中小企業の未来を変えるインターンシップ活用術 ― 採用・育成・業務改善の一石三鳥戦略 第2回:仕事の邪魔?それとも未来への投資?社員が“教える側”になる意味とは

杉山 晃浩

インターンシップ受け入れに対して、現場からよく聞こえてくるのがこんな声です。

「教える時間がない」 「学生に気を使うのが負担」 「正直、戦力にならないから面倒だ」

一見もっともな声にも思えますが、これらはすべて“教えることの意義”を知らないことによる誤解でもあります。第2回では、なぜ社員がインターン生を「教える側」になることが、企業にとって、そして社員自身にとっても大きな価値をもたらすのかを、現場目線で掘り下げていきます。


1.現場の不安は“準備と設計”で払拭できる

インターンシップを受け入れる際に、最初に壁になるのが「社員の心理的抵抗」です。「自分の仕事で手一杯なのに、学生にまで気を配る余裕はない」という声は、中小企業に限らずよく聞かれます。しかし、その不安の多くは、“受け入れ体制が整っていない”ことに起因しています。

たとえば、以下のような準備を事前に行っておくだけで、現場の負担は大きく軽減されます:

  • インターン生向けの1日スケジュールと作業内容のリストアップ

  • 指導担当者のローテーション設計(1人に負担を集中させない)

  • 学生に渡すオリエンテーション資料や振り返りシートの用意

  • 社内でのインターン生受け入れルール(挨拶、服装、行動範囲など)の明確化

「誰が何を担当し、いつどのように教えるのか」が事前に共有されていれば、社員の不満や混乱はぐっと減ります。インターン生の受け入れは、属人的な“その場対応”ではなく、“チームで対応する業務”と捉えることがポイントです。


2.“教える”という行為が社員自身の成長機会になる

インターン生に仕事を教えるという経験は、単なる手間ではありません。むしろ、それは教える側である社員の成長を促す絶好の機会です。

たとえば、普段「なんとなく」やっている作業を言語化することで、自分の仕事を客観視することができます。これは、社員自身の業務理解を深めるきっかけとなり、無意識のうちに業務改善のヒントが得られることもあります。

さらに、インターン生の質問やリアクションは、思い込みや伝達力の弱さを浮き彫りにします。「伝えたつもりが伝わっていなかった」「教える順序が非効率だった」など、社内のコミュニケーション改善にもつながります。

実際、「人に教える立場になったことで、初めて自分の仕事の責任感を持てるようになった」という声は少なくありません。若手社員にとっては、“人に教えられるレベルまで理解する”という経験が、将来のリーダー育成の土台になります。


3.インターン生の存在が職場の“空気”を変える

「インターン生が職場にいる」と意識するだけで、現場の空気は少しずつ変わっていきます。たとえば、

  • 普段より丁寧に挨拶するようになる

  • 机の上や共有スペースが自然と整理整頓される

  • 言葉遣いや態度に気を配るようになる

これは、“他人に見られている”という意識による行動変化であり、いわばインターン生が“社内の鏡”として機能する状態です。これは短期的には接遇力や清掃意識の向上につながり、長期的には社内文化の定着・改善につながります。

また、インターン生の「率直な質問」や「素直な感想」は、社員にとって刺激的であり、「当たり前」だった仕事の価値を再認識するきっかけにもなります。これは日常業務に埋もれていたベテラン社員にとっても、新鮮な気づきをもたらすことがあるのです。


4.“育成文化”が会社の土壌を変える

インターン受け入れを通じて「人を育てる意識」が社内に根づくと、それは単なる人事施策ではなく、企業文化そのものの質を変えていきます。

  • 新入社員のOJTの質が向上する

  • パートやアルバイトにも優しい教え方ができるようになる

  • ノウハウの属人化が減り、組織での共有が進む

  • 後輩を育てようとする姿勢が「当たり前」になる

このように、“育てる職場”は“育つ職場”になります。

社員一人ひとりが「人に教えることは自分の役割」と感じられるようになると、社内の人間関係やチームワークも良好になり、最終的には定着率や業績にも良い影響を与えます。育成文化は、目に見えにくいながらも企業競争力の基盤なのです。


まとめ:教えることは「未来を創る」こと

「インターンシップを受け入れると、現場が大変になる」

そう感じている企業は少なくありません。しかし、そこにこそ大きな成長の可能性が眠っています。社員が“教える側”に立つことは、単なる指導の機会ではなく、自分の成長と会社の未来を築く行為です。

教えることを通じて社員が育ち、育った社員がさらに人を育てる。この好循環が続く職場は、自然と魅力的になり、結果として学生からも選ばれる会社になっていきます。

次回は、実際にインターン受け入れを導入する際の具体的なステップや必要な準備について、わかりやすく解説していきます。

▼ 第3回:「ゼロから始めるインターンシップ受け入れ準備マニュアル【中小企業向け】」

 

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