2025年11月分 人事労務クイズ~パワハラの定義と業務指導の線引き~

問題  ∼ パワハラの定義と業務指導の線引き ∼

厚労省が示すパワーハラスメントの典型的な行為類型に直接は該当しないのはどれでしょうか?

答え

【A】 ヒマな仕事ばかりさせる

【B】 正当な業務指導

【C】 無視や仲間はずれ

【B】 正当な業務指導

1. パワーハラスメントの3要素の定義
パワーハラスメントとは、以下の3つの要素をすべて満たすものとして、法律(労働施策総合推進法)で定義されています。
 ●優越的な関係を背景とした言動であること
 ●業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動であること
 ●労働者の就業環境が害されること

正解のB. 正当な業務指導は、この定義における「業務上必要かつ相当な範囲」の言動にあたるため、パワハラには該当しません。

2. パワハラと指導の線引き
パワハラと業務指導の最も重要な違いは、行為が「業務上必要かつ相当な範囲」を超えているか否かです。

  行為業務指導(OKライン) パワハラ(NGライン)
目的 チーム目標達成や部下の成長・育成 嫌がらせ、罰、私的な感情の発散
強度 失敗を指摘するが、人格を否定しない 失敗とは無関係に人格を否定する暴言
方法 公平に、業務時間・場所を配慮する 人前で長時間にわたり執拗に叱責する

3. 厚労省が示す「6つの行為類型」
選択肢AとCは、厚生労働省の指針で示されているパワハラの典型的な6つの行為類型に含まれます。

行為の類型
(指針の表現)
該当する選択肢 具体的な行為のポイント
過小な要求 A. ヒマな仕事ばかりさせる 業務上の合理性なく、能力・経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、または仕事を与えないこと。
人間関係からの切り離し C. 無視や仲間はずれ 自身の意に沿わない社員を隔離する、または集団で無視するなど、孤立させること。
その他 過大な要求
精神的な攻撃
身体的な攻撃
個の侵害
 

4. 実務上のポイント:担当者がすべきこと
■パワハラが発生した場合のリスク
1.民事上の責任: 会社は安全配慮義務違反として、損害賠償責任を負う可能性があります。
2.行政上の措置: 会社にはパワハラ防止措置(相談窓口設置など)が義務付けられており、違反すると勧告・公表の対象となる可能性があります。
3.企業イメージの低下: 離職率の上昇、採用活動への悪影響など、間接的な損害も大きくなります。

■担当者が取るべき対策
1.トップメッセージの発信: 経営層がパワハラ防止の姿勢を明確に示し、周知徹底すること。
2.研修の実施: 全従業員、特に管理職に対し、「指導とパワハラの線引き」をテーマとした定期的な研修を実施する。
3.相談窓口の周知: 安心して相談できる窓口を設置し、相談者のプライバシー保護を徹底する。
4.事実関係の迅速な確認: 相談があった場合、迅速かつ公平に事実関係を調査し、被害者・行為者の双方に適切な対応(処分や再発防止策)を行う。

まとめ
パワハラは業務指導の範疇を超えた「不相当な」言動です。労務担当者は、単に「ヒマな仕事」や「無視」がNGと覚えるだけでなく、なぜそれがパワハラとなるのかという定義の根本(業務上の必要性と相当性)を理解し、社内体制の整備・啓発を継続することが重要です。