なぜ不支給が急増?障害年金審査“厳格化”の裏側に迫る

杉山 晃浩

第1章 障害年金とは? ─ 制度の基本と役割

障害年金とは、病気やケガにより働くことが困難になった方の生活と医療を支える、国の大切なセーフティネットです。日本の公的年金制度には「老齢年金」「遺族年金」「障害年金」の3本柱がありますが、その中でも障害年金は、現役世代が事故や病気で収入を絶たれたときに頼る重要な制度です。

支給対象は、初診日に公的年金に加入しており、かつ一定の納付要件を満たしていること。そして、障害認定日や診断書の内容に基づいて、1級~3級(または等級非該当)の判定が下されます。

支給額は等級によって異なり、特に障害基礎年金1級の場合、年間で100万円を超える支給もあるなど、生活の柱としての役割を担っています。


第2章 不支給急増の衝撃 ─ 報道が伝えた“異変”

2025年4月28日、共同通信が報じたニュースが大きな波紋を呼びました。

「障害年金を申請して不支給となった人数が、前年度の約2倍に急増し約3万人に達した」
「6人に1人が不支給とされ、過去最大の割合に」

この報道に、多くの当事者や関係者が動揺しました。障害年金は命綱です。その支給が“例年より倍増”する形で拒否されたとなれば、深刻な問題として受け止めざるを得ません。

一方で、厚労省や日本年金機構が正式に「審査基準を変えた」と発表したわけではありません。制度自体に変更はないというのです。では、なぜ不支給がこれほどまでに増えたのでしょうか?


第3章 「センター長交代」がもたらした波紋

障害年金の審査業務は、日本年金機構の「障害年金センター」が担っています。各地の年金事務所で受け付けられた申請書類(主治医の診断書など)は、このセンターに集約され、職員が事前に審査。その後、委嘱を受けた医師(判定医)が最終判断を下す流れです。

このセンターにおいて、2023年10月にセンター長が交代。その後、センター内で審査の運用が大きく変化したという指摘が報道されています。新たに就任したセンター長は、審査書類の形式や要件に対して厳格な姿勢を示し、職員が判定医に対し低い等級や不該当を提案するケースが増えたというのです。

センター長本人は「審査を厳しくするように指示したことはない」と取材に応じていますが、職員の証言や審査結果のデータを見れば、運用に変化が生じたことは否定できない状況です。


第4章 「基準は変わっていない」のに、なぜ通らないのか?

厚労省や日本年金機構は、「審査基準そのものに変更はない」としています。たしかに、公式に発表された基準や運用指針に明確な改定は見当たりません。

しかし、実務の現場では明らかな“審査の厳格化”が進んでいるのです。特に精神疾患や発達障害に関する申請において、「等級が下がる」「不該当となる」事例が急増しています。

例えば、重度のうつ病で会話も困難な女性が2級相当の診断書を提出して申請したにもかかわらず、結果は不該当。理由は「抗うつ薬の処方がない」というものでした。しかしその方は、過去の過量服薬の経緯から一時的に薬を中止していただけでした。

また、食事が取れるようになったというわずかな回復傾向が「生活できている」と判断され、深刻な障害状態が見落とされたという事例もあります。

このように、書類の一部分だけを取り上げて「支給不要」と判断される傾向が見られ、「本当に困っている人が弾かれる」という不安が現場で広がっています。


第5章 “書類だけ”では伝わらない ─ 審査現場の見えない壁

障害年金の審査は、「診断書」と「病歴・就労状況等申立書」が中心となります。しかし、これらの書類だけで当事者の実情がすべて伝わるとは限りません。

特に精神障害の場合、生活上の困難さが「見えにくい」ため、医師の診断書に書かれていないと、それが存在しないかのように扱われてしまうケースもあります。

最近では、審査後に医師へ追加照会を行ったり、カルテ開示を求めるケースが増えています。これは一見すると丁寧な確認に見えますが、申請者側にとっては「疑われている」ように感じるものです。

ある社労士は「カルテの中の“外出した”という記録だけが取り上げられて、『社会生活に支障なし』と判定された」と語っています。

つまり、良い面ばかりが拾われ、悪い面や困難さが反映されにくい構造ができつつあるのです。


第6章 社労士としてできること ─ 不支給を防ぐための備え

このような現状において、申請者やその家族ができることは限られているように思えるかもしれません。しかし、備えと工夫によって不支給のリスクは軽減できます。

まず、診断書を医師に依頼する際には、「生活上の困難さ」を具体的に伝えることが重要です。また、「病歴・就労状況等申立書」では、数字や日常の具体的な場面を入れて、実態を可能な限り丁寧に説明しましょう。

そして何より、早い段階から社会保険労務士に相談することです。専門家の視点から書類をチェックし、医師への説明内容を一緒に整理することで、認定の可能性を高めることができます。

仮に不支給となってしまっても、審査請求や再申請などの手段があります。「ダメだった」で諦めず、制度の中で次の一手を探ることが大切です。


最終章 “属人的審査”をどう乗り越えるか ─ 信頼される制度に向けて

今回の件で浮かび上がったのは、「制度は変わっていない」としながらも、担当部署の人事ひとつで審査結果が大きく変わるという事実です。

これは、制度の根幹である“公平性”を揺るがすものです。そして同時に、現場にいる私たち社労士にとっても、大きな課題を突きつけられた形になります。

障害年金は、生きるための制度です。だからこそ、誰がどこで審査しても同じ結果になるような、透明で信頼性のある運用が求められます。

私たち専門家は、そのための橋渡し役でありたいと願っています。

「どうせ通らない」とあきらめる前に、一度ご相談ください。制度の隙間に落ちないよう、できる限りの支援をいたします。

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