【第1回】会社を守る!健康診断義務と健康経営のすべて:非正規雇用対応まで徹底解説(全5回シリーズ)

杉山 晃浩

なぜ健康診断が必要か?会社の義務と経営メリットを解説


はじめに

健康診断――それは会社にとって、単なる「義務」で終わらせるにはもったいない重要な取り組みです。

日本では労働安全衛生法により、事業者(会社)は労働者に対して定期的に健康診断を行う義務があります。しかし、現場では「とりあえず健診させておけばいい」「健診費用が負担だ」という誤解も根強く、実施の本当の意味やメリットを深く理解していない企業も多いのが現状です。

本稿では、健康診断の目的や会社が受けるメリット、そして健診の種類や対象者を整理し、経営者や人事担当者が健康診断を「コスト」ではなく「投資」として捉えられる視点をお伝えします。


1. 健康診断の目的 ― 法律と実務の両面から理解する

まず、法律的な観点から整理します。

健康診断の実施義務は、労働安全衛生法(以下、安衛法)第66条に定められています。

健診の目的 内容
労働者の健康の保持・増進 疾病の早期発見、予防、治療につなげる
労働災害の防止 労働者の健康状態に応じた配置や作業管理、過重労働の抑制
就業上の措置の検討 異常所見があった場合に、業務軽減・配置転換・休養の必要性を検討
事業者の法的責任の回避 安衛法や労働契約法上の安全配慮義務を果たし、労働災害や過労死、損害賠償請求のリスクを減少

つまり、健康診断は「従業員の健康のため」であると同時に、「会社を守るため」にも必要な取り組みです。


2. 健康診断を行うことで会社が得られるメリット

会社側の視点では、次のようなメリットがあります。

✅ 法的リスクの低減

健診を怠った場合、労基署からの是正勧告、最悪の場合は50万円以下の罰金、業務上過失致死による刑事責任、民事訴訟などに発展するリスクがあります。法令順守は何よりの「守りの経営」です。

✅ 従業員満足度・定着率の向上

定期的な健診は「社員を大事にしている」というメッセージになります。特に中小企業では、健診の実施が採用や定着率の向上に貢献することがあります。

✅ 生産性の向上

健康診断によって生活習慣病のリスクを把握し、早期対応することで、将来的な病欠・長期休職を防ぎ、生産性を維持できます。

✅ 健康経営の推進

健康診断を入口として、保健指導、メンタルヘルス対策、運動習慣の啓発などを展開することで、「健康経営優良法人」の認定につなげることも可能です。


3. 健康診断の種類と対象者を整理する

一口に健康診断といっても、種類や対象はさまざまです。

健診の種類 対象者 頻度
雇入時健康診断 新規採用の常時雇用者 雇入時1回のみ
定期健康診断 常時雇用者(パート含む) 年1回
特定業務従事者健診 重量物取扱い、深夜業などの特定業務従事者 6か月に1回
海外派遣者健診 海外に6か月以上派遣される労働者 派遣前・帰国時
特殊健康診断 有機溶剤、鉛、特定化学物質、粉じん作業者 業務ごとに異なる

✅ 非正規雇用者は対象か?

  • パート・アルバイトも、所定労働時間が正社員の概ね3/4以上であれば対象。

  • 短期雇用(1か月未満や日雇い)は原則対象外だが、反復契約される場合は対象になることがあります。


4. 中小企業が直面しやすい誤解や課題

中小企業では次のような誤解が散見されます。

  • 誤解1:パートやアルバイトには健診義務がない
     → 正社員の3/4以上働く場合は義務あり。

  • 誤解2:特殊健診は大企業だけの話
     → 印刷業、塗装業、建設業、クリーニング業などにも該当する場合あり。

  • 誤解3:健診はやって終わりでOK
     → 異常所見があれば意見聴取や就業措置が必要。

  • 誤解4:健診はコストでしかない
     → 実は、労災防止、採用定着、健康経営につながる投資。


5. 健康診断を経営に生かす視点

健康診断を「義務」から「経営戦略」へ進化させる視点は以下です。

考え方 実践例
健診結果の活用 高血圧や糖尿病リスク者に産業医が生活習慣改善を助言する
メンタルヘルス対策 ストレスチェックと連動させ、心身の不調者を早期把握する
健康経営の展開 保健指導、運動プログラム、食事指導を取り入れ、健康経営優良法人を目指す

6. 経営者・人事担当者へのアクション提案

✅ 業務一覧と労働者区分を整理し、対象者を明確化する
✅ 契約している健診機関や産業医と相談し、最適な健診プランを作る
✅ 健診後の結果通知、意見聴取、就業措置までのフローを整備する
✅ 健康経営の入口として、健診を社内周知する


まとめ

健康診断は、会社にとって単なる義務ではありません。
従業員の健康を守り、労災や離職、損害賠償リスクから会社を守る「保険」であり、
採用力や生産性、ブランド力を高める「攻めの経営ツール」でもあります。

次回の第2回では、「健康診断をしないとどうなるのか?」を深掘りし、
具体的な判例やリスク、そして健診拒否社員への実践的対応をお伝えします。

シリーズ全5回、ぜひお楽しみにしてください。

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