休職期間満了で退職扱いにしたのに無効?就業規則を短縮した会社が敗訴した理由
杉山 晃浩
「休職期間が満了したので、就業規則どおり退職扱いにしました」
会社側としては、これで手続が完了したと思うかもしれません。
しかし、後になって退職扱いが無効と判断されると、会社は元従業員から労働契約上の地位確認や、退職扱い後の賃金を請求される可能性があります。
本人がすでに別の会社で働いていても、それだけで元の会社へ復職する意思を失ったとは限りません。
さらに恐ろしいのは、会社が労働基準監督署へ届け出た就業規則に従って手続を進めていても、その就業規則の変更自体が無効と判断される場合があることです。
今回取り上げる「一般財団法人高雄病院事件」では、病気欠勤から休職期間満了による退職扱いまでの期間を大幅に短縮した就業規則の変更が問題になりました。
京都地方裁判所は2025年10月2日、変更による労働者の不利益が大きい一方、そこまで大幅に短縮する必要性や相当性は認められないとして、新しい休職規定を元職員へ適用することを認めませんでした。
その結果、休職期間満了による退職扱いは無効と判断され、会社に賃金の支払いが命じられています。
これは、病院などの医療機関だけの問題ではありません。
就業規則の休職期間を短縮したい会社、長期欠勤している社員を抱えている会社、休職期間満了による退職を予定している会社にとって、非常に重要な裁判例です。
「就業規則に書いてあるから大丈夫」は危険
多くの就業規則には、次のような規定があります。
休職期間が満了しても復職できないときは、休職期間満了の日をもって退職とする。
このような規定そのものが、直ちに違法というわけではありません。
私傷病、つまり仕事以外の原因による病気やケガで長期間働けない場合に、会社が一定期間、解雇をせずに雇用関係を残して回復を待つのが休職制度です。
法律上、すべての会社に私傷病休職制度を設ける義務があるわけではありません。休職の条件、期間、復職の基準などは、会社の就業規則によって定められます。
しかし、一度就業規則に定められた休職制度は、労働者の労働条件になります。
会社が経営上の都合だけで、その内容を自由に悪くできるわけではありません。
「就業規則は会社が作ったものだから、会社の判断で変更できる」
「労働基準監督署へ変更届を出したから有効になった」
このように考えていると、大きな問題につながります。
労働基準監督署は、届け出られた就業規則のすべてについて、個々の労働者との関係で変更が有効かどうかを審査し、保証してくれる機関ではありません。
届け出が受理されたことと、裁判で変更の有効性が認められることは別の問題です。
高雄病院事件で、休職制度はどう変わったのか
この事件の使用者は、京都市内で病院を運営する一般財団法人でした。元職員は2018年3月に採用されています。
変更前の就業規則では、業務外の病気やケガで1年半以上欠勤したときに休職となり、業務外の疾病による休職期間は1年とされていました。
つまり、病気欠勤から休職期間満了まで、相当に長い療養期間が設けられていました。
ところが、変更後の就業規則では、休職に入るまでの欠勤期間が3カ月に短縮されました。
さらに、休職期間についても、3カ月を限度として病院が指定する期間に変更されました。
裁判所は、この変更について、業務外の疾病によって退職扱いとなるまでの期間を約10分の1に短縮するものだと評価しています。
多少の見直しではありません。
病気になった職員が回復し、職場へ戻るために与えられていた時間を、一気に短くする変更です。
労働者にとっては、療養の途中で雇用を失う可能性が大幅に高くなります。そのため、裁判所は不利益の程度が大きいと判断しました。
従業員の同意なしに労働条件を悪くできるのか
労働条件の変更は、会社と労働者の合意によって行うのが原則です。
労働契約法第9条は、会社が労働者と合意することなく、就業規則の変更によって労働条件を不利益に変更することはできないと定めています。
ただし、すべての従業員から個別の同意を得なければ、就業規則を変更できないという意味ではありません。
労働契約法第10条により、次の条件を満たす場合には、合意を得ていない労働者にも変更後の就業規則が適用される可能性があります。
- 変更後の就業規則を労働者へ周知している
- 就業規則の変更内容が合理的である
合理的かどうかは、主に次の事情から総合的に判断されます。
- 労働者が受ける不利益の程度
- 労働条件を変更する必要性
- 変更後の内容が相当か
- 労働組合や従業員代表との交渉状況
- 変更に至った経緯
- 不利益を軽くするための経過措置
- その他の事情
ここで大切なのは、「会社に変更する理由があったか」だけでは足りないことです。
会社の必要性と、労働者が受ける不利益を比べて、その変更が本当に合理的な範囲に収まっているかが問われます。
なぜ就業規則の変更が認められなかったのか
病院側にも、休職制度を見直したい事情はありました。
職員が長期間欠勤・休職すると、残った職員の負担が増えます。人員の補充や配置にも影響するため、休職制度を見直す必要性が全くなかったわけではありません。
裁判所も、長期間欠勤・休職する職員以外の負担を軽減するため、旧就業規則を変更する必要性が一定程度あったことは認めています。
しかし、問題は変更の大きさです。
一定の見直しが必要だからといって、退職扱いまでの期間を約10分の1に短縮することまで当然に認められるわけではありません。
病院側には、それほど大幅な短縮をしなければならない必要性や相当性が認められないと判断されました。
つまり、
見直す理由があることと、その見直し幅が合理的であることは別問題
なのです。
経営者が「今の休職期間は長すぎる」と感じることはあるでしょう。
しかし、半年短くするのか、1年短くするのか、従来の10分の1にするのかでは、労働者が受ける不利益が全く違います。
就業規則を変更するときは、会社が決めたい期間から考えるのではなく、変更によって労働者の雇用がどれだけ早く失われる可能性があるのかを数値で確認する必要があります。
説明会を開かず、具体的な説明もしていなかった
この事件では、就業規則の変更手続も問題となりました。
病院は部門長会議で、各部署の長に新しい就業規則案を配布し、職員へ周知して質問を募るよう依頼していました。
しかし、各部門の長に対して、具体的な改定内容を口頭で説明していませんでした。
職員全体を対象とする説明会も開催していません。
「案を配った」「質問があれば出すよう伝えた」という対応だけでは、職員が自分の労働条件にどのような不利益が生じるか、十分に理解できなかった可能性があります。
もちろん、就業規則を変更するたびに、必ず全社員向け説明会を開催しなければ無効になるという単純な話ではありません。
しかし、不利益が大きい変更ほど、会社には丁寧な説明と協議が求められます。
特に休職期間の短縮は、病気になった従業員の雇用継続に直接関わります。
- なぜ変更する必要があるのか
- 変更前と変更後で何が変わるのか
- 在職者にも新しい期間を適用するのか
- 現在休職中の人はどうなるのか
- 不利益を和らげる措置はあるのか
- 反対意見や質問にどう回答したのか
これらを説明し、記録として残しておく必要があります。
経過措置が会社を守ることもある
大きな不利益変更を行う場合には、経過措置が重要になります。
たとえば、次のような方法です。
- 新しい休職期間は新規採用者から適用する
- 現在在職中の社員には変更前の期間を残す
- 休職期間を数年かけて段階的に短縮する
- 勤続年数に応じて休職期間を設定する
- 現在休職中の社員には旧制度を適用する
- 回復の見込みがある場合の延長制度を設ける
会社の負担を減らしたいからといって、すべての従業員へ直ちに短い期間を適用すると、不利益が大きくなります。
経過措置は、従業員の不利益を和らげるだけではありません。就業規則変更の合理性を支える材料にもなります。
「ゼロか100か」で制度を変更するのではなく、会社の必要性と従業員の雇用上の利益を調整する設計が必要です。
新しい規定が有効でも、退職扱いが認められなかった可能性
この判決には、もう一つ重要な点があります。
裁判所は、仮に変更後の休職規定が元職員へ適用されるとしても、今回の退職扱いは無効になると判断しています。
元職員は2022年11月21日から欠勤するようになり、病院は2023年4月24日、休職期間を同年5月20日までとする通知書を交付しました。
期間満了日までに復職できない場合は、退職扱いにすることも通知しています。
その後、病院は「改めて話し合いの場を設ける」と記載した書面を元職員へ送りました。
ところが、実際には退職扱いとなるまで、話合いの場を設けませんでした。
また、元職員の傷病が復職できる状態にあるか確認したり、休職期間を延長したり、段階的に復職させたりすることも検討していませんでした。
満了日までに「復職可能」とする診断書が提出されなかったことから、病院は予定どおり退職扱いにしました。
しかし、裁判所は、後に職場復帰可能とする診断書が作成されたことなどを踏まえ、段階的に復職させる余地は十分にあったと判断しています。
つまり、就業規則に定めた日付が来たからといって、自動的・機械的に退職扱いにしてよいとは限らないのです。
休職満了前に会社が確認すべきこと
休職期間満了による退職を検討する場合、会社は少なくとも次の点を確認する必要があります。
本人に復職意思があるか
本人が職場へ戻りたいと考えているのか、面談などで確認します。
メールや書面だけで終わらせず、可能な限り本人と話し合い、その内容を記録します。
傷病はどこまで回復しているか
主治医の診断書を確認します。
ただし、「復職可能」と書かれているかどうかだけで判断するのではなく、どのような業務なら可能なのか、勤務時間、通勤、残業、夜勤などに制限があるのかも確認します。
必要に応じて、本人の同意を得たうえで主治医へ照会したり、産業医や会社指定医の意見を聞いたりします。
原職以外の仕事は可能か
休職前の仕事を完全にできなければ、必ず退職になるとは限りません。
雇用契約上、職種や勤務地が限定されているかを確認したうえで、現実に配置可能な他の業務がないか検討します。
会社に存在しない仕事を新しく作ることまで、常に求められるわけではありません。しかし、実際に空いている仕事や、従来から他の社員が担当している業務があるなら、検討せずに退職扱いへ進むのは危険です。
段階的な復職は可能か
最初から通常の勤務時間で、休職前と全く同じ仕事ができる人ばかりではありません。
- 短時間勤務
- 残業や夜勤の免除
- 一時的な業務軽減
- 試し出勤
- 通勤訓練
- 段階的な勤務時間の延長
こうした方法で復職できないかを確認します。
休職期間を延長する余地があるか
就業規則に延長規定がある場合は、その適用を検討します。
過去に他の社員へ延長を認めていたなら、今回だけ認めない理由も説明できなければなりません。
あと少しで復職できる見込みがあるにもかかわらず、満了日だけを理由に退職扱いにすると、判断の相当性を争われる可能性があります。
別の会社で働いていても、復職意思がないとは限らない
この事件では、元職員が退職扱い後に別の病院や老人ホームで働いていたことも問題になりました。
会社側から見ると、
「ほかの会社で働いて、同じくらいの給与を得ているのだから、うちへ戻るつもりはないだろう」
と考えたくなるかもしれません。
しかし、裁判所は、転職したことや、転職先で元の職場と同程度の賃金を得ていることだけでは、元の職場で働く意思を失ったとはいえないと判断しました。
仕事を選ぶ理由は、給与だけではないからです。
仕事内容、役職、勤務場所、勤務時間、家族との生活、職場環境など、さまざまな条件があります。
その後、元職員は転職先の老人ホームで施設長へ就任しました。
裁判所は、施設長の役割を引き受けた時点では、元の病院で働くことが現実的に困難な状態を自ら作ったとして、労務を提供する意思を失ったと判断しています。
会社にとっては、賃金の請求期間を考えるうえでも重要な判断です。
「転職した日で賃金請求が終わる」と単純に考えることはできません。
無効になると会社は何を請求されるのか
休職期間満了による退職扱いが無効になれば、労働契約は終了していなかったことになります。
その結果、会社は次のような請求を受ける可能性があります。
- 労働契約上の地位確認
- 退職扱い後の賃金
- 遅延損害金
- 賞与や手当
- 社会保険に関する対応
- 精神的損害などを理由とする損害賠償
- 訴訟費用や弁護士対応の負担
紛争が数年続けば、賃金請求額も大きくなる可能性があります。
社員1人を退職扱いにした問題が、経営に影響する金額へ膨らむこともあるのです。
だからこそ、退職通知を出す前の確認が重要です。
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- 休職期間を短縮する就業規則変更のリスク
- 休職期間満了で退職扱いにする際のリスク
主な確認項目は次のとおりです。
- 変更前後の不利益を数字で比較しているか
- 大幅に短縮する必要性を説明できるか
- 経過措置を検討したか
- 従業員へ具体的に説明したか
- 質問や反対意見への対応記録があるか
- 休職期間や復職基準が明確か
- 満了前に本人と面談したか
- 主治医や産業医等の意見を確認したか
- 他業務への復職を検討したか
- 短時間勤務や段階的復職を検討したか
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各項目について「はい」「一部」「いいえ」「該当なし」を選択すると、会社側のリスク点とリスク率が自動計算されます。
診断結果は、次の3段階で表示されます。
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休職期間を短くすること自体が悪いのではない
今回の判決から、
「休職期間は絶対に短くしてはいけない」
「一度決めた休職制度は永久に変更できない」
と考える必要はありません。
会社の規模、業種、人員配置、代替要員の確保、休職中の負担などを考えれば、休職制度の見直しが必要になることはあります。
問題は、長い期間を一気に短くし、その不利益や必要性を十分に検討しないことです。
そして、変更後の規定だけを見て、復職の可能性を個別に確認せず、機械的に退職扱いにすることです。
就業規則は、社員を辞めさせるためのスイッチではありません。
会社と社員の権利・義務を整理し、問題が起きたときの判断手順を示すものです。
特に休職制度は、病気やケガで弱い立場にある社員の雇用に直接関わります。会社側には、慎重な判断と丁寧な手続が求められます。
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