LGBTQ・トイレ・服装規定…職場の“ジェンダー課題”に人事がどう向き合うか?
杉山 晃浩
第1章|「LGBTQ対応してますか?」と聞かれて答えられますか?
近年、「LGBTQに配慮した職場づくりができていますか?」という問いに、即答できる企業はまだ少数派です。
トイレの使用ルールや服装規定、書類上の性別記載など、「これまで当たり前と思っていた慣習」が、今まさに問われる時代になっています。
「うちは対応してないけど、社員から特に声も上がっていないし…」
そう考えている人事担当者も少なくないでしょう。
しかし、LGBTQやジェンダーマイノリティの社員は、声を上げる前に「諦めている」ことが多いのです。
第2章|よくある職場の“つまずきポイント”5選
職場のジェンダー課題は、法的リスクというよりも「働きやすさ」や「人間関係の安心感」に直結するものです。ここでは、特に相談が多い5つの“つまずき”ポイントをご紹介します。
① トイレの使用ルール
-
男女別の表示しかない
-
多目的トイレの使い方が決まっていない
→ トランスジェンダー社員が「どちらにも入りづらい」と感じるケースが多発しています。
② 制服・服装規定
-
スカート指定の女性制服、ネクタイ必須の男性服装
→ 性自認と合わない服装を強いられることが苦痛になる可能性があります。
③ 採用・昇進時のバイアス
-
履歴書の性別欄記載
-
昇進評価に“男らしさ”“女らしさ”が無意識に影響している
→ 「何となく頼れる感じがするから男性に任せたい」など、曖昧な判断が差別につながります。
④ ハラスメント対応
-
「元〇〇だったんでしょ?」といった無神経な発言
-
問題が起きても相談先が曖昧で、泣き寝入りするケースも
⑤ 社内文書や敬称の使い方
-
通称使用が認められていない
-
メールや社内掲示物で「男・女」しか選択肢がない
第3章|人事担当者が抱きがちな不安と“よくある誤解”
「配慮しすぎると逆に差別になるのでは?」
「対応すればするほど面倒になるのでは?」
実はこれらの不安は、正しい情報が不足していることが原因であることが多いのです。
特に誤解されやすいのが以下の3点です:
-
「LGBTQ対応=特別扱いではない」
→ 安心して働ける環境は、誰にとってもプラスになります。 -
「うちには該当者がいない」=配慮しなくていい、ではない
→ 該当者が“見えていないだけ”の可能性があります。 -
「制度化したら他の社員が不公平と感じるのでは」
→ 説明責任を果たせば、理解は広がります。むしろ明文化されていない方がトラブルのもとです。
第4章|実務でできる3つのはじめの一歩
人事担当者として、まずは小さくても一歩踏み出すことが大切です。次の3つから始めてみてください。
1. トイレ・更衣室・服装のチェックリストを作る
-
「選べる服装になっているか?」
-
「男女に限定されない表記があるか?」
-
「誰でも使えるトイレの表示が適切か?」
2. 就業規則や社内文書の見直し
-
性別欄の表現を見直す(空欄可、通称使用の可否など)
-
性別に依存しない表現(例:「彼/彼女」→「本人」など)
3. 社内に“アライ”をつくる
-
アライとは、LGBTQ+の当事者ではないが理解・支援する立場の人
-
管理職・人事担当者がアライ宣言するだけでも心理的安全性が高まります
第5章|これ1冊で社内理解が深まる──『ジェンダーフリーの労務管理』
このテーマを考える上で、社労士の小岩広宣さんが書いた
『ジェンダーフリーの労務管理』(日本実業出版社)
は、まさに“実務のバイブル”です。
書籍では、次のような切り口で解説が進みます:
-
LGBTQ+の用語や基礎知識(図解あり)
-
トイレ、制服、福利厚生、昇進評価などの課題
-
女性・男性・管理職・経営者、立場別にどう配慮するか
特に印象的なのは、**「もしあなたの職場にトランス女性がいたら?」**という問いかけから始まるページです。
現場で“どう考えるか”“どう対応するか”を、当事者と周囲のリアルな視点で掘り下げています。
第6章|まとめ:制度だけじゃない。「安心して働ける職場」を考えるきっかけに
多様性の推進は、企業ブランディングや採用戦略の一環ではありますが、それ以上に大切なのは、“すべての人が安心して働ける環境”をつくることです。
この本は、その第一歩として、“知ること”の大切さを教えてくれます。
人事として、制度をつくる前に、まず自分の中の前提を問い直すこと。
そして、「知ったうえで、動ける人」になること。
📘 最後に:この1冊を、あなたの職場に
小さな気づきが、職場を変える。
この本が、あなたの職場の“見直しのきっかけ”になりますように。
まずは、1冊。本棚に置くことから始めませんか?