【第4回】会社を守る!健康診断義務と健康経営のすべて:非正規雇用対応まで徹底解説(全5回シリーズ)

杉山 晃浩

健康診断実施後の措置 ─ どのような措置が必要か、怠ったら最悪どうなるか?ストーリー仕立てで解説


はじめに

健康診断を終え、医師の意見も聴取し、いよいよ会社として最終段階の「措置」を講じる段階になります。
しかし、ここで「特に何も変えなくていいだろう」と油断してしまう企業は少なくありません。

本稿では、必要な就業措置の具体例と、それを怠った場合に起こりうる最悪のシナリオをストーリー形式でお伝えします。


1. 健康診断後の措置の基本ルール

健診後、異常所見がある社員に対して、会社が取るべき基本的な流れは次の通りです。

ステップ 内容
医師意見聴取 異常所見者について、産業医・嘱託医・地域産保センターから就業上の助言を受ける。
就業措置の決定 医師の助言を踏まえ、労働時間の短縮、業務内容変更、配置転換、残業制限、休養指示などを検討する。
社員への説明 本人に措置内容を説明し、納得感を得る。必要なら家族にも共有(本人同意のもと)。
社内調整 上司・同僚と業務調整、必要に応じマニュアル・役割分担見直し。
記録・保存 措置の経緯、決定内容、実施状況を記録し、5年間保存。

2. 具体的にどんな措置が考えられるか?

以下のようなケース別に整理します。

高血圧・心疾患リスクの場合

  • 長時間労働の制限

  • 重労働や夜勤の回避

  • 定期的な通院の許可

  • 職場内のストレス負担の軽減

糖尿病リスクの場合

  • 食事管理や休憩時間の調整

  • 勤務中の水分補給・血糖測定許可

  • 運動習慣の推進、ジム補助金の提供(健康経営の一環)

メンタルヘルスリスクの場合

  • 業務量の調整

  • 定期的な面談・カウンセリング

  • 時差出勤やテレワーク導入


3. ストーリー:措置を怠った会社の最悪の結末

――主人公:A社 総務部長 山田さん(52歳)

A社では、毎年健康診断を実施し、医師から意見聴取も行っていた。
だが、毎年の産業医からのアドバイスはこうだった。

「この方は血圧が高めなので業務量を減らす工夫を」
「この方は心電図に異常があるので夜勤を外してください」

山田さんはこう考えていた。

「うちは中小企業だし、そこまでできない」
「そもそも本人たちも元気そうだし、やる必要ある?」

そんな折、営業部の中堅社員Bさん(45歳)が社内で倒れた。
救急搬送され、診断は「脳出血」。
緊急手術の末、Bさんは一命を取りとめたが、後遺症が残った。

後日、労基署の調査が入り、次の事実が明るみに出た。

  • 健康診断で高血圧を毎年指摘されていた

  • 産業医から夜勤制限の指導が出ていた

  • 会社は一切対応せず、夜勤・残業を続けさせていた

結果として:

  • 労基署 → 是正勧告

  • 遺族 → 安全配慮義務違反で損害賠償請求

  • 会社 → 5000万円の和解金を支払い、経営危機

山田さんはこう語った。

「医師の助言を“報告書”としてしか見ていなかった。
 まさか命に関わるとは思わなかった。」


4. なぜ措置を怠ると会社は責任を問われるのか?

規定根拠 内容
労働契約法第5条 使用者は労働者の安全に配慮する義務を負う。
労働安全衛生法第66条の4 健診後、医師の意見を聴き、必要な措置を講じなければならない。
民法第415条 義務を怠ったことで損害が生じた場合、損害賠償責任を負う。

つまり、健診後の対応は法律上の“努力義務”ではなく、
明確な義務なのです。


5. 中小企業向け「最悪を防ぐ5か条」

  1. 健診結果は放置しない。必ず管理職に共有する。

  2. 産業医・地域産保センターの助言を真摯に受け止める。

  3. 就業規則に就業措置のルールを明記しておく。

  4. 社員本人と面談し、「一緒に守る」という姿勢を示す。

  5. 記録を残し、5年間保存する。


まとめ

健康診断は「やって終わり」ではありません。
本当に大切なのは “健診後” の対応です。

  • 医師の意見を聞く

  • 就業措置を実施する

  • 記録を残す

これらが一つでも欠けると、最悪の場合、
命を奪う、会社を潰す結果につながりかねません。

次回第5回は、非正規雇用者を含めた健康管理と、
中小企業でも始められる健康経営について掘り下げます。
どうぞご期待ください。

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