失敗しない企業型DC導入マニュアル3

杉山 晃浩

3. トラブルの原因を徹底分析:なぜ社労士以外では難しいのか?

前章で見てきたように、選択制企業型DCの導入・運用には、専門知識が不可欠です。では、なぜ社労士以外の専門家が関わるとトラブルが起こりやすいのでしょうか。その原因を徹底的に分析してみましょう。

社会保険、労働法、税務、年金制度など、幅広い知識の必要性

選択制企業型DCは、一見するとシンプルな制度に見えますが、その背景には、社会保険、労働法、税務、年金制度など、多岐にわたる複雑な知識が絡み合っています。例えば、掛金の設定一つを取っても、社会保険料や税金への影響、従業員の給与体系との整合性などを考慮する必要があります。これらの知識は、それぞれの専門家が持つ知識だけではカバーしきれません。

社労士は、労働法や社会保険に関する専門家であり、従業員の雇用や社会保障に関する幅広い知識を持っています。税理士は、税務に関する専門家であり、税制上のメリット・デメリットを的確に判断できます。しかし、これらの専門家も、互いの専門分野については必ずしも精通しているわけではありません。選択制企業型DCの導入・運用には、これらの知識を総合的に判断し、従業員にとって最適な制度を設計する能力が求められます。

従業員のライフプランやリスク許容度を考慮した制度設計の重要性

選択制企業型DCは、従業員の老後資金形成を支援する制度です。そのため、制度設計においては、従業員一人ひとりのライフプランやリスク許容度を十分に考慮する必要があります。しかし、社労士以外の専門家は、従業員の個人的な事情を把握する機会が少なく、画一的な制度設計になりがちです。

例えば、リスク許容度の高い従業員には、株式投資の割合を高めた運用商品を選択肢に入れることが考えられます。一方、リスク許容度の低い従業員には、元本確保型の商品を中心とした運用プランを提案する必要があります。従業員の年齢、家族構成、収入、将来設計などを考慮し、きめ細やかな制度設計を行うことが、選択制企業型DCを成功させる鍵となります。

継続的な情報提供と従業員教育の必要性

選択制企業型DCは、従業員が主体的に運用を行う制度です。そのため、従業員が適切な運用判断を下せるよう、継続的な情報提供と投資教育が欠かせません。しかし、社労士以外の専門家は、制度導入後のフォローアップを怠りがちで、従業員は情報不足や知識不足に悩まされることがあります。

例えば、運用商品の見直し時期や、リスク管理の方法など、従業員が知りたい情報は多岐にわたります。これらの情報提供を怠ると、従業員は不安を感じ、制度への不信感を抱く可能性があります。また、投資教育の機会を十分に提供しないと、従業員は適切な運用判断ができず、損失を被るリスクが高まります。

しかしながら、社労士は労働法や社会保険のエキスパートではあっても、投資教育のプロではありません。したがって、投資教育は、中立的な立場でアドバイスができるファイナンシャルプランナー(FP)に依頼するのが良いでしょう。FPの中でも、特定の金融商品を強引に勧めるのではなく、従業員一人ひとりの状況に合わせて、きめ細かいアドバイスができる人材を選ぶことが重要です。

制度運営・管理における専門性と責任の所在

選択制企業型DCの運営・管理には、専門的な知識と経験、そして責任感が求められます。しかし、社労士以外の専門家は、制度運営・管理に関する知識や経験が不足している場合があり、責任の所在も曖昧になりがちです。

例えば、制度運営に関する法令や規制の変更があった場合、迅速かつ適切に対応する必要があります。また、従業員の個人情報や運用状況などの機密情報を厳重に管理し、情報漏洩や不正アクセスを防ぐ必要があります。これらの業務を適切に行うには、専門的な知識と経験、そして責任感が不可欠です。

このように、選択制企業型DCの導入・運用には、幅広い知識、きめ細やかな制度設計、継続的な情報提供、専門的な運営・管理が求められます。これらの要件を満たすには、社労士をはじめとする専門家との連携が不可欠であり、それぞれの専門家が持つ知識や経験を最大限に活かすことが重要です。

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