「労災保険の休業補償給付」とは? もらえる条件・金額・手続きの基本ガイド
杉山 晃浩
第1章|そもそも「休業補償給付」ってどんな制度?
仕事中にケガをしたり、仕事が原因で病気になったとき、「働けなくなったらどうしよう」「収入はどうなるの?」と心配になりますよね。そんなときに頼れる制度が、労災保険の「休業補償給付(きゅうぎょうほしょうきゅうふ)」です。
これは、働けない間の生活費を一部補償してくれる制度です。会社がお金を払うわけではなく、労働者が加入している「労災保険」から支給されます。
似たような制度に「傷病手当金(けんこうほけんから出る給付)」がありますが、こちらは“仕事以外の病気やケガ”が対象。今回の「休業補償給付」は“仕事や通勤中が原因”であることが前提になります。
第2章|もらえる条件は?申請できるのはこんなとき
休業補償給付を受けるためには、以下の条件をすべて満たす必要があります。
◎ 1. ケガや病気が「仕事か通勤が原因」であること
たとえば工場内での事故、営業先での転倒、通勤途中の交通事故などがこれに当たります。
◎ 2. 医師から「働けない」と診断されていること
単なる軽いケガではなく、「労務不能(ろうむふのう)」と診断されている必要があります。診断書が必要です。
◎ 3. 実際に働いていない(仕事を休んでいる)こと
出勤していたり、在宅で仕事をしていた場合は対象外になります。
◎ 4. 3日間は“待機期間”として、4日目以降が対象
最初の3日間は、労災保険からの補償がありません(ただし、会社が給与を支払うケースもあります)。4日目からの休業分が補償されます。
第3章|いくら、いつまで、どれくらいもらえるの?
気になる支給額についてですが、基本的には次のように計算されます。
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休業4日目以降から支給
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1日あたりの賃金(給付基礎日額)の80%相当が支給される
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内訳:休業補償給付(60%)+特別支給金(20%)
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たとえば、1日1万円の給料があった人が、10日間仕事を休んだ場合(最初の3日間は対象外)、残りの7日間に対して、1日8,000円×7日=56,000円が支給される、という計算になります。
また、支給期間には「上限」は設けられていません。原則として、働けない状態が続いている限り、ずっと支給されます。ただし、実際の状況に応じて医師の診断書が更新されていく必要があります。
第4章|会社と本人でどう申請するの?手続きの流れ
休業補償給付の申請には、「本人の手続き」と「会社の協力」が必要です。以下のような流れになります。
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申請書の準備(労災保険様式第8号)
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労働者本人が記入する欄と、会社が記入する欄があります。
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医師の意見欄を記入してもらう
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通院している病院で、労務不能の診断を書いてもらいます。
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会社が「労働の有無」「賃金の支払い状況」を記入
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どの期間、働いていたか・給与の支払いがあったかを証明します。
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最寄りの労働基準監督署に提出
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提出後、内容が審査され、問題がなければ後日、本人の口座に振り込まれます。
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※月ごとの申請が基本で、1ヶ月単位でまとめて申請することが多いです。
第5章|トラブルを防ぐために知っておきたいポイント
申請の場面では、次のようなトラブルや誤解がよくあります。企業・労働者の双方が制度を正しく理解しておくことが大切です。
● 私病との区別をはっきりさせる
風邪やインフルエンザなど、仕事とは無関係な病気での休業は対象になりません。仕事中に発症した明確な経緯があるか確認しましょう。
● 給料との“二重取り”はNG
たとえば「会社から有給休暇で給料を満額もらっている」場合には、休業補償給付はもらえません。給与の支払いがあった場合は、その分は差し引かれます。
● 記録はきちんと残す
事故の報告、出勤記録、診断書などは、あとからトラブルにならないよう、できるだけ客観的に記録を残しておきましょう。
第6章|まとめ:休業補償給付は“正しく使えば安心の制度”
労災保険の休業補償給付は、働いている人がケガや病気で一時的に働けなくなったときに、生活を支えるための大切な制度です。
支給までにいくつかの手続きや条件がありますが、企業と本人が協力し合いながら進めることで、スムーズに対応することができます。
「これって労災なのかな?」「どうやって申請すればいいの?」と迷ったときは、遠慮せずに杉山事務所や労働基準監督署に相談しましょう。専門家のアドバイスを受けながら、正しく制度を活用することが、働く人を守り、企業の信頼を高めることにつながります。