【就業規則「ある」デメリットと「ない」デメリット】人事・経営者のためのリスク管理3

杉山 晃浩

前回のブログでは、就業規則が「ある」場合のデメリットと、就業規則が「ない」場合に企業が直面する深刻なデメリットについて解説しました。就業規則がないことのリスクは非常に大きいことをご理解いただけたかと思います。

今回は、就業規則が「ない」場合に、ごく限られた状況下で考えられるメリットと、それらを考慮した上で、人事・経営者が取るべき最も賢明な選択について深く掘り下げていきます。

第4章:就業規則が「ない」場合の(限定的な)メリット

一般的に、就業規則がないことはデメリットの方が圧倒的に大きいと言えます。しかし、ごく限られた状況下においては、一時的に、あるいは表面的なメリットと捉えられる側面も存在します。

4-1. 作成・改定の手間とコストの削減(一時的)

就業規則を作成するには、専門知識の習得や情報収集、従業員との意見交換、書面作成など、多くの時間と労力がかかります。また、法改正や事業内容の変更に合わせて定期的に見直し、改定する必要もあります。就業規則がない場合、これらの一連の手間とコストを一時的に削減することができます。

  • 初期段階における事務手続きや費用負担の軽減: 新規設立したばかりの小規模な企業など、リソースが限られている場合、就業規則の作成を後回しにすることで、初期段階における事務手続きや、専門家への依頼費用などの負担を軽減できるかもしれません。
  • ただし、長期的な視点で見るとリスク増大につながる可能性を強調: しかし、これはあくまで一時的なメリットに過ぎません。就業規則がないことによる労務トラブルの発生や、組織運営の混乱といったリスクは、長期的に見ると、就業規則の作成にかかるコストをはるかに上回る可能性があります。将来的なリスクを考慮すれば、安易に作成を先延ばしにすることは賢明とは言えません。

4-2. 柔軟な対応の可能性(リスクと隣り合わせ)

明確な就業規則がない場合、状況に応じて臨機応変な対応がしやすいと捉えられることがあります。

  • 状況に応じた臨機応変な対応の例(ただし、恣意的な運用との線引きの難しさを指摘): 例えば、急な業務量の変化や、従業員の個別の事情に対して、既存のルールに縛られずに柔軟に対応できると考えるかもしれません。
  • 口頭での指示や個別合意の限界と潜在的なトラブルリスク: しかし、明確なルールがない状態での口頭指示や個別合意は、言った言わないのトラブルに発展しやすく、従業員間で不公平感を生む可能性があります。恣意的な運用は、従業員の不満を増大させ、労務トラブルのリスクを大きく高めます。ルールがないことによる「柔軟性」は、裏を返せば「恣意性」や「不公平感」に繋がりやすく、非常に危険な側面を孕んでいます。

第5章:人事・経営者が取るべき賢明な選択とは

前述のメリット・デメリットを踏まえ、人事・経営者が取るべき最も賢明な選択は、自社の状況に合わせた適切な就業規則を作成し、運用することに他なりません。一時的な手間やコストを惜しむあまり、将来的に大きなリスクを抱え込むことは避けるべきです。

  • 就業規則の作成・見直しの重要性の再認識(メリットとデメリットを踏まえて): 就業規則は、労務トラブルの予防、組織運営の安定化、従業員のモチベーション向上、法令遵守、採用活動の優位性など、多くのメリットをもたらします。デメリットや注意点も理解した上で、その重要性を改めて認識する必要があります。
  • 自社の規模や業種、企業文化に合った就業規則の検討ポイント(雛形利用の注意点、オーダーメイドの必要性): インターネット上には様々な就業規則の雛形が存在しますが、安易に流用するのではなく、自社の規模、業種、事業内容、そして企業文化に合った内容にカスタマイズすることが重要です。必要に応じて、専門家(社会保険労務士など)に相談し、オーダーメイドの就業規則を作成することも検討しましょう。
  • 専門家(社労士など)への相談のメリット(法的なアドバイス、最新情報の提供、作成・改定のサポート): 社会保険労務士は、労働関連法規の専門家であり、最新の情報や実務的なアドバイスを提供してくれます。就業規則の作成や改定だけでなく、労務管理全般に関するサポートを受けることで、法令遵守とリスク管理を両立させることができます。
  • 従業員とのコミュニケーションの重要性(意見聴取、説明会の実施、透明性の確保): 就業規則を作成・改定する際には、従業員の意見を十分に聴取し、内容について丁寧に説明することが重要です。透明性の高いプロセスを経ることで、従業員の理解と協力を得やすくなり、就業規則の実効性を高めることができます。
  • 就業規則を「守る」だけでなく「活かす」意識(定期的な見直し、柔軟な運用、従業員への浸透): 就業規則は作成して終わりではありません。社会情勢や企業の変化に合わせて定期的に見直し、必要に応じて改定していく必要があります。また、杓子定規な運用ではなく、個々の状況に配慮した柔軟な運用を心がけ、従業員一人ひとりに就業規則の内容がしっかりと浸透するよう、継続的な周知活動を行うことが重要です。

まとめ:就業規則は企業の成長と安定を支える重要な基盤

3回にわたるブログを通して、就業規則の「ある」「なし」が企業に与える影響について詳しく解説してきました。就業規則がないことによる一時的なメリットはごくわずかであり、それに見合うリスクは計り知れません。

就業規則は、単なる社内ルールブックではなく、労使間の信頼関係を築き、健全な組織運営を実現し、企業の持続的な成長と安定を支えるための重要な基盤です。

今一度、あなたの会社の就業規則の状況を見直し、必要であれば専門家のサポートを受けながら、自社にとって最適な就業規則を整備・運用していくことを強くお勧めします。未来を見据えた賢明な選択が、企業のさらなる発展へと繋がるはずです。

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