インフレ時代の退職金制度はこれ!中退共からDCへ切り替えるべき理由とは?

杉山 晃浩

第1章:いま、なぜ“退職金制度の見直し”が必要なのか?

最近、企業経営者の間で「今の退職金制度、このままで大丈夫か?」という声を耳にすることが増えてきました。背景にあるのは、急激には見えなくても着実に進んでいる「インフレ」です。

2022年から続く物価上昇の波は、エネルギーや食料品だけでなく、今後あらゆる生活コストに波及すると見られています。つまり、30年後に同じ1,000万円の退職金が、現在の1,000万円の価値を持たない可能性が高いということです。

そのなかで、退職金制度も「今ある額を確保する」から「将来に備えて育てる」方向へシフトしていく必要があるのではないでしょうか?


第2章:中退共の仕組みと限界 ― 安心だけど、もう時代遅れ?

中退共(中小企業退職金共済制度)は、国が運営し、中小企業でも簡単に退職金制度を導入できる仕組みとして長年利用されてきました。

毎月の掛金は、事業主が1人あたり5,000円~30,000円の中から選び、積み立てます。掛金は全額損金処理でき、さらに国からの助成制度もあるため、導入のハードルは低いのが特徴です。

しかし、その一方で「利回りが年1%程度」と固定されており、インフレが進行する現代においては、将来的な購買力を維持できないという決定的な欠点があります。

30年間、月1万円を積み立てた場合の積立総額は約435万円。運用益を加えても、実質的な退職金の価値は目減りしてしまう可能性が高いのです。


第3章:企業型DCとは?中退共と何がどう違うのか

DC(確定拠出年金)は、企業が従業員のために掛金を拠出し、従業員自らが運用先を選びながら資産形成をしていく制度です。

企業型DCには「Aプラン(月3,000円~55,000円の掛金)」と、給与の一部を使う「Bプラン(選択制DC)」があります。特に中小企業には、シンプルでわかりやすいAのみプラン、またはA+Bの併用型が推奨されます。

中退共との違いは、以下の通りです:

項目 中退共 企業型DC
掛金の出し方 企業が一律に出す 企業+本人が自由に設計可能
運用主体 機構が一括管理 従業員が個別に選択運用
利回り 固定的(実質年1%前後) 市場連動(年3~8%も可能)
給付方法 退職時一括 年金形式、または一時金
インフレ対応 難しい 運用でリスクヘッジ可能

第4章:インフレに強い理由!DC(特にAプラン/A+Bプラン)の魅力

企業型DCの最大の強みは、「運用益がすべて自分のものになる」という点です。インフレが進んでも、市場に連動した運用商品(株式・投資信託等)を通じて、資産価値を保てる可能性が高まります。

例えば、30年間、毎月1万円(年12万円)を積立てた場合、年利ごとに以下のような資産形成が可能です:

  • 中退共(年1%):約435万円

  • DC(年3%):約582万円

  • DC(年5%):約797万円

  • DC(年8%):約1,363万円

単純な掛金の差ではなく、複利運用の効果により、30年後には数百万円の差が出てくるのです。

Aプランの魅力は、月3,000円からスタートできる導入のしやすさにあります。さらに、希望者にはBプランで上乗せも可能。給与の一部をDC掛金に振り替えることで、所得税・住民税・社会保険料の軽減にもつながるという副次効果もあります。


第5章:退職金制度をDCに移行した企業の声(事例紹介)

ある宮崎県内の建設業(従業員20名)は、10年以上中退共を利用してきましたが、物価上昇と従業員の老後不安の声を受けて、企業型DC(A+Bプラン)に切り替えました。

導入後、以下のような成果が報告されています:

  • 若手人材から「企業が将来の生活も考えてくれている」と高評価

  • 税効果により企業の実質負担は中退共とほぼ同等

  • 従業員も毎月1万円前後をBプランに追加し、自発的な老後準備を実現

このように、退職金制度が「採用・定着・財務」の武器になる時代がすでに始まっているのです。


最終章:“退職金制度”は経営戦略の一部へ ― 導入・移行の第一歩とは

中退共が悪いわけではありません。むしろ、多くの中小企業にとって「最初の一歩」として有効な制度でした。

しかし、インフレが常態化し、働き手が将来に不安を感じる今、企業が用意すべき退職金制度は、「安心」だけでなく「成長性」と「選択肢」を備えている必要があります。

企業型DCは、その最有力候補です。

導入の際には、制度設計や導入フローの整備、従業員説明会の実施、投資教育の提供など、外部専門家のサポートが非常に有効です。オフィススギヤマのプランでは社労士・FPが伴走しながら、貴社にとって最適な制度設計をご提案します。

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