個人事業主が法人化するなら株式会社?合同会社?法人の種類と選び方をわかりやすく解説

杉山 晃浩

「売上が増えてきたので、そろそろ法人化したほうがよいでしょうか」

「株式会社と合同会社では、どちらが得ですか」

「一般社団法人にすると、税金がかからないと聞いたのですが本当ですか」

個人事業主として事業が軌道に乗ってくると、一度は法人化を考えるのではないでしょうか。

ところが、法人には株式会社、合同会社、一般社団法人、NPO法人など、さまざまな種類があります。

医療、福祉、士業などでは、通常の会社とは異なる法人を検討しなければならない場合もあります。

選択肢が多いため、インターネットで調べるほど分からなくなってしまう人も少なくありません。

しかし、一般的な商売をしている個人事業主であれば、最初からすべての法人を比較する必要はありません。

まず考えるべきなのは、次の二つです。

  • そもそも、今の時点で法人化する必要があるのか
  • 法人化するなら、株式会社と合同会社のどちらが事業の将来像に合うのか

一般社団法人やNPO法人、医療法人、士業法人などは、目的や事業内容に特別な事情がある場合に検討します。

今回は、個人事業主が法人化するときの法人種類と選び方を、できるだけ分かりやすく解説します。

法人化は「節税できそう」だけで決めてはいけない

法人化を考えるきっかけとして多いのが、税金です。

「利益が○○万円を超えたら法人化したほうが得」

「法人にすれば経費を増やせる」

このような情報を見かけることがあります。

しかし、法人化が有利になる金額を、売上や利益だけで一律に決めることはできません。

法人化すると、個人事業とは異なる税金や費用が発生します。

会社から自分へ支払う役員報酬にもルールがあります。自分一人の会社であっても、会社のお金を生活費として自由に引き出してよいわけではありません。

また、株式会社や合同会社などの法人事業所は、原則として健康保険・厚生年金保険の適用事業所になります。役員や従業員の働き方、報酬などに応じて加入手続が必要です。

日本年金機構も、株式会社などの法人事業所は、事業主のみの場合を含めて強制適用事業所になると説明しています。日本年金機構「適用事業所と被保険者」

社会保険に加入することは、将来の年金や健康保険の保障が充実するという面があります。一方、会社と本人の両方に保険料負担が発生します。

税金だけが下がっても、社会保険料、税理士報酬、登記費用、決算申告費用などを含めると、手元に残るお金が増えない場合もあります。

法人化を考えるときは、「税金が安くなるか」ではなく、

法人化後に会社から出ていくお金と、法人化によって得られる信用・保障・成長機会を含めて判断する

ことが大切です。

法人化する目的を先に決める

法人の種類を選ぶ前に、「何のために法人化するのか」を整理しましょう。

例えば、次のような目的があります。

  • 法人でなければ契約できない取引先と仕事をしたい
  • 金融機関から事業資金を調達したい
  • 従業員を採用し、組織を大きくしたい
  • 家族や仲間と共同経営したい
  • 社会保険へ加入し、保障を充実させたい
  • 許認可が必要な事業を始めたい
  • 将来、子どもや従業員へ事業を承継したい
  • 会社を売却する可能性がある
  • 外部の投資家から出資を受けたい
  • 地域活動や社会貢献活動を法人として行いたい

信用を高めたい人と、家族だけで小さく経営したい人では、適する法人が違います。

将来、出資者を増やしたい人と、利益を構成員へ分配しない社会活動をしたい人も、同じ法人にはなりません。

法人の種類は、設立時の安さだけでなく、5年後、10年後にどのような事業にしたいかを考えて選ぶ必要があります。

株式会社が向いている個人事業主

一般的な法人として最も知られているのが株式会社です。

株式会社では、出資者を「株主」、経営を行う人を「取締役」と呼びます。

一人で出資し、自分一人が取締役になる株式会社も設立できます。

株式会社の大きな強みは、知名度が高く、取引先、金融機関、採用候補者などへ仕組みを説明しやすいことです。

「法人なら株式会社」という認識を持つ人も多いため、対外的な信用を重視する事業では有力な選択肢になります。

特に、次のような人は株式会社が向いています。

  • 取引先から株式会社であることを求められる
  • 今後、従業員を増やして組織を大きくしたい
  • 金融機関や投資家から資金を調達したい
  • 将来、株主や役員を増やしたい
  • 株式を使って事業承継や会社売却を行いたい
  • 将来的な上場も可能性として残したい

一方、株式会社には一定の手間と費用がかかります。

設立時には定款を作成し、原則として公証人の認証を受け、法務局で設立登記を行います。登録免許税は、資本金に一定の割合を掛けた金額で、最低額は15万円です。法務省「株式会社の設立手続」

また、役員の任期が満了したときには、同じ人が続ける場合でも役員変更登記が必要です。株主総会の開催や議事録の作成、決算公告など、株式会社として守るべきルールもあります。

設立しただけで信用が生まれるわけではありません。

設立後の手続を適切に続けられるかまで考える必要があります。

合同会社が向いている個人事業主

合同会社も、株式会社と同じく利益を得る事業を行うための会社です。

社員一人だけで設立することもできます。

ここでいう「社員」は従業員ではありません。合同会社へ出資し、会社を構成する人を意味します。

合同会社の特徴は、設立費用を抑えやすく、経営ルールを比較的柔軟に設計できることです。

株式会社のような公証人による定款認証は必要ありません。設立登記の登録免許税も最低6万円です。法務省「合同会社の設立手続」

次のような人には、合同会社が向いています。

  • 一人または家族で経営する
  • 少人数の信頼できる仲間と共同経営する
  • 設立費用や運営負担を抑えたい
  • 意思決定を早くしたい
  • 外部の投資家を集める予定はない
  • 株式上場を考えていない
  • 店舗、コンサルティング、IT、資産管理などの小規模事業を行う

合同会社では、出資割合と異なる利益配分を定款で定めるなど、株式会社より柔軟な設計が可能です。

ただし、自由度が高いからこそ、定款を適当に作ると後で困ります。

共同経営者が辞める場合、亡くなった場合、意見が対立した場合、利益をどのように分けるかなどを、設立前に決めておく必要があります。

また、株式会社と比べて合同会社という名称に馴染みがない取引先もあります。

合同会社だから信用がないわけではありませんが、自社の業界や取引先が法人形態をどの程度重視するかを確認したほうがよいでしょう。

株式会社と合同会社は、結局どちらがよいのか

株式会社と合同会社を比べるとき、設立費用だけで決めるのはおすすめできません。

次のように考えると分かりやすくなります。

株式会社が有力になる場合

  • 対外的な分かりやすさを重視する
  • 採用や資金調達を積極的に行う
  • 将来、出資者を増やす可能性がある
  • 事業承継や会社売却を考えている
  • 長期的に会社を成長させたい

合同会社が有力になる場合

  • 一人、家族、少人数で経営する
  • 外部投資家を入れる予定がない
  • 設立・運営コストを抑えたい
  • 意思決定の速さと柔軟性を重視する
  • 株式上場を考えていない

ただし、合同会社から株式会社へ組織変更することは可能です。

最初は合同会社で始め、事業が成長した段階で株式会社へ変更する方法も考えられます。

もちろん、変更にも手続と費用がかかります。最初から株式会社にしたほうがよい場合もあるため、将来像を踏まえて判断してください。

一般社団法人は「税金がかからない法人」ではない

業界団体、資格認定、研修、地域活動などを行う場合には、一般社団法人が候補になることがあります。

一般社団法人は、社員と呼ばれる構成員が集まり、共通の目的を実現するための法人です。

株式会社の株主にあたる出資者へ、利益を配当する仕組みではありません。

ここで注意したいのが、「非営利」という言葉です。

非営利法人とは、利益を出してはいけない法人ではありません。

商品やサービスを販売し、収益を得る事業を行うこともできます。

非営利とは、得た利益を構成員へ分配することを目的としないという意味です。

また、「一般社団法人なら税金がかからない」という説明も正確ではありません。

法人の定款、構成、事業内容などによって、税務上の非営利型法人に該当するか、どの所得に課税されるかが変わります。

個人事業の売上をそのまま一般社団法人へ移せば節税できる、といった単純な話ではありません。

一般社団法人が向いているのは、例えば次のような活動です。

  • 業界団体や経営者団体
  • 資格認定や検定事業
  • 会員向け研修や情報提供
  • 地域づくりや文化活動
  • 複数企業による共同事業
  • 同窓会や学術団体

個人が自分の利益を得るために商売を法人化するのであれば、まず株式会社か合同会社を検討するのが一般的です。

NPO法人は社会貢献活動のための法人

NPO法人は、特定非営利活動促進法に基づき、社会貢献活動などを行うための法人です。

設立には所轄庁の認証を受け、その後に登記を行う必要があります。

NPO法人も、収益を得てはいけない法人ではありません。

有料サービスを提供したり、物品を販売したりすることも可能です。

ただし、得た利益を社員と呼ばれる構成員へ分配することはできません。利益は法人の活動に使います。

NPO法人の設立には、10人以上の社員、理事3人以上、監事1人以上などの体制が必要です。

定款、役員名簿、設立趣旨書、事業計画書、活動予算書などを所轄庁へ提出し、認証を受けなければなりません。内閣府「NPO法人の認証制度について」

設立後も事業報告や情報公開が求められます。

次のような人は、NPO法人を検討する価値があります。

  • 地域課題や社会課題の解決を主な目的にする
  • 寄付や助成金を活動資金として重視する
  • 多くの会員や支援者と活動する
  • 利益を構成員へ分配する必要がない
  • 継続的な情報公開や行政手続に対応できる

「社会に役立つ事業だからNPO法人」というだけでは足りません。

利益分配、構成員、運営体制、報告義務などを理解したうえで選ぶ必要があります。

医療・福祉・士業では専門法人を先に確認する

事業内容によっては、株式会社や合同会社を自由に選べない場合があります。

例えば、次のような法人があります。

  • 医療法人
  • 社会福祉法人
  • 学校法人
  • 社会保険労務士法人
  • 行政書士法人
  • 税理士法人
  • 司法書士法人
  • 弁護士法人

これらは、それぞれの法律に基づく法人です。

資格者の人数、役員構成、事業目的、認可、届出、法人名称などに特別な条件があります。

許認可が必要な事業では、個人で受けていた許可を法人へそのまま移せるとは限りません。

建設業、運送業、介護事業、飲食業などでも、法人化に伴って新たな許可申請や変更手続が必要になる場合があります。

法人を設立してから「この法人では許可を取れない」と気づくと、時間も費用も無駄になります。

資格や許認可が関係する事業は、法人を作る前に行政書士や所轄庁へ確認してください。

法人化すると個人事業の契約が自動で移るわけではない

個人事業主と、新しく設立した法人は、法律上は別の存在です。

法人を作っただけで、個人事業の契約、預金、借入れ、許認可、リース、電話、賃貸借契約などが自動的に法人へ移るわけではありません。

取引先との契約を法人名義へ変更する。

法人口座を開設する。

個人所有の車両や設備を、法人へ売却または貸与する。

従業員との雇用契約を法人へ切り替える。

社会保険や労働保険の手続を行う。

このような作業が必要になります。

また、株式会社や合同会社では、原則として出資者の責任は出資額の範囲に限られますが、金融機関からの借入れで社長が個人保証をしている場合などは、個人として責任を負うことがあります。

「法人にすれば、すべての責任から解放される」ということでもありません。

法人化を急がないほうがよい場合もある

法人化にはメリットがありますが、早ければよいわけではありません。

次のような場合は、個人事業を続けながら準備する方法もあります。

  • 事業内容がまだ固まっていない
  • 売上や利益が安定していない
  • 法人の維持費を支払う余裕がない
  • 毎月の経理ができていない
  • 社会保険料の試算をしていない
  • 取引先が法人であることを求めていない
  • 許認可の確認ができていない
  • 共同経営者との役割や利益配分が決まっていない

法人化はゴールではありません。

法人を作った日から、法人としての経理、税務、社会保険、登記、契約管理が始まります。

設立の手続よりも、設立後にきちんと運営できるかのほうが重要です。

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法人の種類を選ぶためには、設立費用だけでなく、信用、採用、資金調達、共同経営、利益分配、社会保険、許認可、事業承継などを整理する必要があります。

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  • 法人化の準備度
  • 株式会社の適合度
  • 合同会社の適合度
  • 一般社団法人の適合度
  • NPO法人の適合度
  • 専門法人を確認する必要性
  • 次に専門家へ確認すべきこと

「今は法人化せず、個人事業を続けながら準備する」という判定もあります。

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診断結果だけで法人の種類を決めることはできません。

しかし、自分が法人へ何を求めているのか、専門家に何を相談すべきかを整理する材料になります。

法人化で最も大切なのは、どの法人が一番安いかではありません。

自分がこれから作りたい事業に、どの法人が一番合っているかです。

目先の節税だけで決めず、5年後、10年後の事業を想像しながら、自分に合った法人を選んでください。

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