「借り上げ社宅で首吊り死」──パワハラの果てに会社が背負った“5つの地獄”
杉山 晃浩
【序章】栗原さんは、なぜ社宅で命を絶ったのか
2025年4月、都心から少し離れた住宅街で、会社が借りていた社宅に住む一人の若手社員が首を吊って亡くなった。
名前は栗原翔太さん(仮名)。28歳。入社5年目の営業職。成績は悪くなかった。人当たりもよく、いつも静かに微笑んでいたという。
しかしその日、出勤予定の時刻になっても連絡がつかず、総務が社宅を訪れた。鍵はかかっていたが、郵便受けには数日分のチラシと新聞。ドアを開けると、部屋の中には異臭と、床一面に広がる青黒い液体の痕。
その場にいた社員は言葉を失った。
警察が到着し、鑑識が入る。現場は騒然となり、パトカーは数台、救急車も待機。
周辺住民は騒ぎを見に集まり、翌日には地域のニュースに。ワイドショーが取り上げたのはさらにその翌日だった。
栗原さんの部屋の机には、一通の遺書が置かれていた。
「上司の山崎課長に、毎日のように責められました。誰にも相談できませんでした。
自分が情けないだけかもしれません。でも、もう限界でした。」
社内には衝撃が走った。
「え、あの栗原くんが?」
「まさか、パワハラがあったなんて…」
だが、現実はもっと厳しいものだった。
栗原さんの死をきっかけに、**会社が背負う“5つの地獄”**が幕を開けることになる。
第1の地獄:事故物件化と原状回復費用の地獄
発見が遅れたことで、栗原さんの身体は腐敗し、体液が床にまで染み出していた。
床材はふやけ、壁の一部も腐食。においは消えず、通常の清掃では対応できない状態だった。
会社は特殊清掃業者を手配し、現場復旧にあたった。
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特殊清掃費用:48万円
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フローリング全面張り替え:62万円
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壁・クロスの張替え、消臭対応費用:28万円
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原状回復費合計:約140万円
会社が借主であり、契約上の原状回復義務は会社にあったため、全額を負担するしかなかった。
第2の地獄:不動産会社からの損害賠償請求の地獄
清掃が終わっても、その部屋は“事故物件”となってしまった。
不動産オーナーからは、以下のような損害賠償請求が届いた。
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今後1年間、借り手がつかないと見込まれることによる家賃補償:6か月分=45万円
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事故告知義務に伴う物件価値下落の損害:30万円
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マンション全体のブランド毀損に関する慰謝料的請求:50万円
→ 合計:125万円
「会社が提供した社宅での自殺であり、精神状態の管理義務があったはずだ」と主張された。
第3の地獄:遺族からの民事責任追及の地獄
栗原さんのご両親は、遺書に記載された「パワハラ」「相談できなかった職場環境」という文言を重く受け止めていた。
弁護士を通じて、会社に対して以下の主張を行ってきた。
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栗原さんが精神的に追い詰められていたことは明白である
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会社には安全配慮義務があるにもかかわらず、何の対応もしていなかった
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適切な相談窓口が設置されておらず、社内の監督体制が機能していなかった
→ 損害賠償請求額:880万円
その後、労基署にも労災申請が提出され、精神疾患に起因する業務上の自殺としての調査が始まった。
第4の地獄:報道・SNSで炎上する“企業イメージ崩壊”の地獄
ワイドショーでは「若手社員の自殺」「遺書にパワハラ」とセンセーショナルに報道された。
社名は伏せられていたが、SNSではすぐに特定された。
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「ブラック企業すぎる」
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「上司の名前は?」
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「就活生は絶対に避けるべき会社」
Googleの口コミ、求人サイト、採用エージェントの評価も軒並み悪化。
新卒採用エントリー数は前年の1/4に激減。
取引先からも「あの件、大丈夫ですか?」と確認が入る始末。
第5の地獄:社内のモラル崩壊と「辞めたい」の連鎖
上司だった山崎課長は、「そんなつもりはなかった」と主張した。
だが、若手社員をはじめとして「実は自分も言われた」「相談しても変わらないと思っていた」という声が次々と噴き出した。
会社は急きょ外部カウンセラーを導入し、全社員への聞き取りを開始。
その中で、「相談しても意味がない空気」が蔓延していたことが明らかに。
結局、山崎課長は異動となり、若手3名が退職。
「こんな職場、信用できない」として、社内の士気は最低まで落ち込んだ。
【終章】“制度”だけでは人は守れない──見直すべきは、仕組みと文化
栗原さんの死は、単なる「ひとりの悲劇」ではない。
会社として、社員が悩みを抱えていることに気づけなかった。
制度があっても、それが機能していなければ意味がない。
借り上げ社宅は、社員にとって安心できる場所であるべきだ。
でも、そこが「命を絶つ場所」になったとき、会社の責任は極めて重くなる。
✅ 社労士から経営者の皆様へ
借り上げ社宅を導入するならば、最低限の対策が必要です
社員の命より重い制度は、ありません。
この記事を読んで、少しでも「うちの会社は大丈夫だろうか」と思ったなら、
今すぐ一歩、動き出していただければと願います。
※本記事はフィクションです。登場する人物や企業はすべて架空のものであり、特定の事件・団体とは関係ありません。
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