失敗しない企業型DC導入マニュアル2
杉山 晃浩
2. ケーススタディ:こんなトラブルが起こっています
選択制企業型DCは、適切な設計と運用がなされれば、企業と従業員双方に大きなメリットをもたらす制度です。しかし、専門知識を持たない者が安易に関与することで、様々なトラブルが発生しています。ここでは、具体的なケーススタディを通して、その実態を見ていきましょう。
ケース1:保険募集人による導入事例:制度設計の落とし穴
ある中小企業では、保険募集人の勧めで選択制企業型DCを導入しました。保険募集人は、税制優遇のメリットを強調し、従業員の福利厚生向上に繋がると説明しました。しかし、制度設計の段階で、就業規則や給与体系との整合性が十分に考慮されていませんでした。
具体的には、選択制DCの導入により、従業員の給与体系が複雑化し、時間外手当の計算方法が不明確になりました。また、社会保険料や税金への影響についても、従業員への説明が不足しており、制度導入後に多くの従業員が不利益を被っていることに気づきました。
例えば、給与の一部をDCの掛金にすることで、社会保険料が減少し、将来の年金受給額が減少する可能性がありましたが、この点が十分に説明されていませんでした。結果として、従業員からの不満が噴出し、企業は制度の見直しを余儀なくされました。
ケース2:銀行担当者による導入事例:手続きの煩雑さと情報提供の不足
別の企業では、取引銀行の担当者から選択制企業型DCの導入を提案されました。銀行担当者は、制度の導入手続きを代行し、運用商品の選定もサポートすると約束しました。しかし、銀行担当者は、従業員に対する継続的な投資教育をほとんど行いませんでした。
そのため、多くの従業員は、運用商品の選択やリスク管理に関する知識を持たないまま、制度に参加することになりました。また、退職時や転職時の手続きについても、従業員への情報提供が不足しており、多くの従業員が手続きの煩雑さに戸惑いました。
例えば、退職した従業員がDCの資産を移換する際、必要な書類や手続きが分からず、銀行に何度も問い合わせる必要がありました。また、コールセンターもなかなかつながらず、従業員の不満は高まりました。
さらに、銀行担当者は、運用状況に関する情報提供も怠っており、従業員は自身の資産がどのように運用されているのかを把握できませんでした。情報提供、コミュニケーション不足により、従業員の制度への不信感が募り、企業は従業員からの苦情対応に追われることになりました。
ケース3:税理士による導入事例:制度運営・管理の落とし穴
ある企業では、顧問税理士の勧めで選択制企業型DCを導入しました。税理士は、税務の専門家として、制度の税制上のメリットを強調しました。しかし、税理士は、制度運営に関する法令や規制についての知識が十分ではありませんでした。
例えば、DCの運用商品は、法令で定められた範囲内で選定する必要がありますが、税理士は、その制限を十分に理解しておらず、不適切な商品を選定してしまいました。その結果、従業員の資産がリスクの高い商品に集中し、損失を被る可能性が高まりました。
また、税理士は、DCの加入者情報の管理体制も十分に整備していませんでした。その結果、情報漏洩や不正アクセスのリスクが高まり、従業員からの不安の声が上がりました。
さらに、税理士は、制度の運営状況を定期的にチェックせず、問題が発生しても迅速に対応しませんでした。その結果、問題が深刻化し、企業は制度の見直しを余儀なくされました。
これらのケーススタディから分かるように、選択制企業型DCの導入と運用には、税制、社会保険、労働法、投資など、幅広い専門知識が必要です。これらの知識を持たない者が安易に関与することで、従業員に不利益をもたらし、企業の信頼を損なう可能性があります。