
年俸制という言葉には、どこか“特別感”があります。
- 外資系っぽい
- プロフェッショナルっぽい
- 優秀人材向けっぽい
そんなイメージを持つ経営者も少なくありません。
ですが、実際には、年俸制だからといって労働基準法が消えるわけではありません。
年俸制でも、
- 労働時間管理
- 残業代
- 深夜労働
- 休日労働
- 有給休暇
などのルールは、基本的に普通の社員と同じです。
つまり、
「年俸制=残業代なし」
ではないのです。
ここを誤解したまま制度導入すると、後から大きな問題になります。
「固定残業込み」が非常に危険です
特に危険なのが、固定残業代の設計です。
例えば、
「年収600万円です」
とだけ伝えて採用している会社があります。
しかし、
- 基本給はいくらなのか
- 固定残業代はいくらなのか
- 何時間分なのか
- 超えた場合はどうするのか
これらが曖昧だと、後から固定残業代そのものが無効になる可能性があります。
そうなると、
「全部が基本給扱い」
となり、改めて残業代を計算し直すケースもあります。
これが非常に怖い。
数年分まとめて請求されると、中小企業には大打撃になります。
「管理職だから残業代なし」も危険です
さらによくあるのが、
「店長だから」
「部長だから」
「管理職だから」
という理由だけで残業代を払っていないケースです。
しかし、法律上の「管理監督者」は、単なる肩書ではありません。
- 経営に近い権限があるか
- 出退勤の自由度があるか
- 給与水準が見合っているか
など、実態で判断されます。
名ばかり管理職問題という言葉を聞いたことがある方もいるでしょう。
つまり、
「役職をつければ残業代なし」
ではないのです。
年俸制と管理監督者の誤解が重なると、会社のリスクはさらに大きくなります。
本当に怖いのは“民法”の世界です
ここからが、実はもっと怖い話です。
年俸制度は、労働基準法だけではなく、「契約」の要素が強くなります。
つまり、民法の考え方も重要になるのです。
例えば、
「今年の年俸は600万円」
と約束していた場合。
途中で業績が悪くなったからといって、
「来月から年収500万円に下げます」
と簡単に変更できるとは限りません。
従業員側からすると、
「最初の約束と違う」
となるからです。
しかも、口頭説明だけだったり、契約内容が曖昧だったりすると、会社側が不利になるケースもあります。
経営者としては、
「会社が厳しいんだから仕方ない」
と思うかもしれません。
しかし、法律の世界では、
「最初にどう約束したか」
が重視されるのです。
中小企業で実際によくある失敗
実務上、本当に多いのは次のようなケースです。
賞与込みなのに説明不足
会社側は、
「年俸に賞与込みのつもり」
でも、社員側は、
「別途賞与があると思っていた」
というケース。
説明不足は非常に危険です。
年俸額だけ決めている
「年収だけ提示」
して、内訳を書面化していない。
これはかなり危険です。
後から、
- 基本給
- 固定残業代
- 手当
の区別ができなくなります。
評価制度がない
「成果で決める」
と言いながら、実際には社長の感覚で決めている。
これも揉めやすい。
社員側からすると、
「なぜ下がったのかわからない」
となるからです。
就業規則に書いていない
年俸制度だけ導入して、規程整備が追いついていない会社も多いです。
しかし、制度は“作っただけ”では意味がありません。
説明できる状態になって初めて、制度として機能します。
優秀な人ほど制度を見ています
昔は、
「給料が高ければOK」
という時代もありました。
しかし、今は違います。
特に若い世代ほど、
- SNS
- AI検索
- 口コミ
- 転職サイト
などで会社を調べています。
そのため、
- 制度が曖昧
- 説明が雑
- 契約内容が不透明
こういった会社は、かなり警戒されます。
逆に言えば、
「制度をきちんと説明できる会社」
は、それだけで採用力になります。
年俸制度は、本来、優秀人材を惹きつける武器にもなる制度です。
しかし、設計を間違えると、逆に人が離れていきます。
「なんとなく導入」が一番危ない
実は、中小企業ほど、
「なんとなく年俸制」
が危険です。
- 他社がやっていた
- カッコいい
- 採用で見栄えがいい
- 毎月給与計算がラクそう
そんな理由だけで導入すると、後で痛い目を見ることがあります。
特に、
- 就業規則
- 賃金規程
- 労働条件通知書
- 評価制度
- 固定残業設計
これらがバラバラだと、制度が崩壊しやすくなります。
本来、給与制度は「会社を守る設計図」です。
見た目だけ整えても意味がありません。
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制度設計は“経営”そのものです
年俸制度は、単なる給与の決め方ではありません。
- 採用
- 定着
- モチベーション
- 評価
- 労務リスク
すべてに関わる「経営設計」です。
だからこそ、
「ネットで見たから」
「他社がやっているから」
だけで導入するのは危険です。
特に今は、従業員側も知識を持っています。
曖昧な制度は、会社を守ってくれません。
逆に、制度設計がしっかりしている会社は、
- 採用されやすい
- 定着しやすい
- 揉めにくい
という強い会社になっていきます。
もし、
- 年俸制度を導入したい
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「知らなかった…」
では済まない時代です。
だからこそ、“制度で会社を守る”という視点を、今こそ持っていただければと思います。