看護職や介護職の人事評価制度がうまく機能しないのはなぜか?

杉山 晃浩

看護職や介護職の評価制度がうまく運用されない理由には、複数の要因が複雑に絡み合っています。その結果、評価制度は形骸化し、職員のモチベーション向上や法人の売り上げ向上に寄与しないことが多いです。ここでは、その主な要因について考察します。

まず第一に、評価基準の曖昧さが挙げられます。看護職や介護職の業務は多岐にわたり、その質を評価するのは容易ではありません。評価基準が明確でなければ、評価者ごとに基準が異なり、公平な評価が難しくなります。例えば、患者ケアの質を評価する際に具体的なKPIや行動基準が定められていないと、評価が主観的になりがちです。このような曖昧な評価基準では、職員が何を目指して努力すべきかが分からず、評価制度自体の信頼性が損なわれます。

次に、考課者訓練の不足が大きな問題です。多くの施設では、評価者となる上司が適切な評価方法やフィードバックの仕方についての訓練を受けていません。そのため、評価が上司の主観や好き嫌いに左右されることが多く、不公平な評価が生じやすくなります。考課者が公正かつ客観的に評価を行うためには、適切な訓練が不可欠です。考課者訓練を通じて、評価基準の理解や評価方法のスキルを身につけることで、公正な評価が可能となります。

さらに、評価と報酬の連動が不十分であることも問題です。看護職や介護職の評価制度が、報酬やキャリアパスに十分に反映されていない場合、高い評価を受けても報酬や昇進に結びつかないため、職員のモチベーションが低下します。評価制度が単なる業績査定にとどまらず、職員の成長やスキル向上を促すものであることを明確にする必要があります。具体的には、高い評価を受けた職員には報酬の増額や昇進の機会を提供し、努力が報われる仕組みを構築することが重要です。

また、組織文化の影響も無視できません。評価制度がうまく機能するためには、組織全体の文化や風土が大きく影響します。評価の透明性や公正さを保つためには、上司と部下の信頼関係や、評価が職員の成長や改善に寄与するという意識が必要です。しかし、多くの施設ではこれが十分に構築されていないことが多いです。組織全体で評価の重要性を共有し、職員が安心して評価を受けられる環境を整えることが求められます。

さらに、業務量の多さと人手不足も大きな課題です。看護職や介護職は日常業務が非常に多忙であり、人手不足が常態化しています。そのため、評価のための時間やリソースが十分に確保されていないことがあります。業務に追われる中での評価はどうしても形骸化しがちであり、評価制度が機能しなくなる要因となります。適切な人員配置や業務の効率化を図ることで、評価に必要な時間を確保することが重要です。

また、評価のフィードバックが不十分であることも問題です。評価を行った後のフィードバックが不十分であれば、職員は自身の評価結果を理解し改善する機会を失います。評価結果をもとに、職員がどのように改善すればよいのか、具体的なアドバイスが提供されなければ、評価は単なる査定に終わってしまいます。フィードバックが適切に行われることで、職員は自身の課題を認識し、成長のための具体的な行動を取ることができます。

最後に、評価の目的が不明確であることも指摘されます。評価制度の目的が曖昧であると、職員は何を目指して努力すべきか分かりません。評価制度が単に業績査定のためだけでなく、職員の成長やスキル向上を促すためのものであることを明確にする必要があります。評価の目的を明確にし、職員がその目的に沿って努力できるようにすることで、評価制度の効果を最大化することができます。

以上のように、看護職や介護職の評価制度がうまく運用されない理由は多岐にわたります。評価制度を改善するためには、明確な評価基準の設定、考課者訓練の充実、評価と報酬の連動、組織文化の見直し、フィードバックの強化などが必要です。これらの取り組みを通じて、公正で信頼性のある評価制度を構築し、職員のモチベーション向上や法人の発展に寄与することが求められます。

そこでオフィススギヤマでは、看護職、介護職、事務職について、評価項目となり得る事項を各10個考えてみました。

①看護職
患者ケアの質:患者に対するケアの質や思いやりのある対応
医療知識の深さ:専門知識や技術の習得・更新度
応急処置能力:緊急時の対応力や迅速な処置
コミュニケーション能力:患者、家族、他スタッフとの円滑なコミュニケーション
チームワーク:他の医療スタッフと協力して働く能力
文書管理:適切な患者記録の管理と報告
感染対策:感染防止策の実施と徹底
教育・指導力:後輩や学生への教育・指導能力
患者満足度:患者や家族からのフィードバックや評価
勤務態度:出勤率、業務遂行態度、自己研鑽への取り組み

②介護職
利用者ケアの質:利用者への日常ケアの質
介護技術の習熟度:基本的な介護技術の習得度
利用者とのコミュニケーション:利用者との信頼関係の構築
安全管理:転倒や事故防止への取り組み
業務の効率化:時間管理や業務遂行の効率
家族との連携:利用者家族との連絡調整や対応
介護記録の正確性:介護記録の正確な作成と管理
チームワーク:他のスタッフとの協力や情報共有
問題解決能力:利用者や業務上の問題への対応力
自己研鑽:介護技術や知識の向上への取り組み

③事務職
業務の正確性:データ入力や書類作成の正確さ
業務の効率化:業務プロセスの効率化や改善提案
コミュニケーション能力:他のスタッフや外部との連絡調整
顧客対応:来客や電話対応の質
スケジュール管理:施設やスタッフのスケジュール調整能力
文書管理:各種書類の整理、保管、管理
問題解決能力:突発的な問題への迅速な対応
システム利用:ITシステムやソフトウェアの適切な利用
報告・連絡・相談:必要な情報の報告、連絡、相談の徹底
業務態度:出勤率、業務遂行態度、自己研鑽への取り組み

これらの評価項目を基に、職種ごとに具体的な評価基準や目標を設定することで、適切な人事評価が行えるようになるでしょう。
しかしながらこれだけでは判断が付かないなんて声も出てきそうですよね。そこでKPIを設定するとどうなるのか考えてみました。KPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)は、看護職や介護職の人事評価において非常に重要な役割を果たします。
以下に、KPIが必要な理由とその役割について説明します。

◆KPIが必要な理由◆
評価の客観性と公正性を確保
KPIを設定することで、評価基準が明確になり、評価が主観的な判断に左右されにくくなります。これにより、全ての職員が同じ基準で評価されるため、公正で透明性の高い評価が可能となります。

目標設定とモチベーション向上
KPIは具体的な目標を示すため、職員は何を目指して努力すればよいかが明確になります。明確な目標があることで、職員は自己のパフォーマンスを向上させるための具体的な行動を取りやすくなり、モチベーションが高まります。

業績の可視化
KPIを設定することで、業務の進捗や成果を定量的に把握することができます。これにより、職員の業績が可視化され、組織全体のパフォーマンス向上にもつながります。

評価結果のフィードバック
KPIを用いることで、評価結果を具体的なデータとしてフィードバックすることができます。職員は自身の強みや改善点を明確に把握できるため、自己成長やスキル向上に役立てることができます。

継続的な改善と成長
KPIは定期的に見直し、更新することが重要です。これにより、職員や組織全体が常に最新の基準に基づいてパフォーマンスを評価され、継続的な改善と成長を促すことができます。

◆KPIが果たす役割◆

基準の明確化
KPIは、職員が達成すべき基準を明確に示します。これにより、評価基準が曖昧であることによる混乱を防ぎ、全ての職員が同じ目標に向かって努力することができます。

パフォーマンスの測定
KPIは、職員のパフォーマンスを定量的に測定するツールとして機能します。具体的な数値や指標に基づいて評価することで、業務の成果を客観的に評価することができます。

業務の改善
KPIを活用することで、業務プロセスの効率化や改善点を特定することができます。定量的なデータに基づく評価は、業務のボトルネックを発見し、改善策を講じるための重要な手がかりとなります。

コミュニケーションの促進
KPIは、上司と職員の間でのコミュニケーションを円滑にする役割も果たします。評価基準や目標が明確であることで、評価結果に基づくフィードバックが具体的かつ建設的なものになりやすくなります。

組織全体の目標達成
個々の職員のKPIは、組織全体の目標達成にも寄与します。各職員が自身のKPIを達成することで、組織全体の業績が向上し、最終的な目標達成に繋がります。

いかがでしたか。
KPIは看護職や介護職の人事評価において、評価の客観性と公正性を確保し、職員の目標設定やモチベーション向上、業績の可視化、フィードバックの具体化、継続的な改善と成長を促進するために重要です。KPIを効果的に活用することで、職員のパフォーマンスを向上させ、組織全体の目標達成を支援することが可能になります。

それでは次に、評価項目をKPIを使って可視化してみましょう。
例えば、看護職における「患者ケアの質」について、具体的なKPI(重要業績評価指標)や定量的な行動を示す基準を以下のように設定することが考えられます。

患者ケアの質に関する具体的なKPIと行動基準

  1. 患者満足度調査結果

    • KPI: 患者満足度調査のスコア(例えば、80%以上の満足度を達成)
    • 基準: 毎月、患者またはその家族に対して満足度アンケートを実施し、全体の80%以上が「満足」または「非常に満足」と回答する。
  2. ケアプランの適切な実行

    • KPI: ケアプランの達成率(例えば、90%以上の実行率)
    • 基準: ケアプランに定められた処置や対応を90%以上確実に実行し、記録に残す。
  3. フォローアップの回数

    • KPI: 定期的なフォローアップの実施回数(例えば、月に4回以上のフォローアップ)
    • 基準: 入院患者に対して週に1回以上のフォローアップを実施し、必要なケアの見直しや改善を行う。
  4. 再入院率の低減

    • KPI: 退院後30日以内の再入院率(例えば、再入院率を5%未満に抑える)
    • 基準: 退院後の患者に対して適切な指導やフォローアップを行い、再入院を防止するためのケアを提供する。
  5. 患者とのコミュニケーション時間

    • KPI: 1日における患者との直接対話時間(例えば、1人当たり15分以上)
    • 基準: 1日に患者一人ひとりと少なくとも15分以上の対話時間を確保し、ニーズや要望を聞き取る。
  6. 患者の転倒・事故防止

    • KPI: 転倒・事故の発生件数(例えば、月に0件)
    • 基準: 患者の転倒や事故が月に0件となるように、環境整備や見守りを徹底する。
  7. ケアの記録と報告の正確性

    • KPI: ケア記録の記載漏れや誤記載の件数(例えば、月に0件)
    • 基準: 毎日のケア内容を正確に記録し、月に1度も記載漏れや誤記載がないようにする。
  8. 家族からのフィードバック

    • KPI: 家族からのポジティブなフィードバック件数(例えば、月に5件以上)
    • 基準: 家族からの感謝や満足の声を月に5件以上得るために、積極的にコミュニケーションを図る。
  9. ケアの時間厳守

    • KPI: ケアプランに基づいたケアの実施時間の厳守率(例えば、95%以上)
    • 基準: ケアプランに基づき、予定された時間通りにケアを実施する率を95%以上に保つ。
  10. 感染予防策の実施

    • KPI: 感染予防策の遵守率(例えば、100%遵守)
    • 基準: 手洗いや消毒などの感染予防策を100%実施し、感染症の発生を防ぐ。


いかがですか。
少しイメージしやすくなりましたか?具体的には『患者ケアの質』を分解することにより、KPIの基準を探していくこととなります。なお、杉山事務所は医療機関ではないため、これが正解ではありません。100の医療機関や介護施設があれば、それぞれの経営や事業に対する考え方で内容は大きく変わります。

さらに、1.患者満足度調査結果について、アンケートシートも作りました。
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