“作業”じゃなく“仕組み”で勝つ!医療現場の様式9号自動化計画
杉山 晃浩
第1章:なんでこんなに面倒なの?様式9号にまつわる現場の“あるある”
「今月もまた様式9の締めかぁ…」「あれ?この人、夜勤だったっけ?」「中抜けの時間がわからない…」
これは、私がこれまで医療機関の方々とお話ししてきた中で、最もよく耳にする“様式9号あるある”です。
看護職員の配置状況や勤務実績を正確に記録し、診療報酬の基準に合致していることを証明するための「様式9号」。制度上は重要ですが、その作成には現場の多大な手間と神経を要します。
◼︎ “現場泣かせ”の理由とは?
多くの医療機関では、以下のような流れで様式9号が作成されています:
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タイムカードや勤務表から勤務実績を転記
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各日の夜勤・日勤の勤務形態を手作業で分類
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中抜けや外来応援、手術室勤務など、病棟外での業務時間を確認
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勤務時間を8時間・16時間で換算して手入力
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集計した勤務時間を看護配置基準に照らして適合判定
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様式に沿ってフォーマットに手書きまたはExcel入力
この過程の中で、特に多いのが以下のような“つまずきポイント”です:
よくある悩み | 背景や原因 |
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「中抜け時間が正確に記録されていない」 | 外来応援や会議出席などの情報が別帳票だったり、未記録だったりする |
「手書き勤務表とタイムカードの内容が一致しない」 | 記録方法が統一されておらず、判断に迷うケースがある |
「誰がどこで何をしていたかが不明確」 | 看護師の兼務が多く、配置記録が複雑化している |
「月末が近づくと担当者が1人で残業」 | 属人化と確認不足による時間的プレッシャー |
◼︎ 書類作成ではなく“業務の証明”
様式9号は単なる作業ではありません。
これは、医療機関が診療報酬を正しく受け取るための「勤務証明」であり、厚生労働省に対して自院が基準を満たしていることを示す重要書類です。
一方で、現場の看護師や事務職員からすると、「複雑なルールに対応しながら、日常業務とは別のレイヤーで“書類作成業務”が存在している」と感じられてしまいます。
◼︎ だからこそ、“仕組み”で守りたい
この章の最後にお伝えしたいのは、
「現場が頑張ってなんとか回す」から、「仕組みが支えて余裕が生まれる」へという視点の転換です。
人の手でチェックするからミスが起き、作業が膨らむ。
でも、もしそれが仕組み化され、見える化されていれば?
――それが、第2章でご紹介する「手作業で様式9号を作る工程のすべて」につながります。
第2章:手作業で様式9号を作ると、こんなに工程がある!
医療機関における「様式9号」の作成は、現場の誰かが“気合と根性”で毎月こなしている仕事の一つです。
でも実はその裏側には、意外と複雑で膨大な作業工程が潜んでいます。
私が社労士として医療法人や中小病院の事務職員の方と話していると、
「この作業、誰か代わってくれないかな…」とつぶやく声をよく耳にします。
では、いったい何がそんなに大変なのか?その全体像を一度、整理してみましょう。
◼︎ 全工程を洗い出すと、こんなにある!
手作業で様式9号を作成する場合、以下のようなプロセスが必要になります:
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タイムカードや勤務表の回収
→ 紙ベースやExcelなど、各病棟からフォーマットがバラバラの状態で集まる。 -
勤務実績の確認と入力
→ 出勤日、出退勤時刻、夜勤・日勤の区別を一覧表に入力。 -
中抜け・兼務・外来応援の確認
→ 病棟以外の業務をどこで・何時に・どれだけ行ったかを手作業でチェック。 -
実働時間の換算と分類
→ 各勤務を「8時間換算(1日分)」「16時間換算(2日分)」に割り振る。 -
日別・職種別の集計
→ 看護師・准看護師・看護補助者別に、日毎の勤務時間と人数を集計。 -
配置基準(7対1、10対1等)に沿った判定
→ 医療機関ごとの施設基準を満たしているかを確認。 -
転記・提出用フォーマットへの記入
→ 厚労省の様式に沿って、日ごとの人員数と勤務時間を記載。 -
ダブルチェック・修正対応
→ 看護師長や事務長によるチェックを経て、誤記を修正。
◼︎ 属人化・確認漏れ・やり直し…
この一連の作業の中で、特に問題になりやすいのが「属人化」と「情報の分断」です。
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中抜けの情報は、口頭報告や別の記録用紙にしか残っていない
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人事や看護部と情報共有がうまくできず、最新の職員異動が反映されていない
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表計算ソフトの数式ミスで、集計がズレていた
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月末間際の作業集中で、担当者が毎回残業
つまり、ミスが起きやすく、修正も大変、そして精神的にも疲弊するというのが現場の実情なのです。
◼︎ 一言で言えば、「人力集計の限界」
人の目と手で確認しなければいけない工程が多く、どうしても**“人にしかできない”作業が多すぎる状態**になってしまっています。
でも、これを「仕組み」によって再構築することができれば、話は変わります。
次章では、いよいよそのカギとなる【クラウド勤怠・RPA・集計支援ツール】についてご紹介します。
第3章:そこで注目!“仕組み化”で一気に変わる3つの視点
前章でお伝えしたように、様式9号の作成は現場任せ、人任せのままだと、「時間」と「人材」と「正確性」の3つが失われていく構造になっています。
では、その負担を減らし、正確性とスピードを両立させるには何が必要なのか?
キーワードは、**“仕組み化”**です。
ここでは、作業負担を劇的に軽減するための3つの注目ポイントを、社労士の視点からご紹介します。
✅ 視点①:勤怠データの“正確な取得”と“リアルタイム化”
これまでは「紙の勤務表」や「タイムカードの転記」で情報を得ていたものが、
クラウド型の勤怠管理ソフトを使えば、打刻と同時にリアルタイムでデータ化されます。
例えば、
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日勤・夜勤・中抜け・外来応援などのパターンを、事前にシステム上に設定しておく
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モバイル打刻やICカードで、どこで勤務しているかが可視化される
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異動や雇用区分の情報もマスタで一元管理され、常に最新状態
このように、「入力のための確認作業」から、「自動取得と活用」へ変えることができるのです。
✅ 視点②:中抜け・兼務の“自動識別”による抜け漏れ防止
医療機関において特に厄介なのが、中抜け(外来応援・委員会など)や兼務(手術室と病棟掛け持ち)です。
ここが漏れると、様式9号の正確性が揺らぎます。
そこで有効なのが、業務エリアごとの打刻管理や、日報システムとの連携です。
例えば…
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打刻時に「どの部署で勤務していたか」を選択入力
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看護日誌のデジタル化により、兼務・中抜けの履歴が連動して勤怠データに反映される
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実際の業務内容に基づいた稼働時間が、自動的に「病棟勤務時間」として抽出される
これにより、「あとで確認して転記」という二重作業がほぼゼロになります。
✅ 視点③:様式9号形式への“自動転記”と“算定基準の即時判定”
多くの勤怠管理ソフトや医療向け業務支援システムには、様式9号テンプレート対応の出力機能が搭載されています。
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勤務時間と勤務者数を自動で算出
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「夜勤職員の平均配置」などもリアルタイムで可視化
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計算結果が、厚労省様式のExcelに直接反映
さらに、施設基準をクリアしているかどうか、警告アラートや達成率表示が可能なツールもあります。
こうしたシステムを導入することで、チェック作業そのものが“システムの役割”になり、担当者は判断と最終確認に専念できるのです。
◼︎ 「人を支えるのは人」だけじゃなく「仕組み」もある
医療の現場は人が支えている――これは真理です。
しかし、その“人”を守るためには、仕組みもまた必要です。
作業の一部を仕組みに任せ、空いた時間で患者と向き合う時間を確保する。
それこそが、現場の働きやすさにもつながるのではないでしょうか?
次章では、いよいよこの“仕組み化”の具体例として、クラウド勤怠システムやRPAの導入による変化について解説します。
第4章:クラウド勤怠・RPA・連携システムが変える“未来の様式9号”
これまでの章で、様式9号の作成がいかに煩雑か、そして“仕組み化”によってどこがどう変えられるかをお伝えしてきました。
では、実際にその仕組みを作るには、どんな道具=ツールが必要なのか?
ここでは、社労士の視点から、**おすすめのクラウド勤怠管理ツールと自動化の仕組み(RPAやExcel連携)**をご紹介します。
✅ クラウド勤怠管理ツールで“出退勤+業務内容”を可視化する
まず最も重要なのが、勤怠情報の自動取得と分類ができること。
📌 例:KING OF TIME(キンタイオブタイム)
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打刻だけでなく、勤務区分(夜勤・日勤など)を事前設定しておける
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打刻と同時に“どこで勤務していたか”も選択できる機能がある
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結果はCSV出力可能。これをExcel様式9テンプレートに連携できる
📌 例:ジョブカン勤怠管理
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複数拠点、複数職種に対応。医療・介護業界での導入実績多数
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スマホ打刻・ICカード打刻ができ、リアルタイムでデータ収集
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中抜け管理や休憩控除設定も細かく対応可能
✅ RPAツールで“転記作業”や“月次レポート作成”を自動化する
RPA(Robotic Process Automation)を活用すれば、勤怠データを使った**様式9号への転記作業を“自動化”**することも可能です。
🛠 RPAでできること
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勤怠管理ソフトから出力したCSVをExcelテンプレートに貼り付け
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夜勤・日勤・兼務者を自動で分類し、様式9の各日欄に転記
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不足日や基準未達日にはアラートを表示
RPAは「プログラミング不要」で使えるツールもあり、小規模な医療法人でも導入しやすくなっています。
✅ 電子カルテや日報ツールと“情報連携”すれば、さらに強固に
最近では、以下のような連携も進んでいます:
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看護日誌アプリと勤怠システムをAPI連携し、中抜け記録を自動吸い上げ
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電子カルテの患者情報と勤務シフトを連携し、「どの病棟で勤務したか」を裏付け
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月末の様式9号チェック項目を自動で抽出・一覧化し、上長確認もスムーズに
これにより、「人が書いて、人が確認して、人が修正する」工程が一気に減り、業務時間が大幅に短縮されます。
✅ 投資は“人の時間”を買うためのもの
「でも、クラウドシステムやRPAの導入って高そう…」
そう思うかもしれません。ですが、それは“時間”と“安全”を買う投資です。
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担当者の残業が毎月5時間減れば?
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ミスで返戻された診療報酬がなくなれば?
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一人が休んでも、他の人が業務を引き継げる体制になれば?
さらにこの投資には、助成金という味方もいます。
次章では、この仕組み化を後押しする「厚生労働省の助成金制度」についてご紹介します。
第5章:時間短縮だけじゃない!助成金で“自動化”を支援する制度とは
クラウド勤怠管理ソフト、RPA、自動化テンプレート…
「仕組み化」のイメージはついてきたものの、やはり次に気になるのは導入コストではないでしょうか。
特に中小規模の医療機関にとって、「すぐに投資するのは厳しい」「上層部の理解が必要」というのはよくある声です。
でも実は、この“仕組み化”にかかる投資を後押ししてくれる制度=助成金があるのです。
✅ 1. 業務改善助成金(厚生労働省)
📌 概要:
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生産性向上のための設備投資やシステム導入費用の一部を補助
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中小企業が事務作業を省力化し、労働時間を削減することを目的としている
📌 ポイント:
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勤怠管理システムの導入、RPAの導入も対象になるケースあり
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条件として、事業場内の最低賃金の引き上げ計画を提出する必要がある
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最大で600万円(コースにより変動)
📌 活用例:
Aクリニックでは、KING OF TIME導入とRPAによる様式9号作成補助を同時導入。
業務時間を月30時間削減し、業務改善助成金100万円超を受給。
✅ 2. IT導入補助金(中小企業庁)
📌 概要:
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中小企業がITツールを導入する際に、その購入・導入・設定費用の一部を補助
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対象はクラウドソフト、SaaS、セキュリティ製品など多岐にわたる
📌 ポイント:
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「IT導入支援事業者」として登録されているベンダー製品が対象
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2025年度は補助率 1/2〜3/4、最大450万円程度
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勤怠管理システム(例:ジョブカン、AKASHIなど)も補助対象になる可能性大
✅ 3. その他の補助金・支援策
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地方自治体による中小病院のIT化補助制度
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中小企業診断士や社労士による申請サポート制度
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地域医師会・看護協会と連携した導入補助スキームも存在
✅ 「助成金ありき」ではなく「働き方の見直し」が本質
ここで大事なのは、「助成金をもらえるから導入しよう」ではなく、
“人の時間を取り戻すために何が必要か”を考えることです。
助成金はあくまで“仕組み化の第一歩”を後押しする制度。
様式9号という業務を起点に、業務改善・人材定着・時間の有効活用へと繋げていく視点が重要です。
✅ 社労士ができること
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適用可能な助成金の診断
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勤怠システム導入に関する労務設計の支援
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様式9号作成フローの見える化・標準化のアドバイス
このような支援を通じて、私は“制度を使って、制度を楽にする”という好循環を広めていきたいと考えています。
第6章:“作業”から卒業して、“仕組み”で守る現場力
毎月やってくる「様式9号」の締め処理。
看護部や事務部の誰かが残業して、紙やExcelとにらめっこして、時間をかけてミスを恐れて、やっとの思いで提出する――
そんな日々を、当たり前だと思っていませんか?
ですが、私たちが今生きているのは、業務のデジタル化・自動化が日進月歩で進んでいる時代です。
「様式9号だから仕方ない」「看護記録は手でやるしかない」――本当にそうでしょうか?
✅ “人が頑張る”から、“仕組みが支える”時代へ
制度やルールのために、現場の人が疲弊するのではなく、
制度に合わせた“仕組み”を整えることで、現場の人を守る。
その転換点に、いま私たちは立っています。
● 勤怠管理ソフトでリアルタイムにデータを取る
● RPAで転記作業を自動化する
● 中抜けや兼務を可視化し、集計ミスをなくす
● そして、それらの投資には助成金という強力なサポートもある
それらは決して「夢物語」ではなく、すでに多くの医療機関が現実に始めていることです。
✅ 「現場力」は、“余白”から生まれる
医療の質を高めるには、「集中できる環境」「考える時間」「声を掛け合う余裕」が必要です。
その余白を生むためにこそ、“作業”は最小化すべきです。
そして、その余白をつくるための“見える化”と“標準化”は、社労士が最も得意とする分野でもあります。
✅ 社労士としての願い
私は、制度のプロとして、数字やルールに強いだけでなく、
「現場にとってこの業務はどう見えているか?」ということにも常に関心を持っています。
● 業務効率化の仕組みを一緒に整えること
● 働き方を可視化し、無駄を取り除くこと
● 人を守る制度設計を、共に考えること
これらを通じて、“様式9号にかかる時間”が、“患者と向き合う時間”に変わっていく。
その未来を、私は心から応援しています。
✍ おわりに:変革の第一歩は「気づくこと」
このブログをここまで読んでくださったあなたは、
すでに「今のやり方を変えたい」「もっとよいやり方があるはずだ」と気づいておられるはずです。
その気づきを、ぜひ次の一歩につなげてください。
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情報収集からでもいい
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見積もりをとってみるでもいい
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社労士に相談してみるのも、大歓迎です
「作業」に追われる日々から卒業して、「仕組み」で守る医療現場を、一緒につくっていきましょう。
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