パートに賞与を払わなくても大丈夫?「正社員だけ支給」の説明責任

杉山 晃浩

「うちの会社では、賞与は正社員だけです。パートには払っていません」

このような会社は、決して珍しくありません。

正社員には夏と冬に賞与を支給し、パートタイマーには賞与なし。あるいは、正社員には基本給の2か月分を支給し、パートには数千円から数万円程度の寸志だけを支給する会社もあります。

では、このような差は問題ないのでしょうか。

結論からいえば、パートに賞与を支給していないという事実だけで、直ちに法令違反になるわけではありません。

しかし、

「パートだから賞与はありません」

「正社員だけに支給するのが昔からのルールです」

これだけでは、待遇差の説明として不十分になる可能性があります。

会社が確認しなければならないのは、単に「賞与を払っているか、払っていないか」ではありません。

なぜ正社員に賞与を支給するのか。その目的に照らして、なぜパートは支給対象にならないのか。正社員とパートでは、仕事内容や責任、将来の役割にどのような違いがあるのか。

こうした点を、具体的な事実に基づいて説明できるかどうかが重要です。

「正社員とパートだから違って当然」は通用しにくい

同一労働同一賃金とは、正社員とパートの給料をすべて同じにする制度ではありません。

正社員とパートの間に、どのような待遇差があってもいけないという意味でもありません。

それぞれの仕事内容、責任の重さ、配置転換の範囲などに違いがあれば、その違いに応じて待遇に差が生じることはあります。

問題になるのは、待遇の目的や実際の働き方を確認せず、雇用区分の名称だけで差をつけている場合です。

厚生労働省も、同一企業内の正社員と非正規雇用労働者との間にある不合理な待遇差を解消することを求めています。パートタイマー、アルバイト、契約社員、嘱託社員など、会社で使っている呼び名だけで対象が決まるわけではありません。厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法とは」

たとえば、次のような会社があったとします。

正社員AさんとパートBさんは、同じ売場で働いています。

接客、レジ、商品の陳列、在庫確認など、日常の仕事内容はほとんど同じです。忙しい時間帯には、Bさんも新人の指導をしています。お客様からの苦情にも対応しています。

ところが、正社員Aさんには賞与が支給され、パートBさんには1円も支給されません。

会社に理由を聞くと、次の答えが返ってきました。

「Aさんは正社員で、Bさんはパートだからです」

これでは、雇用契約の名称を言い換えただけです。なぜ賞与に差があるのかを説明したことにはなりません。

最初に確認するのは「賞与を何のために払うのか」

賞与の待遇差を考えるとき、最初に確認したいのが賞与の支給目的です。

賞与には、会社によってさまざまな目的があります。

  • 会社の業績に対する社員の貢献へ報いる
  • 一定期間の勤務成績や成果を評価する
  • 将来の活躍や責任ある役割への期待を示す
  • 社員の生活を支援する
  • 人材の定着を促す
  • 毎月の給与を補う

実際には、これらの目的が複数組み合わされている会社もあります。

賞与の目的が違えば、確認すべき内容も変わります。

たとえば、会社の業績への貢献を理由に賞与を支給しているのであれば、パートが会社の業績に貢献していないと言い切れるでしょうか。

店舗や介護施設、医療機関、飲食店などでは、パートが現場の中心になっているケースもあります。正社員と勤務時間は違っても、売上やサービスの提供に貢献していることは少なくありません。

この場合、パートを賞与の対象から完全に外すのであれば、その理由を慎重に検討する必要があります。

一方、正社員の賞与に、転勤、職種変更、部下の管理、数値責任、緊急時対応、将来の管理職登用などへの評価が含まれている会社もあります。

実際に正社員だけがそのような責任を負っているのであれば、賞与の金額や算定方法に違いを設ける理由の一つにはなり得ます。

ただし、就業規則に「正社員は転勤や職種変更がある」と書いてあるだけでは十分とは限りません。

実際には正社員も転勤せず、職種変更もなく、パートと同じ仕事だけをしているのであれば、規程上の違いと現実の働き方が一致しているかを確認する必要があります。

大切なのは、肩書や規程の文章だけで判断せず、現場で何をしているかを見ることです。

正社員とパートを比べるときの3つの視点

賞与の待遇差を点検するときは、少なくとも次の3点を比較します。

仕事内容

まずは、正社員とパートが担当している仕事を比べます。

「正社員は販売、パートも販売」といった大きな分類だけではなく、日常的に担当する中心的な仕事を具体的に確認します。

たとえば、次のような内容です。

  • 接客や受付を担当するか
  • 発注や在庫管理を担当するか
  • 売上目標を持っているか
  • 新人教育を担当するか
  • 取引先との交渉を行うか
  • クレームや事故の最終対応をするか

同じ職場にいても、補助業務が中心なのか、自分で判断して業務を進めるのかによって、仕事の内容は変わります。

責任の重さ

次に確認するのが、責任の程度です。

ミスが発生したときの影響、本人に与えられている権限、数値目標、部下や後輩の指導責任などを比べます。

ここで注意したいのは、パートにも実質的な責任を負わせている会社です。

店長が不在のときはパートが現場を取りまとめる。新人の指導をベテランパートに任せる。難しいお客様への対応もパートが行う。

このような実態があるのに、「パートには責任がない」と説明するのは無理があります。

会社にとって都合のよいときだけ責任を負わせ、賞与を考えるときだけ「責任のないパート」と扱えば、本人が納得しないのは当然です。

配置や役割が変わる範囲

最後に、転勤、職種変更、配置転換、応援勤務、昇進などの範囲を比べます。

正社員には店舗間の異動や職種変更があり、パートは勤務場所と仕事が限定されている。この違いが実際に運用されているのであれば、待遇差を検討する要素になります。

ただし、「将来転勤するかもしれない」「将来管理職になる可能性がある」という抽象的な説明だけで、どのような待遇差でも認められるわけではありません。

可能性だけではなく、採用時の説明、就業規則、これまでの人事異動の実績なども含めて確認する必要があります。

「賞与なし」と書いてあれば問題ないのか

パートの労働条件通知書に「賞与なし」と書いている会社もあります。

書面に明記することは大切です。パートタイム・有期雇用労働者については、雇入れ時などに賞与の有無を文書等で明示する必要があります。

しかし、「賞与なし」と書けば、どのような待遇差でも許されるわけではありません。

労働条件通知書は、会社と本人との間でどのような労働条件になっているかを確認する書面です。一方、同一労働同一賃金では、その待遇差が仕事や責任などの違いに照らして不合理でないかを確認します。

つまり、

「本人に賞与なしと説明して、同意してもらった」

ということと、

「正社員との賞与差が不合理ではない」

ということは、別の問題です。

次の書類を並べて確認してください。

  • 正社員用の就業規則
  • パート用の就業規則
  • 賃金規程・賞与規程
  • 労働条件通知書
  • 雇用契約書
  • 求人票
  • 賞与の査定資料
  • 過去の支給実績

たとえば、就業規則の賞与条項に「会社は、従業員に対して賞与を支給する」と書かれている一方、「従業員」にパートも含まれる構成になっていれば、会社が意図していなかった支給問題が生じる可能性があります。

反対に、パート用の労働条件通知書には「賞与あり」と書いてあるのに、実際には何年も支給していない会社もあります。

書類同士の矛盾だけでなく、書類と実際の運用が一致しているかも重要です。

「寸志を払っているから大丈夫」とも限らない

正社員には基本給の2か月分、パートには一律1万円の寸志を支給している会社もあります。

パートにも何らかの金額を支払っているため、一見すると問題がないように思えるかもしれません。

しかし、重要なのは名称や金額の有無ではありません。

なぜ正社員は2か月分で、パートは1万円なのか。その違いを、賞与の目的と仕事の実態に基づいて説明できるかが問題です。

たとえば、正社員とパートの仕事内容や責任が大きく異なり、その違いを反映して算定方法を変えているのであれば、一定の説明はしやすくなります。

一方、仕事も責任もほぼ同じなのに、正社員は高額、パートは全員一律1万円という場合には、その差の理由を改めて検討する必要があります。

「ゼロでなければ大丈夫」という安全ラインがあるわけではありません。

令和8年10月1日までに再点検を

令和8年10月1日から、改正された同一労働同一賃金ガイドラインなどが適用されます。

厚生労働省は、パートタイム・有期雇用労働者の各種待遇について、改正ガイドラインに追加された内容に沿って点検し、必要に応じて見直すよう事業主に求めています。厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」

ここで経営者の方にお伝えしたいのは、慌ててパートにも正社員と同じ賞与を支給してください、ということではありません。

確認すべきことは、次の順番です。

  1. 賞与の支給目的を明確にする
  2. 正社員とパートの仕事内容を比べる
  3. 責任や配置変更の範囲を比べる
  4. その違いが賞与差と結びついているか確認する
  5. 就業規則や労働条件通知書を整える
  6. パートから質問されたときの説明を準備する

待遇差をなくす方法は、すべての人に同じ金額を支給することだけではありません。

職務内容や責任に応じた賞与制度を設ける方法もあります。パートにも勤務時間や評価結果に応じて賞与を支給する方法もあります。賞与の対象となるパートと対象外となるパートの基準を明確にする方法もあります。

会社の経営状況、業種、人員構成、賃金制度によって、適切な設計は変わります。

だからこそ、制度を変える前に現状を整理する必要があります。

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「自社の賞与制度をどこから確認すればよいかわからない」

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「就業規則と雇用契約書の内容が合っているか不安」

そのような経営者、人事担当者のために、「正社員・パート 賞与待遇差緊急診断シート」をご用意しました。

Excel形式で、次の内容を確認できます。

  • 賞与の支給目的が明確になっているか
  • 正社員とパートの仕事内容に違いがあるか
  • 責任や配置変更の範囲を説明できるか
  • 賞与差の理由が雇用区分だけになっていないか
  • 就業規則と労働条件通知書が一致しているか
  • 待遇差について説明する準備ができているか

20項目に「はい・いいえ・不明・該当なし」で回答すると、「要改善・要確認・概ね良好」が自動的に表示されます。

まずは、自社の説明が通用する状態になっているか確認してみてください。

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賞与を払う前に、賞与のルールを確認してください

賞与の支給時期が近づいてから制度を見直そうとしても、できることは限られます。

すでに査定期間が終わり、社員も「今年も賞与が出る」と期待している段階で、急に支給対象や計算方法を変更すれば、別のトラブルを生む可能性があります。

見直すなら、次の賞与の査定期間が始まる前が基本です。

そして、パートへの賞与支給を始めれば、すべて解決するわけでもありません。

誰を対象にするのか。何を評価するのか。勤務時間の違いをどう反映するのか。休職、欠勤、育児休業などをどう扱うのか。会社業績が悪化した場合はどうするのか。

こうしたルールを決めずに支給を始めると、翌年以降に会社を縛る可能性があります。

必要なのは、勢いで賞与を増やすことでも、パートを対象外にし続けることでもありません。

会社の賞与の目的と、社員の働き方に合った制度をつくることです。

オフィススギヤマでは、賞与だけを切り離して判断するのではなく、就業規則、賃金規程、人事評価制度、雇用契約書、正社員とパートの仕事内容などを確認しながら、会社が説明できる制度づくりを支援しています。

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賞与は、社員の頑張りに報いる大切な制度です。

しかし、説明できない賞与差は、社員のやる気を高めるどころか、不満や不信感を生む原因になります。

次の賞与を支給する前に、まずは「なぜ正社員だけなのか」を会社として説明できるか、確認してみてください。

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