給与よりも“確定拠出年金”が嬉しい?社員のホンネに応える新しい報酬戦略

杉山 晃浩

第1章:給与アップが“素直に喜ばれない”時代

「社員のために給与を上げたのに、なんだか反応が薄い…」

そんな声を、私たち士業の現場でも頻繁に耳にするようになりました。中小企業の経営者が、会社の利益を社員に還元しようとしたとき、最も一般的なのは「給与アップ」でしょう。しかし、最近ではその“王道”に違和感を覚える経営者や社員が増えているのです。

理由は明白です。給与を上げた分だけ、所得税、住民税、そして社会保険料が跳ね上がるからです。手取りがほとんど増えないというケースもありますし、会社側も同じ額の社会保険料を負担しなければなりません。

これでは、社員も経営者も「割に合わない」と感じてしまうのは無理もありません。


第2章:「給料じゃなくて別のカタチで…」社員のリアルな声

実際、社員の側からもこんな声が上がっています。

  • 「昇給しても手取りが全然増えない」

  • 「保険料も税金もどんどん上がるのに、将来が見えない」

  • 「目に見える福利厚生が何もない会社は、正直魅力を感じない」

これは、給与の“額面”ではなく、“実質的な価値”や“将来への不安”が重視される時代に変わってきている証拠です。

特に20代〜40代の社員は、老後への不安を漠然と感じつつも、日々の生活で精一杯。「貯金をしようと思ってもなかなかできない」という現実に直面しています。

そんな中、「将来のためになる制度」「手取りを減らさず、将来の安心につながる報酬」があるとしたら、社員の心に響かないわけがありません。


第3章:企業型確定拠出年金(DC)とは?──報酬戦略としての本当の魅力

そうした背景の中、いま静かに注目を集めているのが「企業型確定拠出年金(以下、企業型DC)」です。

企業型DCは、企業が社員の将来のために掛金を拠出し、それを社員が個別に運用していく年金制度です。最大のメリットは、その掛金が**給与とは別に支給され、しかも“非課税”**になる点です。

  • 所得税:かからない

  • 社会保険料:かからない

  • 住民税:かからない

  • 会社の損金:全額算入可

つまり、同じ10,000円を社員に渡す場合でも、給与として渡すのと企業型DCとして渡すのとでは、社員の“実質的な受取価値”がまったく違うのです。

ここで、最近ある企業経営者から聞いた生の声をご紹介します。

「頑張って社員に報いたいけど、昇給しても手取りが増えないのでは、社員は喜ばない。だから企業型DCで渡そうと思った。これなら“丸ごと将来の資産”になるし、税金も社会保険料も取られない。」

この言葉には、経営者の悩みと工夫、そして社員を思う気持ちが込められていました。


第4章:ある中小企業の決断──「うちは給与よりDCを選んだ」

ある建設系の中小企業では、慢性的な人材不足と福利厚生の見直しが課題でした。

経営者は「給与アップでやる気を出してもらおう」と思い、昇給を続けてきました。しかし、社員から返ってくるのは、

「いやー、住民税と健康保険料がめっちゃ増えて、手取りが…」

というリアクション。

そこで、社労士である私たちの提案で、全額会社負担の企業型DCを導入しました。

最初は社員も「なんだそれ?」という反応でしたが、金融機関やFPとの説明会を実施し、「税金がかからない」「老後の資産になる」「自分で運用できる」と伝えると、一気に注目度がアップ。

導入から半年後には、社員からこんな声が上がりました。

「自分の将来に、会社が本気で向き合ってくれてるって感じました」


第5章:導入までの流れと注意点

企業型DCは魅力的な制度ですが、導入にはいくつかのハードルがあります。

● 導入には“厚労省の認可”が必要

企業型DCは、国の公的制度の一部です。運営管理機関の選定や規約の作成、社内説明などを経て、厚生労働省の認可を受ける必要があります。
そのため、導入までには半年程度の時間がかかるのが一般的です。

● 設計ミスは命取り。専門家と組むべし

掛金の額、拠出方法(毎月 or 年1回)、退職時の取り扱い、運用商品の説明義務など、設計には多くの専門知識が必要です。
社労士やファイナンシャルプランナーと連携して進めることで、スムーズかつ効果的な導入が可能になります。


第6章:これからの報酬は“見える額”より“活きる価値”

2025年、政治の世界ではこんな発言が注目されました。
立憲民主党の長妻昭議員が、テレビ番組で「高額所得者からもっと社会保険料を徴収すべきだ」と発言したのです。

これはすなわち、「努力して稼げば稼ぐほど、政府にたくさん取られる社会」が、すでに現実味を帯びているということ。
中小企業の経営者にとっても、これは他人事ではありません。

  • 頑張って売上を上げても、税金と社会保険料に持っていかれる

  • 昇給しても社員の手取りが増えない

  • 企業として何をしても報われないような感覚

…そんな時代に、企業型DCは数少ない「攻めの守り」となる制度です。

単なるコスト削減ではありません。
会社のビジョンとして「社員の未来に投資する」姿勢を見せることで、定着率も採用力も上がります。
中小企業こそ、“額面”ではなく“意味”で勝負する時代です。


✅ まとめ:社員のホンネに応える経営が、企業の未来を守る

「給料を上げても喜ばれない」時代に、「社員の将来を守る」企業型DCという選択肢。
これは、搾取される構造への“静かな反撃”であり、社員との信頼を深める報酬戦略でもあります。

もちろん、導入には時間も手間もかかります。
しかし、それ以上に得られるのは、

  • 社員の安心

  • 経営者の納得

  • 会社の未来

です。

今のうちに動き出すことで、半年後、1年後の会社が変わっているかもしれません。

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