企業型DC対個人年金保険、結局どちらが得?金利上昇時代の老後資金づくりを徹底比較
杉山 晃浩
「個人年金保険の利率が上がってきました。企業型DCより、こちらのほうが安心ではないでしょうか?」
最近、このような質問を受ける機会が増えてきました。
長く続いた超低金利の時代が終わり、保険会社も個人年金保険などの貯蓄性商品を見直し始めています。将来受け取れる金額が契約時にある程度わかる商品は、老後資金を準備したい人にとって魅力的です。
一方、企業型DC、いわゆる企業型確定拠出年金にも、税金や社会保険料、運用益に関する大きなメリットがあります。
では、企業型DCと個人年金保険は、結局どちらが有利なのでしょうか。
先に結論を申し上げます。
単純な「戻り率」のわかりやすさでは、個人年金保険に魅力があります。しかし、積立時の税金・社会保険料、運用中の非課税効果、長期運用による成長の可能性まで含めると、選択制企業型DCが有利になりやすいケースがあります。
ただし、すべての人に企業型DCが向いているわけではありません。
大切なのは、利率や節税という一部分だけで決めず、自分が何を重視するのかを整理することです。
金利のある世界になり、個人年金保険が再び動き始めた
個人年金保険は、毎月保険料を払い込み、一定の年齢から年金または一時金を受け取る保険商品です。
これまでは金利が非常に低く、長期間払い込んでも受取額があまり増えない商品が少なくありませんでした。そのため、「長い間、お金が動かせなくなる割には増えない」という印象を持つ人も多かったと思います。
しかし、金利環境の変化によって状況が動き始めています。
今回確認した個人年金保険の契約例では、30歳の男性が月額1万円を65歳まで35年間払い込む内容となっています。
払込総額は、
1万円×12か月×35年間=420万円
です。
この契約例では、65歳時に一括で受け取る場合の見込額が約480万9,000円、10年間の年金として受け取る場合の総額が約512万円とされています。
払込総額に対する戻り率は、一括受取で約114.5%、年金受取で約121.9%です。
元本割れの可能性をできるだけ避けながら、将来受け取る金額の見通しを立てたい人にとっては、検討する価値がある商品といえるでしょう。
ただし、この数字だけを見て「個人年金保険のほうが企業型DCより得だ」と判断するのは早すぎます。
両者は、お金を積み立てる仕組みも、税金の扱いも、途中でお金が必要になったときの対応も異なるからです。
個人年金保険の税制優遇は「保険料全額」ではない
個人年金保険には、一定の条件を満たすと「個人年金保険料控除」が利用できるというメリットがあります。
ここで誤解されやすいのが、「年間12万円の保険料を払えば、所得から12万円を差し引ける」というものです。
実際には、2012年1月1日以後に締結した一般的な新契約の場合、所得税の所得控除額は最大4万円、住民税の所得控除額は最大2万8,000円です。
つまり、年間12万円の保険料を払っても、12万円全額が所得控除になるわけではありません。
仮に所得税率10%、住民税率10%の人であれば、年間の税負担軽減額は概算で、
所得税4万円×10%=4,000円
住民税2万8,000円×10%=2,800円
合計6,800円です。
35年間同じ条件が続いたと仮定すると、税負担の軽減額は合計約23万8,000円となります。
もちろん、実際の金額は本人の所得、税率、契約時期、ほかの生命保険料控除の利用状況などによって変わります。
個人年金保険料控除は魅力の一つですが、「払った保険料が丸ごと節税になる制度」ではないことは理解しておく必要があります。
個人年金保険料控除の詳しい仕組みは、国税庁の生命保険料控除に関する案内でも確認できます。
選択制企業型DCは、積立時の仕組みが大きく違う
企業型DCは、会社が導入する退職金・老後資金準備のための制度です。
そのなかでも選択制企業型DCは、従業員が給与の一部をそのまま受け取るか、企業型DCの掛金として積み立てるかを選べる仕組みです。
適切に制度設計された選択制企業型DCでは、掛金として選択した金額が給与として扱われないため、原則として所得税・住民税の計算対象から外れます。
さらに、社会保険料を計算する際の報酬からも外れる場合があります。
たとえば、毎月1万円を企業型DCへ積み立てると、年間掛金は12万円です。
所得税率10%、住民税率10%、本人負担の社会保険料率を概算15%として単純計算すると、年間の負担軽減効果は最大で約4万2,000円となります。
35年間では約147万円です。
個人年金保険料控除の約23万8,000円と比べると、大きな差になります。
ただし、社会保険料は給与額にそのまま一定率を掛けて決まるわけではありません。「標準報酬月額」という等級で計算されるため、DC掛金を選択しても等級が変わらず、社会保険料が下がらないこともあります。
また、標準報酬月額が下がれば、将来の厚生年金だけでなく、傷病手当金、出産手当金などの給付額が下がる可能性があります。
「社会保険料が安くなるから得」とだけ説明するのは不十分です。
現在の手取り、老後資金、将来の社会保障給付まで含めて確認する必要があります。
運用中の違いも無視できない
企業型DCでは、掛金を使って定期預金、保険商品、投資信託などから運用商品を選びます。
運用によって得た利益は、DC口座の中にある間は非課税です。
通常の金融商品では、運用益に税金がかかることがありますが、DCでは税金を差し引かれずに利益を再び運用できます。運用期間が長くなるほど、この差が積み重なります。
一方、受取額は確定していません。
株式や債券を含む投資信託を選べば、資産が増える可能性がある反面、相場の下落によって元本割れする可能性もあります。
自分で運用商品を選び、その後も定期的に確認する必要があります。
個人年金保険は、契約時に予定利率や基本年金額などが示されるため、将来の見通しを立てやすいことが特徴です。
「自分で投資商品を選ぶのは不安だ」
「大きく増えなくても、受取額の見通しが欲しい」
このような人には、個人年金保険が合う可能性があります。
ただし、個人年金保険も無条件に安心とはいえません。
契約から短期間で解約すると、解約返戻金が払込保険料を大きく下回る場合があります。また、将来受け取る金額が決まっていても、その間に物価が上昇すれば、お金の実質的な価値は下がります。
35年後の500万円が、現在の500万円と同じ買い物をできるとは限らないのです。
途中でお金が必要になったら、どちらが困るのか
企業型DCは、老後資金を準備する制度であるため、原則として60歳になるまで資産を引き出せません。
これは大きな制約です。
住宅購入、子どもの進学、病気、災害、事業資金など、途中でまとまったお金が必要になっても、DCの資産を自由に使うことはできません。
一方、個人年金保険は、途中解約によってお金を受け取れる商品が一般的です。
ただし、解約時期によっては、受け取る解約返戻金が払込保険料を下回ります。解約できるからといって、損をせずに自由に引き出せるわけではありません。
このため、どちらを選ぶ場合でも、生活費や緊急予備資金まで老後資金へ回してはいけません。
「60歳まで使わないお金」と「必要なときに使えるお金」を分けて準備することが基本です。
2026年12月から、企業型DCの活用余地はさらに広がる
企業型DCを取り巻く制度も変わります。
2026年12月1日から、企業型DCやiDeCoなどを合計した拠出限度額が、原則として月額6万2,000円へ引き上げられる予定です。
ただし、企業が確定給付企業年金などのほかの企業年金制度を設けている場合は、その掛金相当額を差し引いて限度額を計算します。
誰でも必ず月額6万2,000円を積み立てられるという意味ではありません。
それでも、老後資金を準備できる非課税枠が広がることは、経営者と従業員の双方にとって大きな変化です。
企業型DCは、単なる福利厚生ではありません。
採用、定着、退職金準備、従業員の金融教育、役員の老後資金づくりまで含めて設計できる経営制度です。
改正内容については、厚生労働省「2025年の制度改正」で確認できます。
結局、どちらを選べばよいのか
企業型DCが向いているのは、次のような人です。
- 原則60歳まで使わない老後資金を準備したい
- 税金や社会保険料の負担軽減効果を重視したい
- 長期運用によって資産を増やす可能性を求めたい
- 自分で商品を選び、定期的に見直すことができる
- 勤務先に企業型DCがある、または会社として導入を検討できる
個人年金保険が向いているのは、次のような人です。
- 将来受け取る金額の見通しを重視したい
- 自分で投資商品を選びたくない
- 大きく増やすことより、計画的に積み立てることを優先したい
- 死亡給付など保険としての機能も重視したい
- 勤務先に企業型DCがない
そして、実際には「どちらか一つだけを選ぶ」必要もありません。
企業型DCで税制優遇と長期運用を活用しながら、個人年金保険で一定額の受取見通しを確保する方法もあります。預貯金やNISAを組み合わせ、途中で使える資金を確保することも重要です。
老後資金づくりでは、一つの商品にすべてを任せるより、それぞれの役割を分けたほうが安定しやすくなります。
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金利が上がったから個人年金保険。
節税できるから企業型DC。
このような一言だけで、35年間続く選択を決めるのは危険です。
現在の負担だけでなく、運用中、途中解約、60歳以降の受取方法、税金、社会保障給付まで含めて比較してください。
老後資金づくりは、商品を選ぶことから始まるのではありません。
「いつ、何のために、いくら必要なのか」を決めることから始まります。