それ、合法ですか? 社会保険料“適正化サービス”の落とし穴に要注意!

杉山 晃浩

近年、「社会保険料適正化サービス」という名前で、企業の社会保険料負担を軽減するとうたうコンサルティングが増えています。「経営改善」「経費削減」という魅力的な言葉で経営者の関心を引きますが、その裏には重大な法的リスクが潜んでいることをご存じでしょうか。この記事では、その手口の具体例と、経営者が知っておくべき注意点をわかりやすく解説します。


第1章:社会保険料適正化サービスとは何か

「社会保険料適正化サービス」とは、企業が毎月支払う社会保険料を合法的に減らすという触れ込みで、コンサルティング会社が提供するサービスです。社会保険料は、従業員の標準報酬月額を基に計算されるため、これをいかに低く抑えるかがカギだという考え方が背景にあります。

本来、社会保険料を減らす方法としては、

  • 給与体系の見直し(役員報酬の調整など)

  • 就業規則の整備

  • 福利厚生の見直し
    など、合法的な手段があります。

ところが近年、問題視されているのは「法の潜脱(脱法行為)」といえる手法を提案するコンサルティングです。


第2章:問題となる手口の具体例

最近の相談例で最も問題視されているのが、以下のような手口です。

4月~6月の間、残業代や各種手当を「仮払金」として支給し、7月に「短期業績手当」として一括で払い出すことで、4~6月の標準報酬月額を低く抑え、結果的に社会保険料を削減するというものです。

一見すると巧妙ですが、このやり方には以下のような重大な問題があります。

  • 仮払金の支払い目的が実質的に労働報酬と同じであれば、標準報酬月額の算定基礎に含めなければならない。

  • たとえ「業績手当」と名前を変えても、実質が固定的な賃金や報酬であれば、報酬として取り扱われる。

  • 就業規則や賃金台帳に「仮払金」「短期業績手当」と記載しても、実態と合わなければ行政調査で否認される。

厚生労働省はすでに通知やQ&Aで、「支給目的や支給実態に基づいて判断する」ことを明確にしており、名称や見かけを変えただけでは通用しないとしています。


第3章:法的リスクと経営リスク

このような手口に手を染めた場合、以下のリスクが生じます。

  1. 健康保険法・厚生年金保険法違反
    標準報酬月額を偽って報告すれば、法違反として罰則や追徴金が課される可能性があります。

  2. 労働基準法違反
    仮払金の扱いによっては、賃金の支払いや賃金台帳の記載義務違反が問われることがあります。

  3. 民事上の不法行為責任
    もし従業員や取引先が損害を被れば、損害賠償請求の対象になる可能性があります。

  4. 会社の信用失墜
    行政調査や報道によって、社会的信用が失われ、取引先や採用活動に悪影響を及ぼすことがあります。

  5. コンサル会社は責任を取らない
    こうしたサービスを提供するコンサル会社は、契約書に「経営判断による導入」と明記し、何か問題が起きても責任を負わない体制を取っています。つまり、すべてのリスクは企業側が負うことになります。


第4章:なぜ経営者が引っかかってしまうのか

中小企業の経営者は、常にコスト削減に頭を悩ませています。社会保険料の負担は年々増し、「何とか軽減できないか」との悩みは深刻です。そこに、「合法的に削減できます」「リスクはありません」と甘い言葉をささやかれれば、つい耳を傾けたくなるのも無理はありません。

しかし、経営者として大切なのは、目の前の「小さな得」ではなく、長期的な企業の安定と信用を守ることです。


第5章:経営者が取るべき対応

では、経営者はどう対応すればよいのでしょうか。

  1. 怪しい提案は専門家に相談する
    社労士、税理士、弁護士といった専門家に相談し、法的リスクを確認しましょう。

  2. 就業規則・賃金規程の整備を優先する
    必要な場合は、合法的な範囲で給与体系や福利厚生の見直しを行うことが大切です。

  3. 社内教育を徹底する
    管理職や人事担当者に対し、報酬や社会保険料の基本知識を学ばせることも有効です。

  4. 長期的視点を持つ
    短期的な節約より、長期的な企業の発展を最優先しましょう。


終わりに

社会保険料適正化サービスの中には、真っ当で健全な提案もあります。しかし、明らかに法の網をかいくぐろうとする手法は、経営者の未来を危うくします。「知らなかった」では済まされない時代です。ぜひ、この記事をきっかけに、甘い誘いに耳を貸さず、堅実な経営判断を心がけてください。

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