“ほうれんそう”ができない社員たちへ ― 報連相が根づく職場の育て方 【第1回】 「言ってくれればよかったのに…」がなくならない理由とは?報連相できない社員のリアル
杉山 晃浩
はじめに:「ちゃんと言ってくれれば…」の裏にあるストレス
「もっと早く言ってくれれば対処できたのに…」 「どうして勝手に進めてしまったの?」
こんなふうに感じたことはありませんか?
これは、経営者や上司の多くが日々感じているモヤモヤのひとつです。実際に中小企業の現場では、「報告・連絡・相談」、いわゆる“ほうれんそう”がうまくできない社員に対する悩みが尽きません。
今回はその第1回として、「なぜ“ほうれんそう”ができない社員が生まれてしまうのか?」について、現場でよくある具体的な事例を交えながら、一緒に考えてみましょう。
報連相ができない社員の“あるある”行動
まずは、よくある職場の“ほうれんそう不足”の場面から見てみましょう。
ケース1:ミスを隠してしまう
印刷物の発注を担当していた社員Aさん。納期を1日間違えて手配してしまいました。自分でこっそり先方に連絡を取り、なんとかリカバリーできるか試みますが、結局間に合わず。
上司が知ったのは、クライアントからのクレームが来てからでした。
「どうして早く言ってくれなかったんだ!」と怒りたくなる気持ちは、当然のことです。
ケース2:忙しそうな上司に話しかけられない
新人のBさんは、メール対応について不安がありましたが、「上司はいつも忙しそうだし…」と相談できず。自分なりに返信した結果、重要な情報を見落としてトラブルに。
「聞いてくれたらよかったのに…」
でも、本人からすれば「怒られそう」「迷惑をかけたくない」という思いが先に立っていたのです。
ケース3:自己判断で仕事を進めてしまう
中堅社員のCさんは、「いちいち報告するのは面倒だ」と考えており、判断に迷った案件も独断で進めるクセがあります。
今回は、見積もりの金額を“多分これくらいだろう”と過去のデータをもとに決めてしまい、相手先から「話が違う」とクレームに。
「こんなときこそ相談してほしい」
これは、経験年数に関わらず起きうる問題です。
なぜ報連相ができないのか?3つの心理的な壁
これらの事例に共通するのは、「報連相をしなかったことが原因で問題が大きくなった」という点です。
では、なぜ社員たちは報連相をしないのでしょうか?
1. 怒られるのが怖い
一番多いのがこの理由です。
「報告したら怒られる」「ミスを認めたくない」
この気持ちが先に立ち、事態が深刻になるまで黙ってしまう。特に、上司から日ごろあまり感謝や承認の言葉がない場合、この傾向は強まります。
2. 忙しそうで相談できない
「どうせ言っても聞いてくれない」「今、声かけたら迷惑かも」
そう思って、結果的に言わなくなる社員も多くいます。
実際には上司が「なんでも相談して」と言っていても、態度や表情から「話しかけづらいオーラ」が出てしまっている場合があります。
3. 自分でなんとかしようとしてしまう
「迷惑をかけたくない」「自分の責任で処理したい」
という気持ちが強いタイプほど、判断ミスをしてしまうことがあります。
一見すると責任感があるように見えますが、組織としては“独りよがり”のリスクも高いのです。
「相談しづらい職場」には共通点がある
報連相ができない社員を責める前に、実は“相談しづらい職場環境”になっていないかを見直すことが重要です。
以下は、よくある職場のNGパターンです。
・上司の反応がいつも否定的
「なんでそんなこともわからないの?」 「勝手に判断していいって言ったっけ?」
こうした言葉を何度か受けると、社員は報告や相談を“しない”選択をとるようになります。
・忙しさが常に前面に出ている
せかせかしていたり、話しかける隙がない上司だと、部下はいつもタイミングを失います。
「この人に話しかけると面倒そう…」という空気を感じ取るのが人間です。
・相談しても「で、どうしたいの?」と突き返される
一見、主体性を促しているように聞こえるこの言葉。ですが、経験の浅い社員にとっては「相談しても意味がない」と感じさせてしまうことがあります。
報連相は“教えられて初めてできる”行動
ここで大切な視点があります。
報連相は、生まれつき誰でもできるものではありません。
学校でも教わりませんし、家庭でも社会人になるまではなかなか実践の場がありません。
「社会人なら当たり前」と思っているのは、教えられた経験がある側だけです。
報連相ができるようになるためには:
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どんなときに報告するのか
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どこまで連絡すべきか
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誰にどのように相談するのか
といったことを、具体的に教える必要があります。
まとめ:報連相は「人間関係の技術」
報連相がうまくいかない背景には、個人の性格や能力だけでなく、職場の雰囲気や上司の接し方、そして「教わっていない」という事実があります。
「ちゃんと言ってくれればよかったのに…」
この言葉の裏には、言えない理由があることを理解することが、第一歩です。
次回は、報連相を促すための“具体的なルール化・可視化”についてお伝えしていきます。
報連相は“感覚”ではなく“技術”です。職場全体で育てていく文化を、一緒に考えていきましょう。