社労士が警鐘!障害年金申請の正しい知識と落とし穴 第2回:もらえる条件をわかりやすく!初診日・納付要件・障害等級・20歳前障害
杉山 晃浩
はじめに
前回は、障害年金と障害厚生年金の基本についてお話ししました。今回は、「実際にどんな人がもらえるのか」という、具体的な条件を詳しく解説します。
ここを理解することで、自分や家族、周りの方が対象になるかを判断できるようになります。
1. 障害年金のもらえる条件は大きく3つ
障害年金をもらうための条件は、大きく分けて以下の3つです。
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初診日要件
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保険料納付要件
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障害等級(認定要件)
順番に見ていきましょう。
2. 初診日要件 ─「いつの診察が基準になるの?」
初診日要件とは、「その病気やけがで最初に病院に行った日が、年金制度に入っている時期だったかどうか」という条件です。
例えば:
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Aさん(会社員)がうつ病で障害年金を請求 → 初診日が厚生年金加入中 → OK
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Bさん(学生)が発達障害で障害年金を請求 → 20歳前 → 特例(後述)でOK
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Cさん(自営業)が脳梗塞で請求 → 初診日が国民年金加入中 → OK
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Dさん(無年金期間に病気) → 原則NG
ここで注意してほしいのは、「いつの診察が基準か?」という点です。
例えば、腰痛の場合:
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最初の整形外科 → 初診日
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その後の整骨院・整体 → 初診日にならない(民間医療のため)
医療機関のカルテ保存期間は5年なので、古い診療記録は見つかりにくいこともあります。だからこそ、診断書作成のときはカルテや紹介状を確認して、医師とよく相談することが大切です。
3. 保険料納付要件 ─「ちゃんと払っていたか」
次は、保険料の納付状況です。
障害年金は「保険」の一種なので、一定の期間きちんと保険料を納めている必要があります。
主な基準は2つ:
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初診日の前日に、原則として加入期間の3分の2以上の期間で納付済または免除
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または、初診日の直近1年間に未納がないこと(救済規定)
例:
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Eさん(加入期間10年、うち納付7年、未納3年) → OK(7/10=3分の2以上)
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Fさん(加入期間5年、うち納付2年、未納3年) → NG(2/5=未達)
特に20~30代の若い人は、学生時代の未納が多くトラブルになりがちです。申請前に年金事務所で記録を確認しておくことをおすすめします。
4. 障害等級 ─「どれくらいの状態が対象になるの?」
障害等級は1級、2級、3級に分かれています。
(障害基礎年金は1・2級、障害厚生年金は1・2・3級)
◆ 1級
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ほぼ寝たきり、他人の介助が必要
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例:脊髄損傷で車いす生活、全盲
◆ 2級
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日常生活が著しく制限される
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例:統合失調症で外出が困難、両目の視力が0.05以下
◆ 3級(厚生年金のみ)
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労働に制限があるが日常生活はある程度可能
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例:心疾患で重労働ができない、人工関節
大事なのは、「診断名ではなく、状態がどうか」で判断されること。
同じ病名でも軽症なら対象外ですし、重症なら対象になります。
5. 20歳前障害 ─ 知られざる特例
「20歳前障害」は、次の条件を満たすと対象になります。
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20歳になる前に病気やけがで障害状態になった
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現在も障害状態が続いている
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所得制限を超えていない
この特例は、保険料納付要件が不要です。親の扶養下にある学生や子どもにも適用されます。
例:
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先天性の心臓疾患、知的障害、発達障害、難病など
ただし、所得制限があります。年収約460万円(目安)を超えると、全額支給停止になります。
6. よくある誤解と問題点
障害年金の申請では、次のような誤解や問題が多くあります。
誤解1:「働けなくなったら自動的にもらえる」
→ いいえ。本人または家族が自分で請求しなければ支給されません。
誤解2:「診断書を書いてもらえば必ずもらえる」
→ いいえ。診断書だけではなく、初診日証明や納付状況、生活状況の確認が必要です。
誤解3:「社労士に頼めば通る」
→ いいえ。社労士は書類作成や相談の専門家ですが、審査基準を変える力はありません。
7. 不正受給・誤解の問題に触れておく
ここで、どうしても触れておきたい話があります。
社労士の立場から見ると、本当に困っている方の支援はとても大切です。一方で、残念ながら「障害年金が欲しい」と強く思うあまり、対象外の方が何とかして申請しようとするケースもあります。
例えば、軽いうつ状態や腰痛で「なんとか年金が欲しい」と相談に来る方がいて、私たちが医師に問い合わせたところ、「恥を知れ!詐欺の片棒を担ぐのか!」と厳しく叱責されたこともあります。
このような不正や誤解は、制度全体の信用を落とし、本当に必要な人の受給を難しくします。読者のみなさんには、ぜひ「正しい理解のもとで申請する」ことを心がけていただきたいと思います。
8. まとめ:条件を理解して、正しい申請を
今回お伝えしたように、障害年金の条件は複雑ですが、整理すると次のようになります。
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初診日が大事
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保険料納付が大事
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障害の状態が大事(病名ではなく状態)
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20歳前障害の特例も忘れずに
そして何より、正直で正確な申請をすることが、制度を守ることにつながります。
次回は、実際の手続きや必要書類、診断書の書き方のポイントなど、「現場で役立つ実践知識」をたっぷりお届けします。どうぞお楽しみに。
👉 次回予告:「手続き完全ガイド!必要書類・流れ・注意点」