もう繰り返さないために:高齢社員の労災と向き合う企業の対応策

杉山 晃浩

はじめに

高齢社員による労災事故――。
それは、もはや特別な出来事ではなくなってきました。高年齢者雇用安定法の改正により、企業は70歳までの就業機会確保が努力義務となり、多くの職場で65歳を超えて働く社員が増えています。

経験豊富で、職場の中心的な存在でもある高齢社員。しかし一方で、身体的な変化や反射能力の低下から、労災リスクが高まる傾向にあるのも事実です。

この記事では、労災を繰り返した高齢社員との向き合い方を、実務的な視点でご紹介します。


第1章:重大な労災事故を繰り返す高齢社員──そのとき会社はどうすべきか?

ある会社で67歳の社員が現場作業中に転倒し、足を骨折する労災事故が発生しました。実はこの社員、数年前にも似たような事故を経験しており、今回が「2度目」の重大な事故でした。

本人は退院後、「体も元気になったし、また前の仕事に戻りたい」と希望しています。しかし経営者は、「次に同じような事故が起きたら、命に関わるのでは…」という不安を拭えません。

加えて、この職場には軽微な代替業務がほとんどなく、「配置転換」も簡単にはできません。安全配慮義務の観点からも、このまま元の業務に戻すのはリスクが高い――。現場は深刻なジレンマに陥っていました。


第2章:再発防止のカギは“本人の自覚”にあり

労災の再発を防ぐには、作業環境や手順の見直しももちろん重要です。しかし、それ以上に大切なのは**本人の「自覚」**です。

「自分はまだまだ大丈夫」「前もこれでやってきた」
その思い込みが、安全配慮を形骸化させ、次の事故を招いてしまいます。

とはいえ、「あなたはもう危ないから前線には戻さない」と伝えれば、本人の誇りを傷つけ、反発を招くおそれもあります。
大切なのは、「否定する」のではなく、「一緒に考える」スタンスで、“気づき”を引き出すことです。


第3章:5 Whys(なぜなぜ分析)を活用した面談の実践

そこで有効なのが、**トヨタでも活用されている「5 Whys(なぜなぜ分析)」**です。事故の原因を掘り下げていく中で、本人自身が「もう若くない」「体力が落ちてきた」と自覚できるようになります。

例えば、こんなふうに進めます。

なぜ事故が起きたのか?
→ 足元を見ておらず、滑って転倒した
なぜ足元を見ていなかったのか?
→ 急いでいて、注意が散漫になっていた
なぜ急いでいたのか?
→ 作業が遅れていたと感じていた
なぜ遅れていたのか?
→ 最近体が重くて、動きが鈍くなってきた
なぜ体が重いと感じるのか?
→ 年齢のせいか、疲れやすくなっている

このように、自分で原因に気づき、自分の言葉で言語化することで、「もう以前と同じようには働けないのかもしれない」という現実を、自然に受け入れやすくなります。

私の事務所ではこの5 Whysを面談用の「ヒアリングシート」として活用しています。事故の振り返りだけでなく、今後の働き方を一緒に考える材料としても有効です。


第4章:「できない」ではなく「新しい役割」で活かす発想

再発防止のために配置転換を提案する場合、それを「戦力外通告」と受け取られてしまっては逆効果です。大切なのは、「あなたにはまだ職場に必要な役割がある」というポジティブな伝え方です。

たとえば、こんな提案ができます。

  • 若手の安全指導役として、声かけや確認の担当をしてもらう

  • 現場作業の前後に関わる準備・清掃・帳票整理などを担ってもらう

  • 現場作業の“見守り役”として、リスクが高まるタイミングを察知してもらう

本人が「自分はまだ貢献できる」と実感できれば、納得感も高まり、会社との信頼関係も維持できます。


まとめ:働かせ続けるために、あえて“変わる”提案を

高齢社員が起こす労災は、本人の命だけでなく、会社の安全体制や信頼にも影響を与えます。

だからこそ、**再発防止は「会社の責任」**であり、そのために必要な変化を伝えるのは「誠実な対応」でもあります。

大切なのは、「もう無理です」と切り捨てるのではなく、“どうすれば安全に、無理なく働き続けられるか”を一緒に考えること。

その対話のきっかけとして、5 Whysを活用したヒアリングは非常に有効です。

もし、この記事を読んで「自社でも取り組みたい」と思われた顧問先のみなさまには、無料で5 Whysのヒアリングシート(Word形式)をご提供しています。お気軽に杉山事務所(℡ 0985-36-1418)にお電話してください。ぜひ、安全な職場づくりにお役立てください。

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