2025年6月分 人事労務クイズ~労働保険料の年度更新について~
問題 ∼ 労働保険料の年度更新について ∼
退職後の健康保険について、出向者がいる場合、労災保険料の「賃金支払総額」に含めるべきなのは、どちらの事業主でしょうか?
答え
【A】 出向元(賃金を支払っている会社)
【B】 出向先(実際に働いている会社)
【C】 双方で折半する
【B】 出向先(実際に働いている会社)
出向者がいる場合の労働保険料の取り扱いは、「労災保険」と「雇用保険」で判断基準が異なるため、正確な理解が求められます。
■ 労災保険の考え方
労災保険は、労働者が業務中または通勤中に被った災害に対して補償する制度です。
この制度では、業務の危険性(業種)に応じて保険料率が定められているため、「どのような作業を、どこで行っているか」が、保険料算定における重要な判断基準となります。
そのため、出向者については、実際に業務に従事している出向先の事業主が、その出向者にかかる賃金を、労災保険料の「賃金支払総額」に含める必要があります。
この取扱いは、昭和63年3月14日 基発第150号通達でも明確に示されています。
■ なぜ「賃金負担者」ではなく「就労場所」が基準となるのか?
労災保険は、業務災害のリスクに応じて保険料を負担する仕組みです。実際に労働を行う場所の業種により、保険料率が大きく異なります(例:建設業と事務職では数倍の差)。
したがって、出向元が事務職中心の会社であっても、出向先が危険な現場作業を行っている場合には、リスクに見合った料率で保険料を負担する必要があるのです。
➡ このような理由から、実際の就労先である「出向先の事業場」を基準に算入するのが合理的とされています。
■ 雇用保険との違い
一方、雇用保険は、雇用関係に基づく制度です。
そのため、実際に賃金を支払っている事業主(通常は出向元)が、出向者の賃金を雇用保険料の算定基礎として申告します。
このように、労災保険は 「働く場所=出向先」、雇用保険は 「賃金負担者=出向元」と、算入の基準が異なる点に注意が必要です。
■ 実務上の注意点
出向契約で「賃金の負担者」および「就労場所」を明確に定めておくこと
労災保険と雇用保険で算入基準が異なることを理解したうえで、正確に申告すること
出向者に関する名簿や契約内容を整理し、年度更新時の記載漏れや二重計上を防止すること
出向者の取扱いは、見落とされがちでミスが発生しやすい領域です。
特に、労働保険の年度更新と社会保険の算定基礎届が重なるこの時期は、事前の確認と正確な処理が大切です。