会社を潰すのは“あの社員”かもしれない ─ 不祥事予防と対応の基本講座 第5回 不祥事対応は“社労士に頼れ” ─ 専門家が関わる意味と安心感 ――自社だけで抱え込まず、“外の知恵”で危機を乗り越える
杉山 晃浩
■ 経営者の不安は「誰にも相談できないこと」
不祥事が発覚したとき、経営者や管理職が最も抱えるのは、 「この問題を誰に相談すればいいのか分からない」という不安です。
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弁護士にいきなり頼むほどではない
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社内では機密保持が難しい
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顧問税理士は法律や労務には明るくない
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知人経営者に相談すると噂が広がるかも
そうして一人で抱え込むうちに判断を誤り、事態が悪化してしまうケースが少なくありません。
■ 社労士は“不祥事の全体像”に関われる専門職
社労士(社会保険労務士)は、「労務管理」「労働法令」「職場環境整備」「就業規則」など、企業と社員の間にある“グレーゾーン”を扱うプロフェッショナルです。
弁護士のような訴訟代理権はありませんが、むしろ日常の現場に即した実務支援に長けており、不祥事対応にも幅広く関与できます。
■ CASE:社労士が入って“好転”した会社の例
ある中小建設会社(従業員18名)では、パート従業員から「上司の指導がパワハラにあたる」との申し出がありました。
社長は当初、「あの人は厳しいけど悪気はないし…」と対応をためらっていましたが、外部に通報される前に顧問社労士へ相談。
社労士が第三者として入ったことで、以下のような効果が生まれました。
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社員ヒアリングが「公正な場」として受け入れられた
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上司にも冷静なフィードバックが可能になった
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ハラスメント防止ガイドラインを整備・周知
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外部相談窓口の設置により、社内の不安が解消
結果として、大事に至る前に問題が沈静化し、社内の信頼感も高まったのです。
■ ただし「何でもやってもらえる」わけではない
社労士が支援できることは多岐にわたりますが、同時に理解しておくべき現実もあります。
それは、 「できることが多い=工数が増える」 ということであり、 「対応範囲が広がれば費用も変動する」 ということです。
■ 作業内容とコストは連動する
たとえば、
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ハラスメント外部相談窓口だけを設置するなら月額〇万円
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不祥事発生時の初動対応(ヒアリング・事実整理・報告)まで含むなら単発で〇万円〜
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年間を通じて制度設計・社内研修・通報対応までフルカバーするなら顧問報酬+オプション対応に
といったように、作業内容の多寡や頻度によって報酬体系も変動します。
■ 「自社のリソースをどう使うか」が鍵になる
ここで企業側が判断すべきは、 「自社の中でどこまで対応できるか?」 という視点です。
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社内に初動対応を担える管理職がいるか?
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定期的な制度見直しが社内で完結できるか?
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外部とのやり取りや通報対応に対応できる中立的な人材がいるか?
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コンプライアンス研修を自社で企画・実施できるか?
こうした問いに対して「難しい」と感じる企業であれば、外部リソースを活用する判断は、決して高くつくものではありません。
■ 「内製」「外注」「ハイブリッド」の選択肢
現代の組織運営においては、次の3つの選択肢があります:
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外注型:社労士など外部専門家に任せて効率化
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内製型:社内体制を育て、徐々に自走型に
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ハイブリッド型:基本は内製、要所は外部に依頼
経営資源、規模、組織文化によって最適解は異なります。
■ 社労士ができる支援の具体例
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初動対応の整理と助言(事実確認、記録整備)
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懲戒手続きの支援と適切な処分案の策定
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就業規則の整備と再発防止策の構築
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外部通報・相談窓口の設置・運用
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管理職・従業員向けのリスク研修・事例教育
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広報対応支援(顧客・取引先向けの説明文案など)
これらは必要に応じて、段階的に依頼することも可能です。
■ 最後に:「自社だけで抱え込まない」という判断
不祥事対応に正解はありません。ですが、間違った判断はたやすく信頼を失わせ、企業の将来を左右します。
だからこそ、社労士のような外部パートナーを、“外の人”ではなく、 “経営リソースの一部”として戦略的に活用することが、現代的な危機管理の在り方です。
■ 全5回のまとめ
回 | テーマ | 主な内容 |
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第1回 | 不祥事が起きる構造 | 組織の盲点と実例紹介 |
第2回 | 未然防止策 | 就業規則・誓約書・教育・採用対応など |
第3回 | 初動対応の実務 | ヒアリング、懲戒、社内外対応の要点 |
第4回 | 制度の“効く化” | 就業規則・行動指針・制度設計の工夫 |
第5回 | 外部連携の重要性 | 社労士の活用とコスト・リソースのバランス |
「何かあったら…」ではなく、 「何かが起きないように」外の力を借りる。
それが、これからの経営に必要な“予防型マネジメント”の第一歩です。