賃金はいつ払えばいい?給与の支払いタイミングと法律違反のリスクとは?
杉山 晃浩
第1章|「給与支払い5原則」とは?──まずは基本を押さえよう
中小企業の経営者や実務担当者から「給料っていつ払えばいいの?」という質問を受けることがあります。
実は、給与の支払いには労働基準法第24条に基づく「5つの原則」が定められており、これを守らないと労基法違反になります。
その原則とは以下のとおりです:
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通貨払いの原則:賃金は、原則として現金で支払うこと(銀行振込は労働者の同意があればOK)
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直接払いの原則:労働者本人に支払うこと
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全額払いの原則:控除の根拠がない限り、全額を支払うこと
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毎月1回以上払いの原則:賃金は毎月最低1回は払うこと
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一定期日払いの原則:支払日はあらかじめ決めておくこと
つまり、「給料日は毎回バラバラ」「勝手に一部を天引き」などは原則NGということです。
第2章|「一定期日払い」って何?──具体的な日数や判例から読み解く
この5原則の中で、現場で見落とされがちなのが「一定期日払い」です。
これは、あらかじめ決めた固定の日に毎月賃金を支払うことを意味します。
例えば、
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毎月末締め・翌月25日払い → OK
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月末締め・翌月「最終金曜日」払い → ❌(日付が固定されていない)
さらに、締日からの支払期日が長すぎる場合も問題になります。
▽ 労働基準法における明確な日数規定はないが…
厚労省通達(昭和63年基発150号)では、
「締切日からおおむね1か月以内に支払うことが望ましい」
とされています。
▽ 判例:東亜ペイント事件(大阪地裁 昭和48年)
この事件では、「賃金の支払いが翌々月20日であったが、それが社会通念上許容される範囲を逸脱している」と判断され、労基法第24条違反とされました。
つまり、翌々月払いは違法と判断されたのです。
第3章|翌月払いはOK?翌々月払いはNG?──資金繰りとのバランスをどう考える
実務上、以下のような給与スケジュールがよく見られます。
締日 | 支払日 | 適法性 | コメント |
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月末 | 翌月10日 | ✅ | 安全圏 |
月末 | 翌月25日 | ✅ | 一般的。ただし遅れ注意 |
月末 | 翌々月10日 | ❌ | 原則NG。労基法違反の可能性大 |
「資金繰りが厳しいから」という理由で翌々月払いを選択する企業もありますが、それは法違反の免罪符にはなりません。
▽ なぜ「1か月以内」なのか?
労働者は働いた分の給与で家計を成り立たせています。
支払いが遅れるということは、生活基盤を揺るがす行為であり、法的にもモラル的にも問題です。
第4章|放置するとこうなる!給与遅配による実際のトラブル事例
■ 事例①:従業員の申告→労基署の調査が入る
ある建設業の会社では、給与が「末締め・翌々月15日払い」という制度でした。
複数の従業員が労基署に申告したことで、調査が入り、是正勧告+社名公表の可能性に発展しました。
■ 事例②:優秀な人材の離職
IT企業で、スタートアップ時から「支払いは翌々月末」という独自ルール。
しかし、家庭持ちの若手エースが住宅ローン審査で“支払遅延”扱いされ、将来を案じて転職してしまいました。
■ 事例③:信用不安が広がり、融資が断られる
地元の信用金庫が融資審査時に「給与支払スケジュール」を確認。
“翌々月払い”の体制を問題視され、融資を保留にされた事例も。
第5章|どうすればよい?健全な給与支払い体制をつくるヒント
では、翌々月払いから脱却するにはどうしたらよいのでしょうか?
■ ステップ1|給与規程・就業規則の見直し
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「支払日は毎月25日とする」など、明確な記載を
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労使協定の締結で対応が必要な場合もあります
■ ステップ2|資金繰りの見直し
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固定費の見直し、支払いサイトの交渉
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資金繰り表を活用し、月内収支の把握を
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必要であれば専門家とキャッシュフロー分析を
■ ステップ3|活用できる制度を検討
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一部の給与ファイナンス(前払い制度)の導入
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業績連動賞与の導入で基本給の安定化
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補助金・助成金での一時的な資金繰り支援
第6章|まとめ:守るべきは「法律」と「従業員の生活」
給与は、労働者にとって単なるお金ではなく、「生活の柱」です。
その支払いが遅れれば、家賃の支払いや教育費などに直接影響が及びます。
✅ 経営者に求められる責任は2つ
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法令を遵守すること(労働基準法)
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従業員の生活を支える責任を持つこと
「資金繰りが苦しいから」という理由での翌々月払いは、従業員を“銀行代わり”にしているのと同じです。
✅ 今すぐチェックしてみましょう!
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締日から支払日まで、1か月を超えていませんか?
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給与支払い規程に「毎月●日」と明記されていますか?
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資金繰りの計画は給与支払い日から逆算していますか?
不安になったらこちらからご相談ください。